ニーズとウォンツ
最初に断っておけば、この言葉(ニーズとウォンツ)はかなり曖昧に使われています。
そこで今回は大きくふたつに分類できるその定義を紹介しますので、そういうものだと理解してください。ぼくはめったに使わない言葉ですし、知識として知っていれば十分です。
混乱する、ニーズとウォンツの定義
ネットで検索してもさまざまなことを言っている人がいます。
ただそれを大きく分類すると「顕在・潜在」を基準に言ってる人たちと、「低次・高次」の話として使っている人たちに分けることができます。
「顕在・潜在」説
まず、ニーズを「顕在欲求」、ウォンツを「潜在欲求」と捉えている人たちの定義です。
つまり具体的な必要性を感じているのがニーズ、なんとなく漠然と望んでいるのがウォンツということです。
たとえば「おなかがすいたので何か食べたい」と思うのがウォンツで、それを満たすために「駅前のマクドナルドでハンバーガーを食べたい」と思うのがニーズという解釈です。
ウォンツは抽象的で、より具体的なものがニーズという捉え方です。
これと近いのが深層心理を持ち出す人たちです。
たとえば先日ここに書いた「ドリルを買おうとしている人は、ドリルが欲しいのではなく、穴を開けたいのだ」という格言の話に対して、これは「ニーズとウォンツの話だね」とコメントしている人がいましたが、そういう話です。
「低次・高次」説
もうひとつの定義は「マズローの欲求段階説」を用いて、ニーズを「低次の欲求」、ウォンツを「高次の欲求」とする人たちもいます。
「マズローの欲求段階説」というのは以下の図のように、人間の欲求には生命の保障から、誰かに愛されたい、尊敬されたいといった精神的な充足を得たいという欲求に変化していきます。
このポイントは必ず下(より低次)の欲求から段階的に満たされたいとダメだという点です。
手元にある入門書ではこっちの解説が書いてありました。
引用すると、
人間生活を営む上で不可欠な生理的な必要を「ニーズ(needs)」と呼びます。この必要が満たされた後で、贅沢なものが欲しいという欲求を「ウォンツ(wants)」と呼んで、区別することがあります。
と書いてあります。
マズローの図で言うと、上からふたつがウォンツで、残りの3つがニーズだそうです。
つまりこれを使って、たとえば「空腹が満たせればいい」というのがニーズ、「高級レストランでおいしいものが食べたい」というのがウォンツだと説明しています。
ここから派生して、ニーズは「おなかがすいたから何かを食べたいと思うこと」で、一方のウォンツは「おなかがすいてなくても、有名店でフルコース料理が食べたいと願うこと」と言う人もいます。
ニーズとウォンツ、本当の定義
「顕在・潜在」説では具体的か抽象的かで区分されたのに対して、「低次・高次」説では贅沢かどうかが区分の基準になっていたりするので、ニーズやウォンツが話に出てきた際に、相手がどのような定義でその言葉を使っているのかを確認する必要があります。
おそらくマーケティングにおいて、ニーズやウォンツがキーワードに出てくるようになったのは、フィリップ・コトラーの影響だと思います。
コトラーは以下のようにマーケティングそのものを定義しています。
「マーケティングとは、個人や集団が製品および価値の創造と交換を通じて、そのニーズやウォンツを満たす社会的・管理的プロセスである。」
(コトラー、アームストロング「新版マーケティング原理」和田、青井訳、ダイヤモンド社、1995年)
コトラーによれば、ニーズとは「人間が生活上必要なある充足状況が奪われている状態(欠乏状態)のこと」だと定義しています。またウォンツについては「そのニーズを満たすための特定のモノが欲しいという欲望のこと」だそうです。
これを読む限り、「顕在・潜在」説のほうがコトラーの定義に近いですね。ただ、だからこれが正解というわけでもなく、これだけ簡単な英単語である以上、ケースバイケースで意味するところが変わるのもしょうがないことです。
[まちがっていたのでこの部分は修正 20111128]
これを読む限り、上記のいずれとも異なりますね。ウォンツが具体的ということは「顕在・潜在」説とも異なるようですし。
もちろんコトラーの書いていることが正解ということでもないのですが、明確な定義がむずかしく、出所によってバラバラなのはよくわかりました。
曖昧な定義なら、いっそ使わないで話すのも吉
ニーズやウォンツがここまで混乱したのは、わかりやすい英単語だったことが災いしたのでしょう。
また「顕在・潜在」説も「低次・高次」説も、用語としてのニーズやウォンツが適切かどうかはさておけば、言っている内容は至極まともでマーケティングの考え方においてもとくに間違っていません。
(だからこそ余計に混乱するんでしょう)
ここでご紹介したように、とにかく定義が曖昧で、市販されている入門書でも別の定義が使われているのが現状です。みなさんにはまずはこの混乱した状況を知っておいていただきたいし、その上でこんなに曖昧な定義の言葉をできるだけ使わないで話すように心がけたほうがいいと思います。
>これを読む限り、「顕在・潜在」説のほうがコトラーの定義に近いですね。
あなたが書いている「顕在・潜在」説と、コトラ―の定義をもう一度読み返してみてください。
定義が近いどころか逆ですよ。
ほげほげさん、コメントありがとうございます。
読み返してみて、ご指摘のとおりぼくの文章がまちがっていましたので修正しておきます。
このたびはありがとうございました。
ニーズとウォンツの例は逆ではないですか?
コメントありがとうございます。どの部分の例でしょうか?
はじめまして。勉強になりました。
指摘されている部分は、以下の部分だと思います。
"「おなかがすいたので何か食べたい」と思うのがウォンツで、それを満たすために「駅前のマクドナルドでハンバーガーを食べたい」と思うのがニーズという解釈です。
ウォンツは抽象的で、より具体的なものがニーズという捉え方です。"
ありがとうございます。
これはそもそも例が適切ではなかったかもしれませんね。
「おなかがすいたので何か食べたい」
「駅前のマクドナルドでハンバーガーを食べたい」
だと、空腹を満たすという「潜在欲求」は前者なのでウォンツで正しくて、後者はその手段(候補)としての選択肢ですのでニーズで正しいと思います。
でもこれはそもそも「穴を開けたい」と「ドリルがほしい」という有名な例をそのまま拝借して、前者をウォンツ、後者をニーズと説明したほうが良かったと思います。