カイタッチ・プロジェクトの舞台裏
今回は、貝印の社員がユーザーのブログへコメントをつけに訪れる「カイタッチ・プロジェクト(KAI TOUCH Project!)」の裏側を中心に、同社がこれまでに行なってきたネットマーケティングへの取り組みから、今後やっていきたいことを質問しました。
今回インタビューをお願いした貝印株式会社について
有名なカミソリをはじめ、キッチンウェア、ビューティーケア用品といった生活用品から医療用品や業務用刃物など、1万点にも及ぶ刃物を作っている貝印株式会社。
創業は明治41年、日本最大の刃物の都、岐阜県関市で小さなポケットナイフ製造所からスタートされており、2008年で100周年となる歴史のある企業です。
かなり濃い内容になってますので、ゆっくり味わって楽しんでください。感想もお待ちしています!
河野:普段は取材される側なんですが、今回久し振りに取材する側なんで、ちょっと緊張しています(笑)
よろしくお願いいたします。
郷司&遠藤:よろしくお願いいたします。
河野:メインはカイタッチ・プロジェクトについてお話をお伺いたいと思っているんですけど、そこに入る前に、御社で特にネットまわり、ブログなんかもやってらっしゃるのも拝見したんですけども、これまでにやってこられた試みみたいなものをお伺いできればと。
郷司:はい、まず、僕らのウェブサイトの経緯をご説明していった方が理解していただきやすいと思うので、そこから説明させていただきます。2006年に、ちょうど貝印のウェブサイトリニューアルのプロジェクトをしようと、社内で持ち上がってましてですね。
当時、貝印がやっていたサイトって言うのは、いわゆるホームページで、一応、商品を紹介しています、以上。みたいなサイトだったんです。
ちょうどWeb2.0というのが騒がれ始めていって、なんかできるんじゃないのって。
じゃあウェブサイトをもっと戦略的に使っていこうじゃないかということで、プロジェクトがスタートしました。
とは言いいながらも、僕がプロジェクトリーダーみたいな感じでやってて、いかんせん経験がないものですから、何やっていいかわからんと、というところでちょっとずつやってきたんですね。
最初は全体的な構造であったりとか、その辺に普通に手をつけていって、ウェブだとかブログだとか、Web2.0と言ってる部分への取り組みっていうのは、考えに考えて、ちょっと答えが出せない、先送りにしてリニューアルを終えました。
河野:なるほど。
郷司:そうこうしている時に、最初のお客さまとのコミュニケーションとして、「Club KAI」というのを用意しまして、貝印としては初めて、お客さまと直接コミュニケーションすることにチャレンジしました。
それは普通にCRMソフトを裏で回しながらやっていくという、従来型と言うかですね、当たり前の試みだったんですね。
ユーザーの方との関わりというのは、「Club KAI」っていう仕組みを使って、お客さまに商品をモニターとして提供して、コメントを書いてもらう、という試みです。
これ、他社様でもやってることですし、ただ我々としても一応、最初の試みとしてそれをやりました。
それをやっていながら、じゃあブログに対して、どう関わっていこうかと考えてました。例えば当初ですね、著名な方だったり、貝印が関わっているインフルエンサーの方々のブログをちょっとまとめたブログ集みたいなのを作ろうかっていうことを考えていたんですけど、なんか……、おもしろくないと。
他にもまあいろいろと試行錯誤しながら、ぜんぜん手が打てなかったんですね。
河野:はい。
郷司:ただその、じゃあ、Web2.0というかCGMというか、そういうものの根っこになっているのは、やっぱブログだよねと。お客さまのブログっていうのをどう取り込もうかっていうところで、ずーっと議論していてですね。
そのあたりから別のパートナーさんから話が出てきて、じゃあ、ブログなんとかできないのっていう議論を始めていったんですね。
最初にやったのが「Club KAI」っていうのもあって、どうやってお客さまを囲いこもうかっていう視点がずっとあったんですね。
どうやって来てもらって、どうやって中でこう、回遊してもらおうかっていう話をずっとしている時に、「なんで、取り込まなきゃいけないの? なんで、囲い込まなきゃいけないの?」っていう議論になって。
その時に「呼び込むんじゃなくて、行きゃあいいんじゃない?」っていう話が出てきて、それがこのカイタッチ・プロジェクトに行き着いてるんですね
これ以外のCGMとの関わりっていうのは、ウチはあんまりなくてですね。まぁ、あえて言えばひとつだけ、今は終わってしまったんですが、「カン違いな使い方」っていう、若手芸人さんにウチの商品を使ってもらって、一発ギャグをやってもらったり、コントやってもらったりと。そういうのをやっていたんですよ。
その辺の動画を例えば、YouTubeの中に組み込んでどうなるかというのを見てみたりとか。あるいはその、芸人さんがやったコントだとか、そういったものに対して、ユーザーの方からいろんなコメントというか、アイディアというのを出してもらうっていうのは、やってたんですね。
河野:なるほど。
郷司:ただ、なんか消化不良というかですね、「なんなんだっけこれ、これして何になるんだっけ……」みたいなとこはずーっとありました。
いわゆるCGMというか、その辺に関するトライっていうのは、カイタッチを除けば、「カン違いな使い方」だけになっちゃうんじゃないかと思いますね。
河野:ありがとうございます。じつはその「囲い込む」ってこと、ぼくはほんとうに大嫌いで。でも、よく言われる人多いですよね。
ぼくも、まさに郷司さんがおっしゃったように「囲い込む」っていう発想が良くない、企業側がそういう風に上からモノを言うことが良くない、と思っていて。
だからさきほどの「行きゃあいい!」っていうのは、とても共感できるんですけども、それはある日、いきなり浮かんだものなんですか? ミーティングの途中とかで。
郷司:それはパートナー企業にいる女性のアイデアなんです。ベクトルを逆にしたらどうかという話になった時に、彼女が「じつはあたし、ずっとやりたいことがあったんです」と話を持ちだしてきて、そのベースがカイタッチだったんですね。あの時に彼女がたしか、そういうことを言ったんだよね?
遠藤:そうですね。
郷司:僕ら、とにかく呼び込む呼び込むっていう、このベクトルを変えたいって考えるようになって。で、なんかこうなっていって。
でもそれだけ考えると、すごく手間のかかるイメージが湧くじゃないですか、それだけで気分が悪くなっちゃうくらいの(笑)
河野:なりますね(笑)
郷司:でも、その時に効率だとか、システムだとかじゃなくて、けっきょくその議論も例の、お金払って書いてもらう話じゃないですけど、金だとかシステムだとか、上っ面のモノが多い中で、誠意とか熱とか温度とかっていうのを伝えていきたいじゃないですか。
その時にこっちから同じ目線で、歩み寄っていくっていう、その彼女のアイディアっていうのがすごく、その場でみんなが一瞬で「それですね!!」っていう流れができたんですよね。後はもう、自然に転がっていったという感じですかね。
河野:いい話ですね。ところで社内の他の方からは反対がなかったんですか? それこそ非効率だろって指摘はきっと出ると思うんですけど、それは出なかったんですか?
郷司:えっと、それは最初から言いました。めちゃめちゃ効率が悪いプロジェクトなんですけど、やってみる価値があると思います、ということで。
河野:なるほど。
郷司:ウソついてもしょうがない(笑)
河野:そうですね(笑)
郷司:で、実際、ウェブチームって、彼女とあともうひとり男の子の、この3人しかいないんですよ。
しかも我々、一応、経営企画室ということもあって、ウェブだけやってりゃいいっていうんじゃないんで、めちゃめちゃリソースが少ないねと。
こんな効率悪いのは大変だけど、「頑張ってね!」みたいな(笑)
河野&遠藤:(笑)
河野:そこは「頑張りましょうね!」ですよ(笑)
郷司:「オレも頑張るからさ!」みたいな(笑)
河野:これまでにぼくがお手伝いしている会社でも、ちょうど似たような話が出たことが何度かあって、そういう時に、当人たちはすごく納得してるんだけど、上とか横とか、組織上の一歩出たところで、けっこうナーバスな声が出てきて、そこでなんか足踏みしちゃうみたいなことがあるんですね。
ぼくとしては、ほんとにこういう試みが、まさに貝印さんだけじゃなくて、いろんな会社の人がやっていけばいいなって思っていて、そういう周囲の反対を突破する、まあ、ノウハウって言うと微妙なんですけど、少しみんなが参考になるようなお話が聞ければなと思っているんですよ。
郷司:なるほど。そういう意味では、僕らは環境的に恵まれていたと思っています。それは僕らがウェブプロジェクト始める前のウェブというのが、そもそも社員含めて、誰も注目してなかったんですね。そういう中で、なんかあいつらウェブやるらしいねみたいな。
僕、「ウェブ王子」って一時、言われていて(笑)
河野&遠藤:あははは(笑)
郷司:で、なんかやるらしいと。
さっき言った、「Club KAI」がおかげさまで会員の方も一万人くらい集めることが出来て、周囲に対するフィードバックもお客さまから直接、お声を頂いて。
それを開発にフィードバックするということを、ちょっとずつやっていった中で、「なんかちゃんとやってるっぽいな、あそこ」という評価がそれなりあったという点と、もうひとつラッキーだったのが、組織的にですね、社長からの直接的な意思決定を仰ぎやすい部署に僕たちがいるんですね。
河野:ああ、経営企画室ですしね。
郷司:はい。僕たちの上司が、色々な面で社長とのコミュニケーションを多くとっているんですね。
あとは、何より社長が、カイタッチ・プロジェクトにすごく可能性を感じてくださったようで。
河野:以前、ユニクロの担当者と話をした時も、UNIQLOCK(ユニクロック)っていうブログパーツを作った時に社内の反発はなかったんですかって聞いたんですけど、あれはもう、社長の柳井さんに直接言って、柳井さんがゴーサインを出したから、まわりが何も言えなくなったっておっしゃってましたね(笑)
郷司&遠藤:あははは(笑)
河野:わりとそこは、彼は戦略的に動いたって言ってましたけど、まあ、このへんはひとつの方法ですよね、早めにトップにOKをもらっちゃうという。
郷司:そうですね。そりゃ、社長とのコミュニケーションが多いというのは、いろいろな面でアドバンテージになると思います。
とはいえ、影での気遣いというのは、一応、あるんですけどね。
河野:そうでしょうね(笑)
郷司:一応、今までの会社のサイトに対する意識のギャップと、何より社長とのコミュニケーションというのが一番大きかったなと思いますね。
河野:ありがとうございます。参考になります。
実際、今は少数精鋭でやられているっていうことなんですけど、それ以外にアルバイトの方とか、あるいはアウトソースするとか、ほかに人手はいないんですか? ほんとに3人でやってらっしゃるんですか?
郷司:はい。ほんとに内部のこのメンバーだけですね。
最近、僕はあまりやれてないんですけど、彼女が中心になって、あともうひとりのスタッフとで、地道にやってます。
もちろん作業をアウトソースすることも考えはするんですけど、実際、やってみるとですね、これは全然「作業」じゃないんですよね。
お客さまの声に答える時に機械的な返答はできないっていう問題と、あとやっぱり、けっこう商品に対して深い質問だとか疑問が出てくるので、アルバイトの方が来てもわかんないと思うんですよ。
「この商品なんですか?」から始まるわけで、それがちょっと、どうやっても無理があるなと。
じゃあ、うちのスタッフが完璧にできるかというと、実際に販売しているわけでもないし、商品のことも完璧にはわからないので、質問があったら一個ずつ、社内に質問していくしかないんですよ。毎回、他の部門に確認しながらやってます。
河野:そうですよね。わかります。
郷司:そういうことを考えると、やっぱり上っ面だけ、業務量を削ろうっていう発想は、このプロジェクトには向かないっていうか、もともと、そこは目をつむって始めてるプロジェクトなんで、ま、そこしょうがないなと。
次の展開として、代わりの手立てを考えてますけど、今のところは地道にやっていこうと。サイトにも「行けなかったらごめんなさい」って書いてあるし(笑)
河野:書いてますね(笑)
郷司:(見落としたりして訪問できないというのは)誠実にやってるからこそ、起こりうることで、それに対してのクレームは来ないだろうと。
基本的なこのコンテンツの主旨は性善説に立ってますんで、それじゃないともう、どうしようもない話ですんで。
河野:まあそうですよね。ところで実際、どうやってブログを見つけてらっしゃるんですか?
ぼくもあえて申請とかせずに、書くだけ書いてほったらかしにしてたら、遠藤さんがコメントを付けに来てくださったんですけど。
遠藤:ええ(笑)
郷司:めちゃめちゃ、システマティックですよね、そこは。ウソです。検索してます!(笑)
遠藤:検索して(笑)
河野:あははは(笑)
遠藤:ほんとに日々、普通の検索エンジンですとか、テクノラティであったり、Googleブログ検索だったり、Googleアラートであったり、あの辺のツールをとにかく使って、毎日探してます。もう純粋に検索してるだけっていうのが、正直な話です……。
河野:ああ、それはわかります、それ以外に手段がないんですよね。
遠藤:そうですね。
河野:ぼくも実際、自分の本の感想をブログに書いてくれてる方には全部、コメント付けて回ってるんですけど、やっぱりGoogleアラートとかトラックフィードとかブログ検索とか使うしかないんですよね。で、ひとつだけ使ってるとけっこう漏れてるじゃないですか(笑)
遠藤:そうですね(笑)
河野:だから、あれやこれやとたくさん、使わないといけないし。
遠藤:ええ。
河野:なので、すごく手間がかかってることは実感としてもわかるんですよ。
そこで質問なんですけど、実際問題として、これを来年再来年と、今後も続けていくかどうかのジャッジっていうのは、どういう風に考えてらっしゃいますか?
郷司:10月スタートなので、もう4ヵ月になるんですけど、その中で、定性評価と定例評価というものが当然ありますよね。
まず定性評価に関して文句なしで、効果があると思ってます。
ひとつひとつのお客さまのコメントの内容であったり、我々がコメントしたことに対する、さらなるコメントであったりとかの中を見ていて、僕らが意図していた、誠実に気持ちを伝えていくっていうか、熱を伝えていくっていうか、そういう当初の狙いは完全に果たせているので、非常に評価できるなという風に思っています。
弊社には「週報」っていう制度があってですね、全社員が週に一度、気づいたことをイントラネットに書きこむんですよ。5行、120文字くらいかな、まあそれくらいの文字数でなんか書きなさいっていうのがあってですね。その中で、このプロジェクトとはぜんぜん関係ない社員がカイタッチ・プロジェクトを見たらしく、「なんかこういうのやってるね、おもしろいね」みたいな、社内の評価がそこで確実に出てるんですよ。
そういうまわりからの、まあ当人たちは支援してるつもりはないかもしれないですけども、僕らからすると、もう絶大な支援ですよね。
そういうコメントがだんだんと見えているというところを含めても、社外的な評価は出てきているなというところをまず感じています。
河野:それは素敵ですね。
郷司:定量評価というか、数量の問題に関しては、もともと大変なのはわかっていたんですけども、それでも目標として、各自がコメントする件数は設定してるんですよ、一応。そこに対しても、なんとかクリアしていますと。
あと、やってるとですね、内容が嬉しいので、ほんとに真面目に答えたくなっちゃうんですよ。僕ももっとやりたいんですけど、なかなかできてないんですけどね(笑)
けっきょく、ボリュームっていうのは、同じ熱を持ってる人間の数に比例するだけですから、やる人数が増えれば、もっともっとボリュームが出ていくと。
今、定性面で非常に評価できるなという判断してますんで、事前にいただいた質問の中にもあったと思うんですけども、今後考えていることっていうのは、これを全社プロジェクト化しようっていうことですね。
全社員が、さっき申し上げた「週報」と同じように、週に一回、誰かお客さまのところに行って、コメント書いてきてくださいと、こういう風にしようかなと。
ガイドラインも設けずに、素直にやってくださいと。その代わり、やるからには会社の利益代表でもあり、ブランドマネージャーでもあるわけですから、その辺をちゃんと認識しながら、誠実にやってくださいね、という形に持っていきたいなと思ってます。
まぁ、一過性のプロジェクトにする気はまったくないですね。
河野:おー。全社化すると、すごい楽しみですね。
郷司:そうですね。そうすることで、経理の人であったりとか、倉庫の人であったりとか、もちろん開発の人とかも含めて、お客さまの声を普段は聞けないスタッフが、お客さま直接触れていくこともできますよね。お客さまの声に直接触れて、悪いことなんて、絶対ないはずなんで、そういうプロジェクトにできたらいいなあと思ってますね、今。
河野:素晴らしいです。まったくその通りですね。
少し話がずれるんですけど、ぼくなんかは10年以上、ネットというものを見てきててるんですが、やっぱり10年あるといろんなことがあってですね。ぼくが1997年にニフティに入った頃は、まだiモードもなかったので、インターネット=パソコンだったのが、今は携帯でもできますよね。
あるいは、インターネットバブルって言われた2000年前後も、当時でも別にインターネットに全員が繋がってるわけではなくて、わりと進んでいる人とかしか繋がってなかったんですよ。それは東京の人が中心だったり、若い人が中心だったりすると思うんですけど。
でもここ数年で、年配の方や地方の方も含めてですね、日本中のほとんどの人、7割、8割の人たちがある人はパソコン、ある人はケータイやゲーム機を使って、インターネットに繋がるようになってきています。
ぼくはこんなふうにインターネットが一般化したり、日常化したことによって、いわゆるネットマーケティングで考えなきゃいけないことが増えたと思っていて、これまではネットにいる特殊な人たちを相手にしてれば良かったんですけど、今は世の中にいる普通の人たちがネットに繋がっちゃったので、区別ができなくなってきているわけです。
もちろん、だからこそ、すごいダイナミックでおもしろいことができていると思うんです。
郷司:そうですね。
河野:その辺りで、(ベンチャーだけじゃなく)むしろ古くからある企業こそ、うまくネットに入っていければいいのになっていう思いが、ずっとぼくにはあるんです。
ぼくがお手伝いしてるのは、ほとんどネットとは縁のなかった企業ばかりでして、たとえばブックオフオンラインっていう、ブックオフグループのECをやってる会社があるんですけど、そこの役員をやってるんですね。
彼らと話してると、最初は口を揃えて言うんですけど「ネットが怖い」と。もうぜんぜんわかんないと。
自分たちは10年以上も前からずっとネットなんて関係ないところでビジネスをやってきてるわけで、でも時代としてやんなきゃいけないことだけはわかっていて、どう一歩目を踏み出せばいいのかがわからないし、怖いと。
そういう時は、ぼくは今お話ししたみたいに、昔はともかく、最近はみなさんと同じような普通の人がネットにいますよってところから、話をしてるんですね。
御社から見てて、インターネットに向こうに居る人たちが、ここ数年でなんかしら変わってきた感覚ってありますか? このカイタッチ・プロジェクトをやっていく過程で気付いたことでもいいんですけど。
郷司:カイタッチ自体はまだ4ヵ月ぐらいしか経ってないので、まっすぐなお答えになってないのかもしれないですが、最初の取り組みとして「Club KAI」というモニタークラブをやりましたっていうのを申し上げたと思うんですけど、あれはやっぱり、おっしゃってるように「ネットが怖かったから」っていうのがすごく大きいんですよね。
どういった内容がくるのかもわかんないんで、数も絞りたいし、たとえば懸賞サイトに出して、一気に集客をはかるみたいなことも考えたんですけど、とりあえずは数じゃなくて質を求めていこうっていうのをやってきたんですね。
その結果、ちゃんとやってれば大丈夫なんだということがなんとなくわかってきたんです。
変なことするから変なこと書かれるんであって(笑)、ちゃんとやってればちゃんと返ってくるなという感覚が持てたので、ブログの方にも踏み込めたというのも、あると思うんですね。
貝印のウェブとして感じてることの変化というのは、あまり無いんですが、僕自身がウェブにずっと接していて、やっぱりウェブという環境に僕ら自身もみんな、ちょっとずつ慣れてきていて、新しくエントリーしてる人もいるでしょうけど、多くの人はもう慣れてきたじゃないですか、僕ら自身も。
河野:そうですね。
郷司:で、新しくやってきた人もこなれてきてるし、もちろん余計なコメントをして、荒らす人はたしかにいるんでしょうけど、わざわざ企業のサイトに対して、そんなことする人って、よっぽど時間を持て余しているんじゃないかっていう感じもありますし。
河野:まあゼロじゃないですけど、(企業サイトにまで悪いことをしに来る人は)ほとんどいないですね。
郷司:人が慣れてきている分、いろいろ整理できやすくなったっていうのかな、僕らとしても取り組みやすくなったんですね。逆に偏りがなくなって、バーッと拡がったので。これって普通の一般の人間社会と同じじゃないですか。
河野:はい、その通りです。
郷司:もともとネットは特別だったんですけど、こういう世界になったんで、今ではほとんど人間社会と一緒の環境。
僕らがウェブプロジェクトを進める時に、「Web2.0」という言葉に対して、あれはメディアなの? ツールなの? という話が出てたんですけど、いや、要はただ環境が変わっただけだから、新しい環境に順応しましょうってトライだったんですね。
で、僕らもその環境に慣れようとしてきたし、一般のユーザーの方も慣れてきたしっていうので、たしかに環境が変わってきているという捉え方をしています。
河野:じゃあその、例えば今ぼくはたまたまモバイルって話をしたんですけど、今後、モバイルってどういう風に取り組もうと考えてますか?
郷司:モバイルは前々からやりたい、やりたいって言ってるんですけど、できてないですね。ひとえにリソースの問題ですね。
あのちっちゃな画面とパソコンの世界とでは、根本的に違うだろうと思ってて。僕の中では違う世界なんです、あれ。
特にこれ、思い込みなのかもしれませんが、たとえばECサイトとか見ていても、やっぱりユーザーの方って、圧倒的に女性が多かったりするし、ウチの場合、特に主婦層のお客さまが多かったりするので、モバイルへの取り組みは非常にバリューが高いっていう認識ではいるんですね。
で、早く着手したい! それだけです。ただ、どうしようかなと思ってて。
今のサイトでもECについての議論がずっとあって、コーポレートサイトではECはやらないという結論を出したんですけど、モバイルの方も含めて、まだまだ考えなきゃいけないっていうか。
まだ、今のPCのサイトの方でやり残したことがいっぱいあるので、まずはそこをちゃんと積み上げて、次のステップに行きたいですね。
河野:PCの方で、ECをやらないと決められたのは、どういう理由があるんですか?
郷司:今、楽天の中に一応サイトがあるんですね。
そこでオンラインショッピングをやっていて、僕も少なからず管理しているんですけど、そこの数字を見ながら、今、ECをやるプラットフォームを設置する、投資をするだけの、投資対効果がないという判断をしています。
もうひとつは、実際、僕らが扱っている商材を売っていく時に、やっぱり一番キーになるのは、まだ価格なんですね。
商品の背景をきっちり説明するだとか、高い画像や動画で説明していくことよりも、価格訴求がどうしても強い商品なんですよ。
値段を下げるとなると、今度はこれまでの取引先とのコンフリクトというのも出てくるし、そこに踏み込んでいって事業採算がどうなるかというのまで考えると、ちょっと踏み込めないっていう理由ですね。
ただ、いずれはECもやりたいとは思っているので、その準備として、サイトでできることをもっともっと掘り下げていって、いざ踏み込むぞっていう時には自信をもって入っていきたいっていう気持ちはありますね。まだまだ準備が足りない。
河野:そういう理由だったんですね。
ちょっと、カイタッチプロジェクトに話を戻してですね。
遠藤さんに質問なんですが、これまでにすごくたくさんのコメントをつけてらっしゃると思うんですけど、何か思い出に残るエピソードってありますか?
遠藤:みなさん、けっこういろんなことを書いてくださるんで、それぞれに思い入れはたくさんあるんですけども、中には我々に対するコメントを(コメント欄に書くのではなく)わざわざ別記事にして書いてくださる方もいらっしゃるんですね。
一度、コメントを残しに行ったあとに、カイタッチのサイトにリンクとして追加させていただくんですけど、そのときにリンクチェックのために再度ブログを見に行くんです。
そうすると別記事で、わざわざメガネ犬の原田さんが、カイタッチのえんどうさんがと、わざわざエントリーを作ってくださってる方がいらっしゃるんですね。
いち担当者に対する思いをわざわざ記事にしていただけるようになるっていうのは、やってる方としては非常にうれしいことですし、担当者に対する愛着というものを持っていただけるようになったというのは、大変感謝しています。
あとは、こちらから「こういう商品もありますよ」っていうご案内をすると、「ちょうど今、迷ってたので、じゃあこれ買ってみようと思います」という方がいらっしゃったりとか。
「こういうお題をやっているんで、ぜひ」というお話をすると、たとえばお題の中に「貝印の製品を探して、エントリーしてください」っていうのがあるんですけど、わざわざ探してくださって、ものすごく古い、今のロゴマークじゃない時代の商品をエントリーしてくださる方とかもいらっしゃるんですね。
もちろん今はこのマークではないので、その方は貝印の商品だとわかった上で、載せてくださってるんですけど、そういう熱心な方がいらっしゃったりするので、大変うれしいですね。
河野:ぼくの話になっちゃうんですけど、ちょうど先日、ぼくの本の感想をブログに書いてくださる方がいらっしゃって、それがポストイットを貼りまくった写真を載せてくれてて、そういうのを見ちゃうと泣きそうになるんですよ(笑)
普通に「読みました、良かったです」じゃなくて、もちろんそれもうれしいんですけど、ボロボロになるまで読んでくれてたりするのを見ちゃうとテンション上がりますよね。それがそのまんま、きっとぼくが残すコメントにも当然、おっしゃってたように、熱がこもってるでしょうし、それが伝わってるような気がします。わざわざ著者がコメントくれたってだけじゃなく。
非対面なネットだからこそ、そこの上にはお互いの熱を交換できるような仕組みがあってほしいなっていうのが、すごくあるんですよね。
ぼくはネットを、それができるインフラだと思っているんで。
そういうのはもっともっと、定型のメールをどーんと投げて終わり、じゃなくて、いろいろとやってほしいなと思いますよね。
あ、そうだ。藤田さんからも質問あったよね?(藤田を見る)
郷司&遠藤:(笑)
藤田:はい(笑)
すみませんね、書いたり写真撮ったり……。
郷司:あーいえいえ。とんでもないです。
藤田:じゃあ、ボクの方からも。
今日はお時間いただきまして、ありがとうございます。よろしくお願いいたします。
郷司:はい、よろしくお願いいたします。
藤田:いきなりすごい直球で質問するんですけども、お題の中には、貝印さんに関するすべてのことを受けとめる、締切なしのがありますよね。
遠藤:はい。
藤田:これの中に、100%悪意で書かれたエントリーはあると思うんですよ。そういうブログを見つけた場合の対応はどうされてるんでしょうか?
遠藤:まず、これまでに悪意のあるエントリーらしきものは、基本的にありませんでした。
もちろん中には弊社製品を使って、うまく切れなかったとか、そういういった内容のものはあります。そういったブログに対しても、「それは申し訳ございません」という謝りの形で、コメントを残したことがあります。
最近の例ですと、製菓用品がイマイチ使えないというか、この辺が不良なんじゃないかっていうブログはありました。ちょっとあまり良くない内容ですね、弊社から見ると。
そのブログの記事を拝見して、このカイタッチ・プロジェクトをやっている以上、コメントに伺うわけですが、お詫びのコメントをさせていただいて、「よろしければこちらで調査しますので、ぜひお客様相談室に送ってください」というような内容をコメントしたことがあります。
こちらからそういう感じで訪問するとですね、お客さまもまさか来るとは思ってないというところもあるんで、「でも、使ってるものではあるし、愛用しているので、ちゃんと使った後に、じゃあ、送らせてもらいます」という感じで、そこから拡大するということはなかったですね。
その例はたまたまかもしれないですが、他にも「ちゃんとしてるんですね」という形のコメントをいただいて、お客さまに納得していただけたという例はありますね。
もちろん、サポートしてくださるいい意見ばかりというわけではなくて、いまお話ししたように、中にはちゃんと切れないとか、そういうのもあるんですけれども、そういうご意見に対しても、こちらから出向いて、きちんとお詫びをして。
もしそれが本当に不良品であれば、きちんと対応します、という姿勢が見せることが、お客さまの信頼に繋がるんじゃないかと私たちは思っています。
藤田:なるほど。
もうひとつ伺いたいんですけど、今は遠藤さんがコメントを残されて、そのブログのオーナーさんが返事を書かれてても、もう一度コメント書くことってないですよね。それはなぜですか?
遠藤:ひとえに全部訪問しききれないからというところが、今の現状としてはすべてですね。
もちろん、コメントが返ってきているのも見てはいるのですが、その後、また私たちが返した後に、さらに返信があって、エンドレスにどんどんなっちゃうと思うんですね。
今も、200件以上超えているんですけど、その方々とずっと密なコミュニケーションを取っていくリソースがあるかっていうと、残念ながら現状はありませんので、あえて書いてないというところですね。
藤田:なるほど。
郷司:これは最初にカイタッチ・プロジェクトを始めた頃から、すぐに「どうしましょう」と相談があったんですけど、僕はそれはちょっとやめとこうと指示をしました。
お客さまのコメントがすごく気持ちいいので、入っていくと止まんなくなるんですよ、ずーっと。どこで切っていいかわかんなくなっちゃうんですよね、じゃあ、さようならっていうのも変ですし。
だったら最初は、より多くの人に手を拡げていった方がいいだろうと。
もちろんこの先、コメントをして、コメントがさらに返ってきた、ここに対してどうアクションするかっていうのは、次の課題として認識しています。
これは一回、タッチポイントを増やしたお客さまと、どうさらに深めていくかっていう、ちょっと違うステージの話だと思っているので。
それはもうちょっとこっち側のリソースが増えた段階での、次のアクションですね。あるいはこのプロジェクトをやってて、実際に感じてる、(ユーザーに対する)ごめんなさいっていうポイントなんで、それはそれできちんとお客さまに伝えていくっていうことは必要だと思っています。
遠藤:基本的に違うお題だとか、また新しいエントリーとして書いていただければ、私たちは名目上、コメントをしに伺えるので。
「こういうお題も用意しているので、他の商品をもし使われたら、ぜひまたエントリーしてくださいね、その時はまたお伺いします。」っていう形で、コメントを終えるようにするとか、そういう小さな工夫は一応しているんです。
できればいろんなお題で、いろんなお客さまとコミュニケーション取っていきたいというのがあって。
お題001「あなたのブログにうかがいます」っていうのは、基本的に弊社のことや、このカイタッチ・プロジェクトのことを何も知らない方に対して、突然伺う理由としてのお題として用意しているんですね。
お題002「あなたのお宅にも貝印製品」っていうのは、新たに私たちがカイタッチをしに行った後に、カイタッチ・プロジェクトの存在をわかってくださった方に、継続的にコミュニケーション取りに行きやすいようにするために、お題を用意しているっていう形になっています。
できれば、コメントでずっと続けていくよりは、お題をどんどん改めて、コミュニケーションを継続していきたいなっていう意味を込めて、ちょっとお題を増やしているという形になっていますね。
けっきょく、すぐにコメントをしてくださる方もいらっしゃるんですけど、何日か置いてコメントしてくださる方もいるので、そのコメントまで、ちょっとチェックしきれなくなってしまうので、コメントがついたら自動的にチェックできるみたいな機能があるといいんですけど、そういうサービスがないので……。
河野:今、それ作ろうとしているんですよ。
遠藤:ブログで書いていらしたのは、拝見しました(笑)
河野:できたら、ぜひ、テストで使ってください(笑)
遠藤:はい、ぜひ。
郷司:あ、ぜひぜひ! いつ頃、できますかね?(笑)
河野:いやいや(笑)
ぼくも早くほしいので急いでくれと言っときます(笑)
郷司&遠藤:あははは(笑)
河野:まだまだ世の中には1週間に1回しかネットにアクセスしない人がいらっしゃるんで、その人は1週間後までコメントが付いてることすら知らないわけですよね。メールも読まない人はそうですよね。
遠藤:そうですね。
河野:こっちが翌日、翌々日に見に行っても、何にもなくても、2週間後に行ったら、「あ、コメント付いてた!」みたいなことがあったりするんで、そこはね、やっぱり自動で教えてほしいですよね。
遠藤:そうですね、我々もけっこう、古い記事にコメントしに行ったりするんで、そうするとすぐには公開されないんですよね。先方に承認していただいて、初めてそのコメントが公開されるみたいな感じになると、ずーっと承認待ちになってるものっていうのがけっこう、あったりするので。
郷司:あるよね。
遠藤:たくさんありますね、毎日チェックするしかないんですけど、忙しいですね(笑)
河野:あははは(笑)
藤田:先ほど、目標値のところでですね、それぞれの担当ごとに何件という話がありましたけど、具体的には何件なんですか?
郷司:えっとですね、たしか半年で60件とかじゃなかった?
遠藤:はい、そうですね。ただ、その目標を立てた時って、まだ始まったばっかりで、けっきょく、どれぐらい最終的になるかってわからないので、あてずっぽうでだいたいこれぐらいかしらっていう、希望的観測で入れてるっていう部分があるんで。
郷司:だから、1ヵ月10件みたいな印象なんですね。1週間に2個、3個やってれば、月10個くらいなんで。
まぁ、そんな来ないんじゃない? みたいな、最初はそう思ってたんですけど(笑)
遠藤:最初はそう思ってたんですけど(笑)
藤田:じゃあかなりの手応え感ですね?
郷司:そうですね、手応えはかなりありますね。
遠藤:だいたい、今は1ヵ月に20から40件ぐらいはコメントを残していますね。
郷司:カイタッチ・プロジェクトをやっていくと、じつは1件、1件、けっこう時間がかかるということも、わかってきて。
遠藤:そうですね。
郷司:まぁ、最初は1?2分くらいかなと思ってたんですけど(笑)
その人のブログを読んで、その人のプロフィールを読んで、時には別のブログも読んでみたいになると、ものすごく時間がかかります。
河野:けっこうかかりますよね。わかります(笑)
遠藤:(笑)
郷司:10分から15分はかかっちゃうよね、やっぱり。
遠藤:そうですね、あとはマニアックな視点で書かれてたりすると、こちらも簡単に答えるわけにはいかないので、担当部署に確認を取ったりすることになりますので、そういう場合はもう少しかかったりしますね。
河野:まあそうでしょうね。
郷司:僕なんかはほら、顔文字すら使えないんで、そこから必死ですよ!(笑)
全員:あははは(笑)
郷司:どこかにコピペして置いておいて、コピーして貼るって、う?ん……(笑)
河野:わかります(笑)
郷司:これって、笑顔? みたいな(笑)
河野:笑ってると伝わるよね? みたいな(笑)
郷司:そうそう(笑)
郷司:このカイタッチで初めて使いましたね、顔文字。
河野&遠藤:あははは(笑)
郷司:やっぱり味気ないもんなんですよね、文字だけでやってると。
河野:そうなんですよ。
郷司:あの顔文字あるだけで、全然違いますもんね。
河野:ぼくも♪とか☆とか、普段は絶対使わないんだけど、堅くなりそうなときはそれでちょっとニュアンスを柔らかくして。
郷司:ありますよね。僕、おかげで娘とのコミュニケーション、良くなりましたもの(笑)
河野&遠藤:あははは(笑)
郷司:カイタッチのおかげです(笑)
藤田:あとですね、お題の005(冬のイベントには手作りスイーツを)のやつで、クリスマスやバレンタインのスイーツにまつわるエントリーがあったと思うんですけど、特に貝印製品を使ったとか、そういうのを絡めるお題の出し方ではないじゃないですか?
遠藤:はい。
藤田:そうすると、通常のクリスマスやバレンタインについて書かれたブログっていっぱいあるので、その辺のどういう見分け方というか、これは資格あるというか、どうされているんでしょう?
遠藤:これ、実際に申請があったブログを見てみると、単純にクリスマスこうだったとエピソードを書かれている方と、気を使っていただいて、弊社の製品を使ってこんなの作りましたというエピソードを書かれている方と、2タイプあるんですね。
もともと、わざと絶対弊社の商品を使ってくださいという縛りを設けてないんです。
というのも、これも継続的なコミュニケーションを図りたいという延長線上に出てきているものなので、細かく縛りたくなかったっていうのが本音ですね。
我々とのコミュニケーションを通じて、弊社でもこういう商品を扱っているんだよってアピールを、最終的にできればいいというところなので、あえてそこは自由にしました。
もちろん、「クリスマスはこんな感じでした」というエピソードに終始している方に対しても、普通にコメントを残しています。「素敵な思い出ですね」みたいな感じにはなってしまうんですが、きちんと伺ってコメントしていますね。
ただ、エピソードだけの方のほとんどは、過去に参加されていて、カイタッチ・プロジェクトのことを気に入っていただいた結果として、もう一回やっていただいてるという方が多いんです。
というのも、我々がこういうお題をやっているので、もし良ければ参加してくださいって呼びかけているっていうのがあってですね。こういうお題の場合は敷居が低いので、入りやすいというのもあったのかもしれないですね。
河野:あ、そうだ。コメントをつける練習とかは、されたんですか?
郷司:特にはしてないです。最初は、ドキドキするんですけど、みんなそれぞれ書かせて、自分なりの文体もありますんで、それで僕が全員が書いたのを一回見てですね、まぁ、そんな変なの、無いじゃないですか。
河野:まあ、ないですよね。
郷司:じゃあ、あとはみんな好きにしようよ、ということで。
ただその、何かを悪く言ったりだとか、あとはフレンドリーになるのはいいけど、当然、相手はお客さまなんで、一定の節度を持って接するとか、そのくらいですね。それ以上やるとなんか堅くなっちゃうんで。
河野:機械が書いた文章みたいになっちゃいますからね。
郷司:まぁ、そこの基本スペックは日々の業務で鍛えてあるはずなんで、という認識のもとで(笑)
遠藤&河野:あははは(笑)
郷司:最初だけだよね? 文面を見たのは。
遠藤:そうですね、最初だけ一応チェックをして、まぁ、基本的にこの姿勢であれば、大丈夫でしょうという形で。
郷司:あとは一応、後で見れますんでね、全部。そこで見てますけど、やっぱり変なのはないんで、今はもう安心してます。
河野:実際にぼくのブログに遠藤さんが残されたコメントもそうだし、他の人のブログに残されてるコメントもいくつか見たんですけど、距離感がすごくうまいなと思ったんですよね。
このコミュニケーションにおける相手との距離感って、けっこう教えるのが難しいと思ってて、まぁ、社内でも距離感が取れない人っているじゃないですか?(笑)
郷司&遠藤:あははは(笑)
郷司:私とかそうですね(笑)
河野:またまた(笑)
ましてや、特にネットのやり取りって、それまでのカスタマーサポートみたいに、1対1じゃないじゃないですか。
これまでの顧客対応って基本的にメールとか電話とかクローズドな環境ですよね。もちろん録音したりコピペしたりして、どこかに公開されることはあるんですけど、まあそんなことはほとんどないわけです。
でも、ブログにコメントを付けるっていうのは、その瞬間に、それが10人か100人か1000人かわからないですけど、ぜんぜん関係ない第三者がたくさんいる、衆人環視のもとで、1対1のコミュニケーションやるんで、ちょっと慎重にならざるを得ないなと思っていて。
そこでまさにおっしゃったように節度な距離感を取るっていうのは、ひとつのスキルだと思っているので、ぼくはもうちょっと、社内でトレーニングされてるのかなと思ってたんですよね。
いや、すごいなと。
郷司:ありがとうございます。でもこのために何かをしたとかはないですね。
遠藤:結果的には、なんですけど、私自身はたとえばメルマガのチェックやお客さまへのご案内を担当していたのが、役に立ってると思います。
そういうコミュニケーションは、業務としてやっていたんですね。
その時の一応、感覚値みたいなのはあるので、私としてはそれがもっと1対1の密なものになったという感覚なんですね。我々、本当に実務をやっている者としては。
河野:なるほど。まったくのまっさらということでは、なかったと。
郷司:まぁ、僕たちの日々の業務というのはそういうことばかりなので。
あとは指針というほどのことではないんですけど、いくつか徹底したことがあります。まず、自社製品はプッシュしないこと。それから、人を悪く言わないこと。最後に、感謝の意を持って接すること。これぐらいですかね、あ、あと、ウソをつかない。わかんないことはわかんないって言う。これぐらいですね。
でも、これぐらいの決めごとがあったら、書けることっておのずと決まってくるはずなんですよ。あとはまぁ、みんな会社の代表でやってるという意識を持ってやってますんで、一般社会人ならなんとかなるでしょう、って思ってます。
ただ、全社プロジェクトとする時はちょっとね(笑)
河野:そうですね、さすがにいろいろありそうですしね(笑)
郷司:ちょっとね、怖いんで(笑)
いきなり、はいスタート、っていうわけにはいかないと思ってますけど。
まぁでも、スタッフのスキルってのはあると思いますね。多くの人には簡単なことでも、やっぱりできない人っていますから。今のところは、スタッフに恵まれているっていうことじゃないですか。(コメントの文面に対して)線引き、引けないじゃないですか。
河野:引けないですよね。
郷司:これは95点だとか(笑)
河野:それは難しいですね(笑)
けっきょく、最終的には、表に出さなきゃわかんないじゃないですか。こっち側で、これはいいんじゃないって言ってても、出してみたらすごい怒られることだって、あるわけですし。
特にコミュニケーションの難しいところって、単純にそこにある言葉や文章がどうこうじゃなくて、読み手が、たとえば前の日にすごいいいことがあったら、多少のヤバいことでも笑って受け入れてくれるし、でも彼女にフラれた後だったら、ちょっとしたところでイラッときちゃって、怒ったりするんで。
同じ文章を出しても、受け取り手側の精神状態で、ぜんぜん印象が変わったりするんで、そういう意味ではトレーニングや準備の限界はあるんですよね。
郷司:あとは書いたことに対しての、コメントを必ず全部チェックしてるわけじゃなくて、こっちはある意味、書きっぱなしになっちゃってるところがありますので、後で見返して「あー、マズかったかな……」みたいなやつはあるかもしれません。ないように祈ってますけどね。
ただ、お客さまの反応を見きれてないといったところは、さっきと一緒で、今後の課題のひとつではありますよね。
今のところは喜んでくださってるコメントが多いですけど、もしかすると「なにこれ!?」みたいなのが出ているのに放置している可能性もあるわけですから、そういう意味では怖いですけどね。
まだまだ、先は長いな……。
河野&遠藤:あははは(笑)
河野:でも、本当に大きな取り組みだと思います。
実際に、どの会社もやってないことでもありますし。数字が当初、読めなかったっていうのも、前例がないことをされてるんで、当然だと思いますし。
ぼくも今日伺うにあたってけっこうな件数を拝見したんですけども、あれだけの喜びようをブログ上で表現することって、そうそうないですよね、ひとり一人が。
だから、誕生日とかもちろん、その人にとってのハッピーなイベントがあれば、すごくテンション上がって書くんですけど、それに匹敵するぐらい、彼らの心理変化を起こしているなと。
郷司:あー、そうですか。
遠藤:ありがたいですね。
郷司:ちょっと、社長に言ってもらえないですかね。
全員:あははははは(笑)
遠藤:ちょっと、給料日前くらいに(笑)
郷司:ボーナス査定時期ぐらいに(笑)
遠藤:そうですね、ボーナス査定前日ぐらいがいいですね(笑)
河野:あははは(笑)
河野:ではそろそろ最後の質問に。
今後、全社プロジェクトにするとか、現状の課題について、たとえばコメントのコメントをどうしていくかをすでに伺ったんですけど、それも含めて、これからどういうことをやっていきたいと思ってますか?
郷司:全社プロジェクトにしたいっていうのはあくまでも手段なんです。あくまでも経営企画室という立場の中で、マーケットコミュニケーションに、よりみんなが関わっていこうという話なんですね。
河野:はい。
郷司:一番狙っているのは、そこなんですよ。会社全体のマーケットコミュニケーションに対する意識を高めたいので。
その中で社員ひとり一人が少しずつ、お客さまのブログの場をお借りする形になりますけど、そこに対して、積極的に、自主的に参加していくっていうのを、まず会社の思想として植え付けさせたいと思っています。そのためのひとつのツールとして、カイタッチを活かしていきたいということで。
もうひとつはせっかく始めてるプロジェクトですし、せっかく喜んでいただいているわけですから、この喜びの輪を拡大していきたいと思っています。ボリュームを追いたいということではなくて、クオリティを上げていきたいというか。
たとえば、コメントに対するコメントをどうするとか、僕らが手の届かないところって今後もずーっとあるはずなんで、その手が届かないところをどう埋めるのかではなくて、手が届かないところをどう表現していくかっていうところで、知恵をどんどん出し合ってやっていきたいなと思ってますね。
全部を完成させるのは無理なプロジェクトなんで、お客さまとのやり取りの中から、どれだけ気づいてどれだけ手を打つか、ということですかね。
河野:はい、ありがとうございます。とりあえず、そのコメント監視のやつは、できたらご連絡します。楽しみにしてください(笑)
郷司:ありがとうございます。嬉しいね! めちゃくちゃ(笑)
遠藤:そうですね(笑)
河野:今日はどうも、ありがとうございました!
以上でインタビューは終了です。
(取材日:2009/2/23、取材場所:貝印株式会社、本社会議室)
最後に同行してくれた藤田さんとぼくの感想を。
取材を終えて(藤田)
個人的にもこの取材で得るものは多かったのですが、もっとも印象的だったのは担当者の方のバランス感覚と、このひと言。
「マーケットの声に直接触れて、悪いことなんて、絶対ないはず」
トレンドに流されることなく、何が自分たちにとって必要で、そうでないものは何かを見極め、地道に経験を積んできた結果として得られたものだと思います。
今回、インタビューの内容をほぼそのまま掲載しているので、ネットやブログに対してどう取り組もうかと悩んでいる企業担当者の方は、かなりヒントになることが詰まっていると思います。ぜひ参考にされることをお勧めします。
取材を終えて(河野)
本当のカンバセーショナルマーケティングは、企業の担当者がネット上のあちこちで「すでに」行なわれている会話に「自ら」参加することです。
それは企業ブログにトラックバックを送ってもらうことでも、ブロガーイベントを開催することでもなく(もちろんそれらは大事な試みだと思うけど)、ユーザーのブログを訪問してコメントを残し、そこで会話することだとぼくは考えています。そして、それを実際にやられているのが貝印さんだったのです。
担当の郷司さん、遠藤さんに話を伺って感じたのは、地に足がついているなということです。自分たちがやりたいことと、今できることをきちんと整理して、その折り合いをちゃんとつけているのはなかなかできることではありません。
郷司さんは、ネットへの取り組みを手探りで慎重に進めてきた一方で、書き込む内容には特にルールを設けず、社員を信じて任せる大胆さも兼ね備えています。
遠藤さんは、ぼくへのコメントでも感じたことだけど、本当に距離感が素晴らしい。なれ合いにならず、それでいてフランクさを保った文章力は本当にすごいと思いました。
今回の取材で、かつての企業ブログもそうでしたが、先例のない企業コミュニケーションは「顧客と繋がりたい」という強い意志を持った、優秀なプロジェクトチームの存在が不可欠なんだなと再認識しました。
こういう試みがもっともっと他の企業に広がっていくといいですね。
この対談記事はトーキング.jpより転載しています。
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