あなたの店の売上を倍にする方法

最初に結論を。

いまのお客さんにひとりずつ紹介してもらう。それだけです。

新規顧客と既存顧客

ぼくはいつも「売上を倍にするには、いまのお客さんがひとりずつ友だちを紹介してくれればいい」とシンプルに考えるようにしています。

そこをスタートにして、じゃあどうすれば紹介していただけるのかとか、紹介しやすくなるかを考えます。もちろん現実的には誰も紹介してくれない人もいらっしゃるし、ひとりで何人も紹介してくださる人もいらっしゃるでしょうから、「ひとりずつ」にそこまで強いこだわりはないのですが、あくまでも考え方としては常に持っています。

1:5の法則

一般的に「新規顧客を獲得するコスト(CPO)は既存顧客を維持するコストの5倍かかる」という話があります。誰が言ったのかはよくわかりませんが、有名ですね(ほんとに誰が言ったんだろう)。
この「5倍」の部分は業種業態や扱う商材によって2倍になったり6倍になったりと変動はあるでしょうが、原則的に既存顧客維持コストのほうがはるかに安いことは間違いありません。

具体的にイメージするとわかりやすいです。

新規顧客を獲得するには広告を出稿する必要があります。テレビCM、リスティング広告、さまざまな広告を駆使して来店を促すためのコストがかかります。
既存顧客がリピートする場合は、ブックマークやメールマガジンといったコストがほとんどかからない経路で来店してくださることが多いのでコストがあまりかかりません(ただしECにおいてはリスティング広告経由で来店する既存顧客も少なくありませんので、少しコストが増しています)。

こうしたコストの差は、そのまま利益の差に繋がっていきます。

また、新規顧客の場合は説明のためのコストも少なくありません。お店のこと、商品のこと、サイトのことなど、初めてなのでわからないことだらけですから、サポートにかかるコストも大きくなります。
一方、すでに購入経験がある既存顧客は問い合わせが少なくなるため、サポートへの負担も低くなります。

さらに注文単価にも差が出ます。新規顧客は不安があるため注文単価も低くなる傾向にあるのに対し、既存顧客の場合は注文単価も10-50%程度高くなることが多いです。

既存顧客の比率が高まれば、相対的に広告費は節約できます。注文単価も上がるので、販管費の占める割合も小さくなります。
「顧客のLTV(生涯顧客価値)を最大化する」という、いわゆるCRMの考え方はこうした既存顧客によるリピート購入の利益率が高い点に着目しているわけですが、いまのお客さん(既存顧客)に向き合うことの重要さはコストの観点から考えるとよくわかりますよね。

顧客維持の方策

ではどうすれば顧客を維持できるのか、さらには彼らが友だちに紹介してくださるのかを考えてみましょう。

ポイントプログラムの功罪

よくある既存顧客向けの方策はFSP(フリークエント・ショッパーズ・プログラム)です。家電量販店などでよくやっているポイントプログラムが有名ですね。

ただ、これを導入するのは注意が必要です。次回購入時に使用できるポイント発行は、たしかにリピート率を高めることに繋がりますが、本来コストなしで再来店してくださった方にまでコストをかけていることになります。もちろん全員が使うことはありませんが、P/L的にも積み立てをしなければなりませんし、この施策によって向上するリピート率とそこで生まれる利益総額が、本当に増加するコストを上回るかきちんと試算することが大切です。

そしてなにより懸念すべきは「お得」で繋がった関係は、「よりお得」な他社が現われた時点で終了するということです。
既存顧客のうち、おそらくロイヤルカスタマーと呼ばれるような上得意顧客は、きっと安さを支持しているのではないはずです。彼らは企業の価値観や店の雰囲気を支持しているはずで、そうした共感をぶち壊す危険性があります。

競合他社がどんどんポイントプログラムを導入している中で、追従せざるを得ない気持ちはよくわかりますが、一度立ち止まってあなたの顧客を見てください。アンケートやインタビューをするのもいいと思います。
彼らはなぜあなたの店で買う(買い続けてくれる)のでしょうか?

ポイントプログラムは麻薬のようなもので、一度始めるとやめられないどころか、エスカレートしていきます。だからこそ開始にあたっては慎重な判断をしましょう。

顧客の望む店作りを

それよりも、顧客の声に耳を傾け、さらには彼らの潜在的なニーズを読み取り、それを満たすサービスを提供していくべきだとぼくは考えます。

居酒屋の「ボトルキープ」などが良い例です。飲みきれなかったお酒がムダにならない(損しない)ので顧客には支持されますし、当然リピート率向上に繋がります。
予約商品や新商品を「取り置き」してあげるのも喜ばれるでしょう。

ECの場合はもっといろんなことができます。
たとえばジャンルごとのメールマガジンを発行するとか。あるいは「入荷お知らせメール」や「予約開始メール」のように商品が購入可能になったことを知らせるメールサービスを始めるとか。顧客のITリテラシーによってはRSSを配信するのもいいでしょう。
こうしたオプトイン系の仕組み(お客さんが自ら進んで登録して利用してくれる仕組み)をたくさん用意しても、運用コストはほとんどかかりません。

コストはかかりますが、サポートを24時間にするのもいいでしょう。追加料金を払えば速達で発送するのも喜ばれると思います。
似たり寄ったりの店ばかりになっているからこそ、痒いところに手が届くサービスをどんどん提供し(ときには改善し)、顧客が望む店作りを愚直に続けた企業が成功するのです。

広告不要論?

いちおう補足しておきますが、広告が不要だと言っているわけではありません。
ここで述べたいのは予算が限られている以上、どこにそれを集中するかという話です。広告費にいくら、開発費にいくらと年初に決めた予算通りに実行することがあなたの仕事ではないはずで、常にいまもっとも効果が高い予算の使い道を考え続けなければなりません。

広告を出稿するべきなのか、それとも「入荷お知らせメール」を開発するべきなのか、いまの予算配分が本当に適切なのかをもう一度見直してみてはいかがでしょうか。

顧客が顧客を呼ぶ店に

あなたの店の顧客が誰かを紹介してくれるとすれば、それは「顧客本人があなたの店にとても満足しているから」です。じっさい、あなた自身もそうではありませんか?

だからまず最初にやるべきことはここに書いたように、いまの顧客としっかり向き合うことです。彼らの満足度を知り、不満があるならどうすれば解決できるかを考えましょう。
もちろん言いなりになる必要はありません。大事なのは対話です。彼らの考えを聞くと同時に、あなたの考えも伝えましょう。なぜそうしているのか、なぜそうしないのか――そこにある理念こそがブランドに繋がるのです。

あなたの店は紹介しやすい?

もし顧客が満足をしていても、あなたの店が紹介しづらかったら、彼らはせっかく紹介しようと思ったのに諦めてしまいます。これがいちばんもったいない。
顧客が紹介しやすいか、あらためてチェックしましょう。できれば客観的に見てもらったほうがいいですね。顧客に聞いてもいいですし、新入社員に聞くのも有効でしょう。

そこで出てきた課題はすべて解決すべきです。

もっとも隠れ家的に商売したいので、あえて場所をわかりにくくしているというような場合もあるかもしれません。それでもショップカードを用意するなどして、あなたの顧客が身近な数名には紹介しやすくなるような案を考えるべきです。

多くの場合はむしろ積極的に紹介してもらいたいと思いますので(ぼくもそうです)、既存顧客が生み出す波及効果の最大化を図りましょう。

ウェブサイトにある地図はわかりやすいですか? 交差点の写真やビルの写真を入れるなどして、もっとわかりやすくできないか考えてみてください。
店の名前やURLを覚えやすくするのもいいですね。看板やロゴは人に伝える際のヒントになりそうですか?

ECの場合はメールマガジンに「転送を歓迎します」と書いておくのもいいでしょう。顧客層次第ですが、ツイッターのボタンを設置することや、ブログで紹介するための商品リンクを簡単に作れるようにすることも喜ばれるでしょう。

ECであっても(一部のデジタル商材を除き)商品が手元に届くわけですから、ショップカードを同梱するのもいいと思います。
クチコミの大半はいまでもオフラインで行なわれています。顧客が明日会社で紹介しやすいように、公園で紹介しやすいように、いろんな手立てを考えましょう。
もちろん押し付けはいけません。それは顧客が望んでいないからです。

本当に売上が倍になるのか

残念ながら数ヶ月で倍増することはありません。1年はかかる話だと思ってください。ただし既存顧客重視の施策にシフトしていけば、利益率は早期に改善されます。

また既存顧客が新規顧客を連れてきてくれるようにすることまでが取るべき施策の全体像であることを忘れないでください。だからこそ優遇するだけのポイントプログラムのようなものではなく、もっとサービスそのものを見直して独自性を発揮しなければならないのです。

顧客に愛される店作りをすれば売上が伸びるし利益も伸びる。さらにはほうっておいても顧客がどんどん紹介してくれるので、広告を出さなくても新規顧客が来店してくれる。――こんなふうに書くと、当たり前のように感じられるかもしれません。

しかしその当たり前のことをどれだけ真剣に取り組んでいるか考えてみてください。
売上における既存顧客が占める割合は毎月増えていますか?
新規顧客のうち顧客からの紹介は何割ですか?
この半年で優良顧客の不満はいくつ改善されましたか?

残念ながらほとんどの企業は当たり前だと認識しているのに、そこへの取り組みはおろそかになっています。
それってすごくチャンスだと思いませんか?

河野

当メディア編集長。コミュニケーション・デザイナー。企画屋。1997年、ニフティ入社。2001年にニフティ退職後、フリーターとして数年過ごし、2004年から2005年までオンライン書店ビーケーワンの専務取締役兼COOを務める。ECサイト初となるトラックバックを導入し、また「入荷お知らせメール」などを考案した。また、はてな社との協業による商品の人力検索サービス等をプロデュース。2005年から2007年までシックス・アパート株式会社のマーケティング担当執行役員を務める。2007年から2010年までブックオフオンライン株式会社取締役を務め、サービスの立ち上げ全般のサポートに加え、「オトナ買い」や「デマチメール」などの独自機能を考案した。その後、フリーランスに。2014年から株式会社クラシコムに勤務。現在に至る。「アクティブサポート」や「最愛戦略」の提唱者。個人として「攻城団」と「まんがseek」を企画運営。個人のサイトはsmashmedia

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9件のフィードバック

  1. 実はFSPにはもうひとつだけ企業にとって小さいメリットがあるのです。
    それは、会員番号で複数レシートを結びつけることにより、詳細な購買行動のデータが取れることです。

    • ありがとうございます。そうですね、ECじゃなくてリアル店舗の場合は、顧客の特定をするために会員カード(≒ポイント発行)をしていることもありますね。

      それってどのくらい有効なデータが取得できてるかってご存じですか? つまり作らない人とかなくしちゃう人も多い中で、どのくらい精度の高い(実用的な)データが取れているのでしょうか? そのデータの分析に基づく施策で得られる利益と見合うならぜんぜんいいと思うんですけど、「小さいメリット」とお書きになられていることを思うと、それほどでもないのでしょうか。

  2. 勇気を出して初コメントなうです。ドキドキ・・・。

    エントリの内容、至極納得です。
    ネットの先のリアルに言及なさっていますが、やはり基本は「誰に対して」「どんなアクションを起こして欲しいのか」という所があるべきであって、場所、デバイス、表現の選択全てで言えると思います。

    僕も、ECサイトのご相談を受けることが多いのですが、どうしても現在のtwitterと同様に「インターネット」っていうものに目が生き過ぎて、SEOやページデザインの話ばかりになってしまうことが多々あります。基本はリアルだろうがネットだろうが同じことなので、「一旦インターネットのことは忘れてください」と言うのですが、なかなか難しいですね・・・。「商品が手元に届いたときに、自社サイトのURLやお手紙を入れておくと全然違いますよ。ネットだろうがリアルだろうが、向こう側に人間がいるのは同じですから」と言って、本当にやってみてくれるのは一握りです。なんとか、もっと気づいていただける方法はないかと日々模索中です。

    • コメントありがとうございます。うれしいです♪
      「一旦インターネットのことは忘れてください」というのはいい言葉ですね。でもきっとなかなか理解されないでしょうね。SEOにせよ、ツイッターにせよ、目新しいバズワードで煽る人が多すぎて、まともに「商売」について考える人は少ないのかもしれないですね。

      良い方法を思いついたらぜひ共有してください。一緒に何かできそうならぜひ。

      • お返事ありがとうございます!
        「商売」について考える人は少ない・・・肌感で実感してます(泣)

        共有、ご一緒に、ともに是非!

        • ぜひぜひ。ご近所のうちに食事に行きましょう。フジイくんも誘って。

  3. 『いまの顧客としっかり向き合うこと。彼らの満足度を知り、不満があるならどうすれば解決できるかを考える」
    「大事なのは対話。彼らの考えを聞くと同時に、あなたの考えも伝える。なぜそうしているのか、なぜそうしないのか――そこにある理念こそがブランドに繋がる』。この点が特に共感を覚えます。聞くだけじゃダメなんですよね。対話しないと。ここが全ての原点かと思います。

  4. 私も、「一旦インターネットのことは忘れてください」という言葉、とてもパワフルだと思いました。tokusatoさんのコメントの中にもあるように、サービスの受け手が人間であることにはネットもリアルも変わりないのですが、それを見落としているビジネスが大半のように思えます。

    アメリカの話ですが、最近、友人がワインのマンスリークラブを始めて、「紹介プログラム」を大きな売りにしています。たくさんの人を紹介すればするほどポイントがたまってワインがタダになったりいろいろな特典がつくというスキームです。私から彼へのリクエストは、「紹介しやすい仕掛け」を考えてくださいということでした。お客さんはいかに自分にトクがあってもセールスマンとして扱われたくはないものだと思います。むしろ、素晴らしいサービスという土台の上に愛顧が生まれ、その自然な延長として、「紹介したい!」という気持ちが芽生えた時に、その実行をいかにイージーにするかが決め手ではないかと思っています。

    • そうですね、モニタの向こうには人間がいることを忘れてはいけないし、企業と顧客の繋がりはデジタルデータだけではないことも大事ですよね。電話にせよ、お届けする商品の梱包にせよ。
      また、おっしゃるようにクチコミそのものは「儲かるから」のような利益のために行なわれはするのですが、それはいいクチコミではないですよね。むしろ「自分がすごく満足してるから、ほかの人にも薦めたい!」と思ってもらって、そのときにどういうツールがあるか、どういう助けを用意してあるかってことだと思います。

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