まず最初に、CRMとは何かを整理しておく必要がありますね。

CRMが盛んに叫ばれたのは2000年頃で、そのきっかけはアンダーセン・コンサルティング(現在のアクセンチュア)によって1998年に出版された『CRM―顧客はそこにいる』(2001年に増補改訂版が出ています)という本です。

同書におけるCRMは情報システム(IT)を利用し、「顧客データの分析をもとに、顧客を識別し、コールセンターやインターネットなどの新しいチャネルを利用して顧客との関係を深める広義のマーケティング手法」と紹介されています。

当時はワントゥーワンマーケティングと紹介されることもありましたが、顧客ひとり一人に最適化したマーケティング施策を実行し、彼らとの関係性を深め、LTV(顧客生涯価値)を高めることが目的であることは共通しています。
CRMのほうが分析系の意味合いが強く、ワントゥーワンマーケティングはアクション系の意味合いが強いです)

CRMは死んだ?

しかしながらCRMは多くの企業で導入されたものの、売上アップに繋がらない企業も多く、否定的な見方をする人も少なくありません。
なぜCRMは効果が発揮されなかったのでしょうか。

システムだけでは何も解決しない

最大の要因は「CRMシステムを導入すれば問題が解決される」という企業側の誤解です。言うまでもなくシステムはツールに過ぎませんので、それを使いこなす人間がいて始めて成果が生まれるのです。

新規顧客が優良顧客になるまでのシナリオを描き、またその育成パターンの類型化を行ない、状況に応じてきめ細やかなマーケティング策を実践する際にCRMシステムの出番があるわけですが、導入しただけでろくに使われなかったのが現実です。

データ不足で分析精度が悪い

また分析対象のデータが少ないがために、満足な分析ができなかったことも成果に繋がらなかった要因です。

多くの企業では顧客の注文履歴データベースに対してRFM分析を行い、優良顧客を抽出しディスカウントセールなどのDMを送る、あるいは一定期間利用のない顧客を抽出しクーポンつきのDMを送る、といった程度でしか使われてなかったため、高額な導入費用に見合わなかったのが事実です。

またその結果として顧客に対してはSPAMまがいのメールが何通も届くことになり、関係性を深めるどころか、逆効果になっていたケースも少なくありません。

値下げに勝てない

そしてけっきょくのところ多くの消費者は価格だけで簡単にスイッチングしてしまうため、値下げ以上の効果を期待できないことが挙げられます。
そもそもCRMを実現していけば、顧客のリピート率が高まり、CPO(注文獲得単価)が相対的に下がるため、企業の収益性が向上するはずです。

そのためにはCRMシステムとほぼセットで導入されるポイントシステムも、顧客の購買情報を分析してさらに精度の高いマーケティングを実施することにより、ポイント発行による値引き分以上のメリットを享受できるとされていましたが、価格弾力性が高いために前述のデータ不足とあいまって、分析をする意味がないのが実情です。

じっさいには再訪問を促すためのポイント発行にとどまっており、これではただ利益率を圧迫しているだけです。

顧客は囲い込めない

CRMに対する大きな誤解のひとつに、「顧客を囲い込む」ための施策だというものがあります。
しかし自分もひとりの消費者であることを考えれば、消費者は誰ひとり囲い込まれたいとは思っていないことは明らかです。こうした企業のエゴは通用しません。

このような企業の勘違いや環境の問題でCRMが十分に活かされなかったのがこの10年と言えます。

これからのCRM

では本当にCRMは死んだのでしょうか。
ぼくはそうは思っていません。むしろCRMは早すぎたのだと思っています。これからの時代こそCRMワントゥーワンマーケティングの考え方が重宝されると思っています。
その理由として以下の3つがあります。

  • コンピューターの高性能化が進み、複雑な計算処理を安価なシステムでできるようになったこと
  • インターネットの一般化と日常化が進み、ネットユーザーの総数が増えたこと(2009年で普及率は78%、利用者数は9,408万人)
  • ソーシャルメディアの登場でアクセス可能な場所に顧客とひも付くデータが増えたこと

プッシュの前にプル

CRMを実現するには、顧客に関する意味のある情報を可能な限りたくさん収集することです。データがないことには分析ができませんから。

それこそソーシャルメディア上にはたくさんのデータが溢れています。企業が所有している顧客の個人情報や購買履歴だけじゃなく、ツイッターの発言やブログの記事などを取り込むことができれば、より詳細な分析が可能になります。
しかも他店で購入した商品の情報も把握することができれば、レコメンドエンジンの精度を向上することだって可能になります。

これだけ多くのデータが目の前に転がっている以上、それをマーケティングに活用したくなるのは当然のことで、たとえばGoogleはすでにこれだけのユーザー間の繋がりを「ソーシャルサークル」として把握しています。

socialcircle

今後はユーザーの人間関係を可視化したソーシャルグラフCRMに統合していく動きが活発になると思われます。

その上でユーザーとの会話を繰り返しながら(カンバセーショナルマーケティング)、顧客データベースの空欄を埋めていくことが必要になってくるでしょう。

CRMは企業も消費者もハッピーになるはず

また価格競争が限界に達し、値下げによる市場シェアの獲得が難しくなってきたことも外部要因として挙げられます。日用品や外食産業ではまだまだ価格競争が続きそうですが、すでにチキンレースの様相を呈しています。

よほどの成長市場でもない限り、これからは新規顧客に依存した収益構造ではなく、本来CRMが目指していた既存顧客中心のモデルに変革せざるをえません。

CRMが進めば企業だけでなく、消費者・顧客にとってもメリットがあります。具体的にはSPAMまがいのメールを受け取らなくてもいいようになります。
いまだに大手のショッピングサイトでは絨毯爆撃のようにメールを大量の顧客に対して送りつけ、その一部が反応すればいいとする考え方が横行していますが、残りの大多数は迷惑がっていることを見逃してはなりません。
ある日、彼らが大挙して競合に移ってしまうかもしれないのですから。

またCRMはなにも企業側で対象者を抽出してメールを送るだけのものではありません。たとえメールであっても、顧客側からリクエストを受け付けることもできます。
具体例は「入荷お知らせメール」のようなものです。商品が品切れの際に、次回入荷時にメールで知らせてほしいというリクエストを受け付けるのです。あるいは「特定のシリーズの新商品が発売されたら(書籍の場合は特定の作家の新刊が出たら)」メールでお知らせするとか、または「ある商品の値段が希望価格を下回ったら」メールでお知らせすることもできるでしょう。
(すでにブックオフオンラインでは同様のサービスを提供しています)

こうすることで購入に至らなくても顧客の希望を聞き出すことができます。それによって仕入れ数や価格決定の精度が大幅に向上することは確実です。
そういったシステムを開発することもCRMのひとつです。

CRMの目的は顧客のLTVの最大化であり、さらにはCPOを下げることでの収益率の向上です。とくにCPOを下げるためにITを活用し、自動化を進めることは必須でしょう。ただしその自動化が顧客に望まれていないものであってはならないのです。
先ほど紹介した「入荷お知らせメール」であればほとんどコストがかからないのでCPO低下に大きく貢献できるでしょう。

企業がやるべきことは顧客が求める情報を届け、顧客が望むツールを提供し、彼らが自発的に再訪問・再購入をしてくれるようにすることです。
「囲い込む」発想は捨て、むしろ「寄り添う」発想で再設計することが、これからのCRMで求められる考え方でしょうね。