ネイティブ広告を正しく理解する

native-ad

この1ヶ月、ネイティブ広告についてあれやこれやと読んだり考えたりしてきたのですが、「記事広告と同じだろ」って正しく理解せずに斬り捨てたり、「定義しなきゃ、基準つくらなきゃ」と不安にかられている方々の発言をたくさん見たので、ネイティブ広告には未来があるよということを書いておきます。

ネイティブ広告とは何か

ネイティブ広告とは要するに言葉の通り「自然に見える広告」のことで、「広告」と明記されていなければ他の通常コンテンツと見間違えるほど、そのメディアになじんでいる広告です。
それゆえにメディア自身によるステマになりやすいことが懸念されているのですが、これについては後述します。

通常コンテンツと同じ体裁にするという前提があるため、媒体側の編集部(記者、編集者)によって制作されることがほとんどです。
ただし、グノシーなどのキュレーション系アプリが採用している「インフィード型」と呼ばれるネイティブ広告――トップページのタイムラインに表示されるだけのやつ――の場合はAppStoreなどに直リンクするだけなので、画像とテキストを入稿するようになっています。

ネイティブ広告が「どんなふうに見えるか」については、そのメディアのデザインや扱うコンテンツ次第なのですが、ツイッターやFacebookのタイムラインに差し込まれるタイプもあれば、ニュースサイトのように記事型のものもあります。

ネイティブ広告はあくまでも広告であること、だけどその「見た目」は他のコンテンツと同じようにつくられているということがまず基本です。

記事広告と同じ、ステマでしょ

「記事広告と同じ」という反応がよくありますが、ツイッターのプロモーテッド・ツイートは記事ではないですし、IAB(インタラクティブ・アドバタイジング・ ビューロー:ネット広告の米国業界団体)がまとめた資料によれば、グーグル・アドワーズなどもネイティブ広告として分類されているので、記事広告的なものもネイティブ広告に含まれるけど、イコールじゃありません。

補足をすればおそらく従来の記事広告以上に「自然に」見えるようにつくるのがネイティブ広告だと思います。
あと個人的にはグーグル・アドワーズは表示されているスペースがすでに広告枠だとユーザーに認識されているので、ネイティブ広告に入れちゃいけないと思ってます。

で、メディアは広告を自然に見せようとしていて、読者は注意して見ないと広告と気づかないことから「ステマでしょ」という反応が多いんですが、そういいたくなる気持ちはよくわかります。

ぼくの当初の印象も

ざっくりした印象としては『メディア自らが積極的に関与するステマ』であり、いかにそれをソフトにかつ合法的に、そしてネット世論の批判をうけないように弁明している感じ。

というものでした。

ただネイティブ広告はメディア自身が「ステマやりまっせ!」と宣言した広告商品ではなくて、メディアが自分たちの編集力と、加えて読者との信頼関係を使って開発している広告商品です。
そもそもステマやってるメディアはそんな宣言することなく、すでに悪に手を染めていますからね。

もちろんステマが起きないとは思いません。
ただ、かつてのステマ騒動は芸能人ブロガーなど個人がやってたので(一部、ブログサービス運営事業者が営業・仲介していた事例もあるけど)、はっきりいえば事業者は知らん顔できたわけです。

でもネイティブ広告の場合はメディアの信頼そのものが失われてしまうので、広告であることを明記することや、広告主企業との関係性を明示するなど、より慎重に取り組まれるはずです。
その構造上、自らステマに対する抑止力が発生するようになっているのがネイティブ広告といえるでしょう。

ネイティブ広告が生まれた背景、注目されている理由

ここはメディア、広告主それぞれの現状から解説します。

まずメディアとしては「ディスプレイ広告が売れない」という現実があります。
これはバナー広告を無視する人が増えたり、それどころかアドブロック機能を使ってそもそも表示すらされないケースが増えていることがあります。
(それでなくてもネットメディアの総PV数が増加するのにともなって、バナー広告の単価は年々下落していますからね)

さらに拍車をかけているのがスマホの普及、スマホ閲覧率の上昇です。
スマホサイトの場合、表示画面が小さいので広告を置けるスペースが少なくなります。また、レスポンシブデザインでつくっていたりすると、PCではファーストビューで目に入るように置いたサイドバーのバナーが、ずっと下までスクロールしなければ表示されなくなります。
スマホ率は今後も増えることが予想されていますから、メディアは新しい収益源を早急につくるために試行錯誤しています。

ただぼくはネイティブ広告は、どちらかというと広告主側が求めていると思ってます。

バナー広告をユーザーが見てない、クリックしないという現実は広告主にとっても厳しいわけですが、販促についてはリスティング広告とリターゲティング広告でカバーできます。
でもリスティング広告もリターゲティング広告も「ほしい」と興味を示した人(リターゲティング広告にいたってはさらにサイトを訪問してくれた人)が対象なので、「知ってもらう、興味をもってもらう」段階には無力です。

そこでこうしたブランディング(ブランドの認知度や好意度の向上)を達成するために、メディアの読者に直接アプローチできるネイティブ広告に期待しているんだと思います。

さらにはオウンドメディアの失敗も理由としてあげられます。
「これからはコンテンツマーケティングだ、オウンドメディアだ」と煽られて自社メディアを立ち上げてみたものの、ぜんぜん見られてないわけです。
でも社内ではKPIとしてPV数やソーシャルメディアでの反響(「いいね!」数など)が設定されているので、なんとかして誘導したいという気持ちもあるのでしょう。

コンテンツへの誘導なら、コンテンツから行うのがいちばんいいですし、うまくいけばちょっと手直しするだけでメディア側にネイティブ広告として掲載することもできるかもしれないので、お金をかけてつくったコンテンツがムダにならずにすむからです。

ネイティブ広告の例

騒がれているわりに「これがネイティブ広告だ」という事例がほとんど紹介されていないのですが、ぼくがこれまでネイティブ広告について整理しながら、これはネイティブ広告といってもいいだろうと思える事例をいくつか紹介します。


@nifty:デイリーポータルZ:ハトが選んだ生命保険に入る

これはデイリーポータルZがライフネット生命をスポンサーにつくったネイティブ広告です。
2009年の事例なので、もちろん当時はネイティブ広告なんていわれてなかったのですが、いまにして思えばこういうのをネイティブ広告と呼ぶべきでしょう。


黄金比率のフレンチトースト by 明治おいしい牛乳講座 [クックパッド] 簡単おいしいみんなのレシピが176万品

あるいはクックパッドのスポンサードキッチン(企業が投稿したレシピ)。
ぼくはこの広告商品はとてもスマートだなと思ってるんだけど、見た目はユーザーが投稿したレシピとほぼ同じだし、検索にもユーザーレシピと並んで出てきます。

はてなブックマークがやっている広告ブクマ枠(PRブクマ)なんてのもあります。
これはけっこうきわどいところをついてると思うけど、そもそもはてブのトップページに並ぶリンクって、必ずしも自分の好みと一致しないわけで、そういう意味ではユーザーの期待値が低いからこそできるのかもしれません。

もうひとつはAppBankのやってるアプリ紹介広告。
グノシーなどのように直接AppStoreに飛ばすんじゃなく、まずは記事ページ(コンテンツ)を読んでもらうという遷移になっていて、読者との信頼関係を大事にしていると思います。

こんな感じで、けっこううまくネイティブ広告を取り入れているメディアはすでにあります。

ネイティブ広告のむずかしさ

ここで少し、いろんな事例を調べていて気づいた、ネイティブ広告のむずかしさについて書きます。

たとえば例として紹介した、デイリーポータルZのネイティブ広告ですが、ぼく自身はああいうネタは生理的に受け付けなくて、ライフネット生命はぜったい選びません。
でも、それはぼくがデイリーポータルZの熱心な読者じゃないからで、きっと愛読者なら選ぶんだとも思います。
(この構図は「ほぼ日」の扱っている商品を買う心理に近いのかもしれません)

ネイティブ広告というのはとてもセンシティブな広告で、そのくらい受け手の好き嫌いがわかれます。だからこそメディアは自分の読者のことを理解しなければならないし、広告主は読者への伝え方については最後はメディアを信頼しなきゃいけません。

結果として、そのメディアの読者には絶賛されるけど、それ以外の人には批判されまくるリスクがあります。そういう外野からの批判が生まれることを受け入れる覚悟がメディアにも広告主にも必要だし、その点ではなるだけ拡散させない工夫も必要になるでしょう。

なんでもかんでもソーシャルメディアで拡散させることが是とされる風潮があるけど、この手の「一部の人にだけ強く受け入れられる」ものは拡散させないことが正解だったりします。

見たくもない広告を山のように見せられているぼくらにとっても、ほんとうに自分にとって価値のある広告だけに絞ってくれたほうがありがたいですよね。

ネイティブ広告の課題と可能性

ネイティブ広告の課題は、その定義があいまいなことでも、基準ができてないことでもなくて、「これならメディアは読者の信頼を損ねないし、広告主企業の魅力を読者に伝えられてるな」と思えるような好事例が少ないという点に尽きると思います。

そもそも考え方が従来のコストや効率を重視してきたディスプレイ広告とはまるでちがうので、メディアも広告主も原点に立ち返って、積極的に見てもらえる広告・見たあとに感謝される広告はどうすればつくれるのか――あるいは不可能なのか――を考えていかなきゃいけません。
ネイティブ広告は手間もかかるし、お金もかかります。

ネイティブ広告の実施には、そもそもメディアが厳選されるし(読者から信頼されているメディアっていくつある?)、仮に読者に信頼されたメディアだとしても、その信頼を損ねないためにはどんな広告を載せてもいいわけじゃないから広告主を選ばざるをえません(広告主は断られることもある)。

また、全体の中の(ネイティブ広告の)割合も慎重に検討しなければなりません。
アメリカのQuartzという新興メディアはすでにネイティブ広告が広告収入の3割を占めていますが、月に1〜2本の記事しか掲載していないそうです。
これはネイティブ広告の広告単価の高さが伺えるとともに、メディアが広告主を厳選しなければうまくいかないことも示しています。

広告主もたんに流行っているからといってメディアからの提案に飛びつかず、そのメディアは読者の信頼を勝ち取れているのか、そのメディアの読者は自分たちのことを受け入れてくれそうかという点をしっかりチェックしないといけません。

メディアと広告主がいっしょになって読者のことを考え、読者に喜ばれるような広告がつくれるかもしれない――それはもう広告じゃないのかもしれないけど――、その可能性があるだけでも、ぼくはネイティブ広告に対して、肯定的な立場でいようと思っています。
でもその実現のむずかしさや、ステマになる危険性をもって、否定的な立場をとる人の気持ちもよくわかります。

ぼくもネイティブ広告がすべてを解決してくれるなんて思っていませんが、マーケティングに携わるものとして、企業が真摯に自分の顧客になりうる人たちに「背伸びしたウソじゃなく、正直な本当の情報」を届けられて、それを喜んでもらえるような仕組みを、これからもずっと考えていきたいです。

p.s.
これを書く元になったぼくの1ヶ月間の思考の経緯(というか垂れ流し)はここにあります。

トピック: ネイティブ広告について考える | trashtalk.jp

河野

当メディア編集長。コミュニケーション・デザイナー。企画屋。1997年、ニフティ入社。2001年にニフティ退職後、フリーターとして数年過ごし、2004年から2005年までオンライン書店ビーケーワンの専務取締役兼COOを務める。ECサイト初となるトラックバックを導入し、また「入荷お知らせメール」などを考案した。また、はてな社との協業による商品の人力検索サービス等をプロデュース。2005年から2007年までシックス・アパート株式会社のマーケティング担当執行役員を務める。2007年から2010年までブックオフオンライン株式会社取締役を務め、サービスの立ち上げ全般のサポートに加え、「オトナ買い」や「デマチメール」などの独自機能を考案した。その後、フリーランスに。2014年から株式会社クラシコムに勤務。現在に至る。「アクティブサポート」や「最愛戦略」の提唱者。個人として「攻城団」と「まんがseek」を企画運営。個人のサイトはsmashmedia

シェアする

コメントを残す