正しいソーシャルCRM
今日は最近バズワードになりかけている「ソーシャルCRM」について紹介します。
ソーシャルメディアに代表されるように、「ソーシャル」はここ1-2年の大人気ワードなので、それにCRMをくっつけちゃう気持ちもわからないではないのですが、そもそもCRMというのはもっと地味でもっと地に足がついた考え方なんですよね。
CRMについては先日の記事も参考にしてください。
ソーシャルCRMをソーシャルの観点から見るとどうしても派手なイメージに誤解されてしまうので、今回はCRMの観点からきちんと捉えましょう。
ソーシャルCRMとは何か
ソーシャルCRMには大きくふたつの定義があります。
まず狭義においては、従来のCRMで利用されてきた電話やメールといったコミュニケーションチャネルに、ブログや掲示板、ツイッターなどのソーシャルメディアを加えるという「コミュニケーションチャネルの拡張」です。
あるいはワントゥーワンマーケティングのソーシャル化とも言えます。
また広義においては、顧客のソーシャルメディア上での活動をすでに構築されている自社の顧客データベースに取り込み、より適切な情報提供を実現し、顧客との関係を最適化するという「顧客データベースの拡張」です。
我々は顧客をどこまで理解しているのか?
本来CRMというものはメール配信など顧客に対して情報をプッシュする前段階が重要です。つまり顧客ひとり一人を個別に分類できるだけの情報を収集(プル)し、それを整理することができなければCRMなど実現できないのですが、ここを踏まえずにプッシュ優先で考えているケースが多いと思いませんか?
まずは顧客を知ることです。できれば全員と言いたいところですが、これはさすがに(コスト的にも可能性的にも)現実的ではありませんので、ある程度の顧客をきちんと把握できるようにすることを第一義に据えるべきです。
そのためにチャネルを増やし、そのためにデータベースを拡張するのだということを忘れてはいけません。
また、なんのために顧客を把握するのかも理解しておかなければなりません。
それは企業の収益アップ以外のなにものでもありません。顧客をより深く知ることができれば、より適切な情報提供ができるからです。そうすることで顧客との関係を最適化できれば顧客の離反率が下がり、かつ顧客のLTVが最大化されるため中長期的に見たときの収益が改善されます。
さらに比較的短期で見たときにもリピート率(再来店率、再購入率)や購入単価がアップし、注文を獲得するための広告宣伝費を抑制できるためCPOが低下し、利益率が改善されることもCRM導入の目的です。
なぜいまソーシャルCRMなのか
なぜいまソーシャルCRMが注目されるのでしょうか。
まず最初に考えられるのは、ソーシャルメディアマーケティングは短期的な収益効果(売上向上やコスト削減)が期待できないため、これを推進する企業の方便としてソーシャルCRMというキーワードが用いられていることがあります。
たしかにソーシャルメディアマーケティング、とくにカンバセーショナルマーケティングやアクティブサポートと呼ばれる顧客対話は中長期的なブランディングやカスタマーロイヤリティの向上を目的とするため、CRMが目指すものと重なる部分は大きいのは事実です。ただしCRMについての理解がないまま語られていることが多いので注意が必要です。
もうひとつの背景として、ソーシャルメディアが普及したことに加え、コンピュータの計算性能が飛躍的に向上したことが挙げられます。
日々投稿されるソーシャルメディア上のデータを分析するには高性能なコンピュータが必要になりますが、10年前と比べると圧倒的に低価格で購入できるようになりました。最近ではクラウドサービスを利用することで必要な時だけレンタルすることもできます。
そのため膨大なデータを元に、これまでやりたくてもできなかった細かな分析、分類ができるようになったということもあります。こちらは望ましい理由ですね。
CRMの目的として「顧客を『個客』と識別する」というのがありますが、10年前では十分なデータもなければ、そのデータを分析することも難しかったのが実情です。それがいまはデータさえあれば分析についてはなんの問題もなくなってきたために、CRMに注目が集まっているのでしょう。
そして現代のCRMを考える際、顧客のソーシャルメディアでの活動履歴が無視できないため、それらを包含するためにCRMのコンセプトが拡大し、言うなればソーシャル化した結果として「ソーシャルCRM」が登場したと言えます。
本当にCRMはソーシャル化すべきなのか
結論から言えば、すべきです。ただしそれは顧客にとって歓迎されるものでなければなりません。それがCRMの大原則だからです。
たとえばセールだのキャンペーンだのと企業側の都合に任せたメールを送りつけることがCRMではないように、誰彼かまわずツイッターで話しかけるのがソーシャルCRMではありません。
顧客との長期的な関係構築がCRMの最優先事項ですから、迷惑に感じられるような行動はすべきではありません。
と同時にあまりデータ収集に執着しないことも重要です。
仮に案内の精度が向上するとはいえ、顧客のすべてが自身のソーシャルメディア上の活動を監視されたいわけではありません。
ともすれば顧客が望まないデータまで入手できてしまうのがソーシャルメディアだということを自覚して、常に顧客本位でデータの取捨選択を行なってください。
ビジネスである以上、あれこれと儲からないことまでしなくてもかまいませんが、儲かるなら何をしていいというわけでもありません。
ソーシャルCRMは顧客ひとり一人の声が聞ける「耳」が増えたのだとまずは理解しましょう。ときにはその耳をふさぐこともマナーでありエチケットです。
そうして顧客の気持ちを汲み取って、彼らが喜ぶことだけをやり続けてください。ソーシャルCRMは、どこまでいってもCRMであることを忘れてはいけないのです。
“CRMの理解が無いまま、企業の方便としてソーシャルCRMというキーワードが語られている”←これ、最近ホントに強く感じます。
ソーシャルメディアの浸透で、たしかに個客とつながり易くはなりましたけど、「それを利用して口コミが生まれます!」、「顧客が商品開発のアイディアを直接出してくれます!」ではなく、本来のCRMを実行する上での、チャネルが増えましたよ、ということだと思います。
あともう一つのポイントは、CRMにソーシャルメディアを取り入れる場合、継続性をどう実現するかだと思います。
どうしても、ソーシャルメディアでのコミュニケーションはその場、その場になりがちです。
CRMを考える場合、顧客との関係の継続性、シナリオの連続性というのは重要ですから、ソーシャルメディアの少し弱い部分をどう上手く取り入れるかはポイントだと思います。
先日の思いつきツイートをまとめたブログも貼っておきますw
『ソーシャルCRMって、実際のところどうなのよ?』 http://d.hatena.ne.jp/rationality/20100905/128361…
ご指摘どおり、継続性をどうやって担保するのかは大事ですよね。予算的にもそうですし、ある意味企業の文化的なところに踏み込む話だとも思います。
とりわけ今後は従業員のソーシャルメディア利用が増えていくわけで、単にガイドラインという名目で縛り付けるのではなく、顧客とのコミュニケーションをむしろ推奨することでCRMの一環に参加してもらうということも検討されるべきでしょうね。
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