NPS®(ネットプロモータースコア、Net Promoter Score)は日本でも2〜3年くらい前に一瞬だけ風を感じたんだけど、すっかり聞かなくなっちゃいましたね。

いちおうおさらいしておくと、NPSというのは「あなたはこの商品(または企業やブランドやサービス)を友人や同僚にオススメしますか?」という質問をして、0点(絶対オススメしない)〜10点(絶対オススメする)の11段階で答えてもらいます。
その結果で「10〜9点」のグループ(推奨者)の割合から「6〜0点」のグループ(批判者)の割合を引いた数値をNPSと呼びます。
NPSを直訳すれば「推奨者の正味比率」ってことになります。

具体的には、10人中、9点以上が4人なら推奨者は40%、6点以下が3人いれば推奨者は30%なので、NPSは+10となります。
(すなわちNPSの最大値は+100、最小値は-100です)
ポイントは「8〜7点」のグループ(中立者)は無視するという点と、中央値である5点はおろか6点でさえもネガティブな意味を持つ点、全体の平均値とは関係ないということです。

NPSの利点

NPSがなぜ注目されたかというと、端的にいえば「顧客満足度より使える」と受け止められたからです。
人間は満足したからといって誰かに紹介するとはかぎりません。だから満足度が高いことと、新しいお客さんが増えていくことは相関性が低かったりします。

だからド直球に「あなたは周囲にクチコミをしますか?」と問うたほうが、企業の状態の善し悪し(=今後の成長性)を正確に測れるというわけです。

じっさい米国の調査によれば、各業界のNPSリーダー(NPSがもっとも高い企業)は、競合企業の2倍以上のスピードで成長しているというレポートもあります。

このNPSリーダーには、アップル、アマゾン、コストコ、アメックス、グーグル、フェイスブック、ジェットブルー、サウスウエスト航空、トレーダー・ジョーズなど、いわゆる顧客満足度の高いことで知られ、しかも成長している企業が並んでいます。

顧客満足度とNPS

当然ですが、NPSの高い企業は顧客満足度も高くなります。
しかし10人中5人が10点をつけていても5人が6点ならNPSは0となり(この場合の平均点は8.0)、一方でふたりが9点、ひとりが6点、残り7人全員が7点の場合のNPSは10となる(平均点は7.3)ように、顧客満足度が高い企業が必ずしもNPSでも上回っているとはかぎりません。

顧客満足度とNPS

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 平均点 NPS
5 5 8.0 0
1 7 2 7.3 +10

NPSの業界平均値を知る

質問がシンプルなこともありNPSの調査は簡単にできますが、その評価や分析となると少々むずかしくなります。
自社の調査結果だけでも継続的に聞いていくことでその変化や推移をもとに改善に取り組んだ施策の評価はできますが、競合他社と比べてどのくらい有利(あるいは不利)な状況にいるのかを確認するためには自社以外の数字が必要です。

まずは比較対象として業界平均値を調べてみます。「NPS 業界平均」などで検索するとふたつの調査結果が見つかります。
(こうやって結果を公表してくださるのはほんとうにありがたいことですね)

もちろん平均値はあくまでも平均であって分布を示すものではありませんが、最大値と最小値が開示されているのでありがたいです。

まずは2013年に行われたIMJ(株式会社アイ・エム・ジェイ)による調査結果です。

ig_20130828

IMJ調査 最小値 平均値 最大値
酒造メーカー 21 26 40
テーマパーク -2 23 45
生活雑貨店 -10 10 38
化粧品 -1 8 23
ファーストフード店 -26 4 35
白モノ家電 -8 4 14
PC -10 3 51
出前・デリバリー -8 -1 5
家電量販店 -21 -2 20
ラグジュアリーブランド -15 -9 11
健康食品 -22 -13 9
スマートフォン -48 -14 31
ファストファッション -34 -19 -4
損害保険 -44 -20 6
証券会社 -42 -24 -8
生命保険 -43 -26 16

参考:IMJ調査レポート 「業界別NPSを徹底調査 第4回 NPS業界ベンチマーク調査 」

調査期間:2013年8月9日(金)〜8月11日(日)
有効回答数:5,380サンプル

PCの最大値「51」はアップルでしょうね(おそらくスマートフォンの最大値「31」も)。
テーマパークの最大値「45」はディズニーランドでしょう。
いくつか思い浮かぶ企業や商品がありますが、業界ごとにバラバラであること、平均値がマイナスの業界がかなり多いということがわかります。

一般的な日本人は、10段階評価の場合(NPSの場合は0からはじまるので正確には11段階ですけど)なんとなく【5】と【8】を選びがちだと思います。
この場合【8】は中立者としてNPSの集計では無視されて、【5】は批判者に含まれるため、日本人相手の調査ではNPSがマイナスの結果になりやすい傾向があります。

この感覚のちがいはアメリカの成績評価がNPSのベースにあるからです。
アメリカの学校では10点がA、9点がAマイナス、8点がB、7点がCで、6点以下は落第となっているため、【6】を選ぶ時点でかなりネガティブな認識となっています。
一方、日本人の感覚だと「ふつう」と思って【5】をつけても批判者になってしまうので、これはNPSを取り扱う上での課題のひとつです。
(より正確に推奨者と批判者を分類するなら、批判者の条件は【4点以下】にしてもいいかもしれません)

もうひとつの調査結果も見てみましょう。
こちらは最近のもので、昨年末に行われたNTTコム(NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社)が発表しているデータです。

image01

NTTコム調査 最小値 平均値 最大値
銀行 -52.2 -30.9 -11.1
ネット銀行 -38.3 -7.7 27.9
証券 -61.5 -58.3 -53.4
ネット証券 -43.8 -34.4 -26.4
クレジットカード -67.2 -44.5 -9.2
自動車保険 -68.2 -41.8 -22.8
生命保険 -71.4 -57.1 -46.8
ブロードバンド接続サービス -53.5 -45.6 -26.6
インターネットサービスプロバイダー -71.2 -54 -32.8
携帯電話サービス -68.4 -62.7 -57
オンラインショッピング -49.3 -32.2 -7.8
旅行予約サイト -49.1 -32 -16.9
パーソナルコンピューター/ラップトップコンピューター -64 -40 4.2
タブレット -46.8 -30.9 -4.2
スマートフォン -60.8 -38.5 -2.6
コンビニエンスストア -77.8 -52.7 -23.5
ファストフード -69.7 -45.7 -5.4
通販系健康食品 -52.3 -39.2 -21.4
化粧品 -65.5 -34.6 -10.5
航空会社 -40.2 -30.8 -11.7
ハイクラスホテル -33.6 -12 3.8

参考:NTTコム リサーチ結果 (No.225) NPS業界ベンチマーク調査結果

調査期間:2014年12月5日(金)〜12月9日(火)
有効回答数:13,521サンプル

こちらもマイナスが目立ちます。
最大値ですらマイナスの業界がほとんどです。

調査対象の業界区分が異なるため、単純な比較はできないのですが、同じような区分がいくつかあったので並べてみます。

最小値 平均値 最大値
化粧品 IMJ -1 8 23
NTTコム -65.5 -34.6 -10.5
ファーストフード店 IMJ -26 4 35
NTTコム -69.7 -45.7 -5.4
スマートフォン IMJ -48 -14 31
NTTコム -60.8 -38.5 -2.6
生命保険 IMJ -43 -26 16
NTTコム -71.4 -57.1 -46.8

ぜんぜん数字がちがいます。
調査期間が1年以上離れてるとかそういう次元じゃないくらいちがいます。

考えられるのはふたつ。
ひとつは「業界は同じでも調査対象の企業やブランドが異なるため」です。たとえば「スマートフォン」でいえばIMJの調査では「iPhone」を入れてたけど、NTTコムの調査には入っていなかったとか。
(勝手に最大値がiPhoneと決めつけてますけど)

本来、NPSは自社の顧客に対して調査するもので(だからこそ「たったひとつの質問で顧客ロイヤルティを知る【究極の質問】」と評価されているわけですが)、こうして同時に複数のブランドについて聞くためにはあらかじめ候補をリストアップしなければならず、そうするとリストから漏れるブランドも出てくるし、なにより回答者の気持ちが本来の調査と比べると飽きちゃってる可能性があり、正しく測定できないリスクがあります。

もうひとつは「NPSは正しい相手に聞かないと意味がない(数字がぶれまくる)」ということです。
たとえばNTTコムの調査では

「NTTコム リサーチ」登録モニターのうち、対象の企業・ブランドに関して、過去一年間以内に利用経験のある方

が対象者となっていますが、これでは各ブランドの顧客を代表しているとはいいがたいですし、そもそもスマートフォンで「1年以内に利用した」なんてのはほとんどの人が1機種のみとなりますから、有意な回答数が集まるとは思えません。

もちろん個別の企業(ブランド)の数字がわからない以上、もしかすると個々においてはそれぞれの調査結果で誤差の範囲におさまっている可能性もあります。
ただまあふつうに考えて、「スマートフォン」の調査で「iPhone」が項目に含まれてないことは考えにくいし、NPSが高く出そうなことを踏まえても、両者の結果がこれだけ異なるのはちょっと困りますね。

この業界平均値そのものをどこまで参考にしていいのか、判断に迷います。

アメリカのNPSも調べてみた

本場のデータも見てみようということで、一説によれば「米国の売上上位企業500社(フォーチュン500)のうち、35%の企業がなんらかの形でNPSを採用している」というアメリカのデータを見てみることにしました。
当たり前のように使われているということは、公開されているデータもたくさんあるということで、「Apple NPS」などと検索するとすぐにいろいろと見つかりました。

まずこれは2011年の業界別NPSです。最高値の企業名も掲載されています。

img_e9f6ea3a3d34802d622dc085d6baa8ec104967

最小値 平均値 最大値 リーダー
航空 -12 15 60 ジェットブルー、サウスウエスト航空
自動車保険 21 35 73 USAA
銀行 -13 18 87 USAA
証券 7 35 56 バンガード
ケーブルテレビ、衛星放送 -25 -3 28 ベライゾン
携帯電話サービス -8 19 41 メトロPCS
コンピュータ・ハードウェア 9 32 72 アップル
コンピュータ・ソフトウェア 15 31 44 シマンテック
クレジットカード -20 9 41 アメリカン・エキスプレス
百貨店、卸売、専門店 4 46 77 コストコ
食料雑貨、スーパーマーケット 24 49 82 トレーダー・ジョーズ
健康保険 -24 -5 28 カイザー・パーマネント
住宅所有者保険 16 27 78 USAA
インターネットサービス -30 -4 13 ベライゾン
生命保険 -20 0 19 ステート・ファーム
オンライン検索・情報 25 43 53 グーグル、フェイスブック
オンラインショッピング 21 47 70 アマゾン
ファストフード・レストラン -20 11 62 チックフィレ

出所:Satmetrix 2011 Net Promoter Benchmark Study of U.S. Consumers; ベイン分析
(画像は「PRESIDENT Online?『ファン顧客』の多い企業は2倍の速さで成長している」より)

ちなみにUSAAというのは「テキサス州サンアントニオにあるアメリカ軍の軍人、軍属およびその家族を対象とした金融業、保険業を専門とする会社」だそうです。

2013年の業界リーダーのデータもありました。2011年と同じ企業の場合は比較のために並べています。

業界 リーダー 2013 2011
航空 サウスウエスト航空 66 60
自動車保険 USAA 76 73
銀行 USAA 78 87
証券 バンガード 56 56
ケーブルテレビ、衛星放送 ベライゾン 32 28
携帯電話サービス トラックフォン・ワイヤレス 39
スマートフォン アップル 70
タブレットPC アップル 65
コンピュータ・ハードウェア アップル 72 72
コンピュータ・ソフトウェア TurboTax 54
クレジットカード アメリカン・エキスプレス 41 41
百貨店、卸売、専門店 コストコ 78 77
食料雑貨、スーパーマーケット トレーダー・ジョーズ 63 82
健康保険 カイザー・パーマネント 35 28
住宅所有者保険 USAA 80 78
インターネットサービス ブライト・ハウス・ネットワークス 29
オンライン検索・情報 グーグル 53 53
オンラインショッピング アマゾン 69 70
オンラインエンタテインメント ネットフリックス 50
旅行サイト トリップアドバイザー 36
ホテル マリオット 62

(参考:Top 10 U.S. Net Promoter Scores (NPS) for 2013

こうやって見てみると、アメリカの場合も業界ごとにかなり差があることがわかります。
同じ米サトメトリックス・システムズ社(Satmetrix)の調査なので、母集団のちがいによる差はわかりませんでした。

2014年のデータもあったのでイメージしやすいスマホとECの上位企業だけ引用します。

業界 上位企業 NPS
スマートフォン アップル 67
サムソン 54
オンラインショッピング アマゾン 64
ザッポス 60
グーグルショッピング 19

(参考:US Net Promoter Benchmarks: A Topline View

スマホのアップルのNPSが70→67、ECのアマゾンのNPSが69→64と、アメリカの場合は誤差に収まりそうな感じですね。

ちなみに上記の記事からリンクされているこのサイトはほんとうに便利です。
いろんな企業のNPSを過去にさかのぼって調べることができます。

http://www.npsbenchmarks.com/

このサイト運営者が独自に調査しているわけじゃなく、いろんなメディアの記事に掲載されたNPSのスコアをみんなで登録していってるみたいですね。

http://www.npsbenchmarks.com/amazon

こういうのの日本版があるといいですよね。

けっきょくNPSは使えるのか

最愛戦略を評価する上で「支持率」をどのように測定するかは課題ですが、その評価指標としてNPSは候補のひとつになりえると思っています。
(ほかにはRFM分析やデシル分析、アクセス解析でのリピート訪問率など)

ただし日本国内にかぎっては、業界内における自社の優位性を測るための指標として使うには、公開されたデータが少なすぎるためむずかしそうです。
よくわからない母集団の数字と比較して一喜一憂するのもちがいますしね。

まずは一度、自社の顧客に向けてアンケートをとってみることをオススメします。
設問は

  • 「あなたはこの商品を友人や同僚にオススメしますか?」
  • 「よろしければ上記の採点にいたった理由を教えてください」

の2問だけでけっこうです。
(最初のものだけでもかまいません)

点数は「0〜10点」と正しく踏襲してもいいですが、わかりやすく1点からはじまる10点満点でもいいと思います。
「推奨者」「中立者」「批判者」の区分はとりあえずそのまま集計することをオススメしますが、もし他社と比較する予定がないのであればカスタマイズしてもいいでしょうね。
(たとえば5点満点にして、5点を「推奨者」、2〜1点を「批判者」とするなど)

近年、企業のマーケティング活動の評価がどんどんむずかしくなっているからこそ、NPSのように単純で、それでいて企業の総力が問われるような指標が注目されていくのは自然なことだと思いますし、もう少しいろんな企業が調査を実施して、その結果が共有されるといいなと思います。

[追記]
2014年6月のベイン・アンド・カンパニーのレポートによれば、記事中で紹介したNTTコムの調査結果における損保業界のリーダーは三井ダイレクト損保とソニー損保、生保業界のリーダーはソニー生命のようですね。
生損保業界の顧客ロイヤルティとデジタリゼーション

河野

当メディア編集長。コミュニケーション・デザイナー。企画屋。1997年、ニフティ入社。2001年にニフティ退職後、フリーターとして数年過ごし、2004年から2005年までオンライン書店ビーケーワンの専務取締役兼COOを務める。ECサイト初となるトラックバックを導入し、また「入荷お知らせメール」などを考案した。また、はてな社との協業による商品の人力検索サービス等をプロデュース。2005年から2007年までシックス・アパート株式会社のマーケティング担当執行役員を務める。2007年から2010年までブックオフオンライン株式会社取締役を務め、サービスの立ち上げ全般のサポートに加え、「オトナ買い」や「デマチメール」などの独自機能を考案した。その後、フリーランスに。2014年から株式会社クラシコムに勤務。現在に至る。「アクティブサポート」や「最愛戦略」の提唱者。個人として「攻城団」と「まんがseek」を企画運営。個人のサイトはsmashmedia

シェアする

コメントを残す