顧客ロイヤルティを把握しましょう
「顧客重視」や「顧客第一」を掲げる企業はたくさんあります。
これは言い換えれば「顧客満足度を高める」ということです。ではその顧客満足とはなんなのでしょうか。またその満足度はどのように測定すればいいのでしょう。
顧客満足とは何か
まず最初に「満足」という状態について考えてみます。ぼくたちはいろんなことに対して、満足したり、不満に感じたりしていますが、これはどんな差があると思いますか。
満足とは、事前期待を体験が上回った際に感じる気持ちのことです。すなわちその商品やサービスの良し悪しにかかわらず、体験前の期待を越えることができるかどうかだけが満足と不満を左右するのです。事前期待は「予想」と言い換えてもいいでしょうね。
だから100円ショップで見つけた商品を自慢げに見せる人は事前期待が低かったために大満足だったのでしょうし、逆に1万円の料理を食べてそれなりにおいしくても事前期待が高かったために満足できない人もいます。
(補足すれば「満足」しないまでも「納得」する状態はあります)
非常に簡単な不等式ですが、ただこれだけの話です。
満足とは、実体験 > 事前期待 のこと。
不満とは、実体験 < 事前期待 のこと。
つまり満足を意図的に生み出すことは可能だということです。相手の事前期待を把握して、それを上回るサービスを提供しさえすれば、必ず満足いただけます。
過剰なサービスをしろと言っているのではありません。誠実な対応を続けるだけでもいいのです。ぼくら消費者は常に比較しますから、競合が邪険に扱うような質問であっても、きちんと丁寧に対応しさえすれば十分期待を上回ることができます。
宣伝広告をする際も、満足の観点からは注意が必要です。
たくさん宣伝をして期待を煽ってしまうと、そこそこ良くできていても満足してもらえないことになります。だからこそ伝える相手をしっかりと見定めて、期待に応えられる人に対してだけメッセージを届けることが重要なのです。
顧客満足と顧客ロイヤルティ
すなわち「顧客満足」とは、顧客が企業の提供する商品やサービスに満足した状態を指します。またその度合いを「顧客満足度」と言います。
さらに顧客満足とは別に「顧客ロイヤルティ」という言葉もあります。
顧客ロイヤルティは単なる満足を超えた関係性を表します。より簡単に言い切ってしまえば顧客ロイヤルティが高い顧客は、そのブランドのファンであるということです。
一般に、他者へクチコミしてくれるような優良顧客は顧客ロイヤルティが高い顧客ですし、リピート率が高いのも同様です。
(裏を返せば、顧客ロイヤルティを反映する指標として購買リピート率は有用です)
顧客満足度を測るために、購買後のアンケートを実施することが多いのですが、このように短期的な(直前の)体験に対する気持ちを聞くことが、必ずしも顧客ロイヤルティの調査にはなりません。
購入体験はそれでなくてもテンションが上がるので、あとで冷静になってみたり、じっさいに商品を使ってみたときに初めて本当の気持ちがわかるからです。
ですから満足度調査はあくまでもそのセッション、一連のやりとりにおける満足度を知るためのものであって、その後の行動も含めて見なければなりません。
また、リピート率が高いからといって、必ずしも顧客ロイヤルティが高いわけではないというケースもあります。たとえば家から近いスーパーはそこしかないから通っているとか、いちばん安いから買っているだけとか、こうした「見せかけのロイヤルティ」も多くあります。
あるいは本当は好意を抱いていて購入したいが、経済的事情などによりじっさいの行動には結びついていない「潜在的ロイヤルティ」という状態もあります。
企業にとってロイヤルティの高い顧客は収益に大きく貢献します。これはCRMの基本的な考え方に沿っています。
顧客ロイヤルティを測る
顧客ロイヤルティが低いより高いほうがいいのはわかっていることですが、どのように測ればいいのでしょうか。
NPS(Net Promoter Score)
有名な調査手法として「NPS(Net Promoter Score)」というものがあります。NPSの調査方法は簡単で、顧客に対して「あなたはこの製品を友人に薦めますか?」と聞くだけです。11段階評価で回答してもらい、その数値によって3つのグループに分けます。
具体的には9-10点が「プロモーター」と呼ばれる推奨者で、6点以下が「デトラクター」と呼ばれる批判者です。この数値の差分がNPSとなります。
たとえば推奨者が全体の30%で、批判者が20%であれば、NPSは10%となります。もし推奨者が20%で批判者が30%であれば、NPSは-10%ということです。
ロイヤルティの観点で言えば、プロモーターこそが「真のロイヤルティ」であり、7-8点の中立者は上記でいえば惰性で購入している「見せかけのロイヤルティ」にあたります。
NPSはフレデリック・ライクヘルドという人が提唱した調査方法で、平均的にはNPSが12ポイント増加すると、企業の成長率が倍増すると言われていますが、これが本当かはわかりません。
また、NPSに問題がないわけでもありません。
ある商品やサービスを推薦できるかという質問を11段階で回答してもらうことも非常に難しいですし、ある人にとって「普通」や「どちらでもない」とする数値が数段階ずれることも十分に考えられます。そのため回答者によって9と8のちがい、7と6のちがいが生じやすいのは問題点です。
ほかにも日本人の中庸性を考えると、こうした調査では回答が5や6に集中することが推測されるため、NPSの評価に従えば辛口の評価になってしまう可能性が高いです。
しかしそうはいってもNPSが高いことが絶対的に良いことであることはまちがいありませんし、また何かの施策を行った際の前後調査で見る場合には非常に有効です。
とくにECサイトの場合は、ぼくは認知経路とNPSのようなロイヤルティ調査だけで十分じゃないかと思っています。もちろんアクセスログや購入履歴などの分析はしますが、顧客に対して行う調査という意味では、このふたつを続けるだけでいいでしょう。
ただし11段階の部分はやはり日本人向けにアレンジしたほうがいいと思っています。
星野リゾートでは7段階
「星のや」を運営する星野リゾートではチェックアウト時に顧客アンケートを回収しています。テレビで見た限りですが、評価幅は以下の7段階でした。
- 非常に満足
- 満足
- やや満足
- どちらでもない
- やや不満
- 不満
- 非常に不満
これはNPSではなくサービスに対する満足度調査ですが、一般的には5段階が多い中で、7段階にしてできるだけ細かく聞くことで、より詳細かつ正確にお客さんの気持ちを理解しようとしているんでしょうね。
その上で「非常に満足」を50%以上にするのが目標だそうです。
大事なことは継続して数値を追いかけること
NPSのように差分を見るのもひとつのやり方ですが、こうした後日の調査をいきなり始めるのが大変な場合は、星野リゾートのようにまずは満足度調査を行い、最上位の「非常に満足」の割合だけを見るのもひとつのやり方です。
大事なことは同じ基準で、継続して数値を追いかけ改善を続けることです。
また顧客ロイヤルティの向上に伴って、本当に利益率も改善されているのかをきちんとチェックしましょう。一般的には相関関係が強いはずですが、それは絶対ではありませんので。
アドボカシーマーケティングにしろ、CRMにしろ、またこうした顧客ロイヤルティにしろ、どれも言わんとしていることは同じで、顧客の期待を上回るサービスを提供し、彼らの満足と信頼を勝ち取れば、企業の収益性は飛躍的に高まるということです。
ザッポスのようにそれを証明している企業はすでにありますし、日本にも星野リゾートをはじめきっとたくさんあるはずです。
「顧客満足」を掲げるなら、きちんと顧客ロイヤルティを数値化すべきです。そしてすべての施策をここにつなげるように意識しましょう。
7段階のアンケートについてですが、何年か前に私が自社の顧客アンケートを設計するときに読んだ本(タイトルは失念)には、5段階だと3の「普通」に回答が集まりがちで、それが「不満に近い普通」なのか、「満足に近い普通」なのか判断しにくいので、1と7を入れて回答の偏りを減らそうとしていると書いてあった気がします。
ありがとうございます。やっぱり真ん中に偏るのを読み解くためなのですね。
とはいえ11段階は多すぎるような気もしますので、7段階くらいがいいのかもしれません。
たしかNPSの場合は「いいと思う」のような説明がなくて、単純に「0から10のどれ?」という聞き方なので、そういう意味では11段階(10点満点+0点)のほうが答えやすいのも事実ですね。
個人的にはアンケートと行動は結びつかない(例:エコ意識とエコ行動)場合があるので、
極力は観察行動データによる測定に限定すべきと考えます。
潜在の部分に関しても、プロモーションへの反応等(メルマガ閲覧、来店の頻度)での計測のほうが
実際の行動の予測には役に立ちそうな気がします。
コメントありがとうございます。
もちろんアンケートだけですべてを把握することは不可能です。どうしてもバイアスはかかりますから(サンプルの観点からも、回答時の心理的な観点からも)。
とはいえ、ぼくは全体を把握することと同様に、積極的に支持してくれる一部の人を把握することも大事だと思っていて、それにはこうしたアンケートなどは有効だろうなと思っています。
誰と深くコミュニケーションをとるべきかは常に意識すべきですし。