RFM分析でCRMがうまくいかない理由
先日、この「マーケティングis.jp」のWikiで、RFM分析が取り上げられていました。その更新をお知らせする公式アカウント(@marketingis)のツイートに気軽にRTをしていましたら、「このRFM分析の問題点について記事を書いていただけると……」なんていう難題(笑)をご提示されましたので、今回こうして記事を書かせていただきました。
では、さっそく本題に入っていきたいと思います。
RFM分析の隠れた問題点
この「RFM分析とは何ぞや?」ということに関しては、すでに概要がWikiにもまとまっておりますので詳細は割愛させていただきますが、簡単に言うと、R(Recency:最終購買日)、F(Frequency:購買頻度)、M(Monetary:累計購買金額)の3点を切り口に、これら3つの指標を掛け合わせて顧客をランク付けするというものです。そして、R・F・Mを掛け合わせた指標が高いほど、優良顧客として手厚いフォローをするといったようなことが、多くの企業で行われている“一般的な”やり方です。
こうした分析の手順そのものを見ると、一見正しそうで、企業のCRMをはじめとしたマーケティングに効果的にも見えるRFM分析ですが、いったいどこに問題点が隠されているのでしょうか?
CRMにおけるRFM分析の誤用
それを探るにあたり、RFM分析とCRMとの関係を少し掘り下げていきたいと思います。このRFM分析は、百貨店をはじめ日本でも行っている企業はかなりありますが、CRMとセットで語られることが多いですよね。このCRMは、1995年にドン・ペパーズ、マーサ・ロジャーズによってワントゥーワンマーケティングが提唱されたあたりから日本に普及し、「時代はCRMだ!」とコンサルタントやSIerが煽り、多くの企業が飛びついたわけですが、ことごとく失敗に終わったのは周知のとおりです。
とはいっても、CRMを導入して成果を出すことが、コンサルタント、SIer、企業の導入担当者の命題になっていましたから、彼らはそれを従来のデータベースマーケティングに頼ったわけです。ここで、CRMは顧客との関係を深化させ、顧客の価値を実現し、LTVを最大化させるというものから、RFM分析やABC分析のような分析手法を用いながら、顧客を抽出するための顧客データベースを管理するものへといつの間にかその目的がすり替わってしまいました。
そして、多くの企業ではRFM分析等を使って、RFMのランクが高い優良顧客から順に、DMをはじめとした販促物をバンバン送ったわけです。某有名百貨店では、「年間に送ったDMの数が365通よりも多かった顧客がいた」という、笑うに笑えない話が実際に起きています。もちろん、RFMのランクが高い優良顧客は、それが低いランクの顧客よりはヒット率が高いです。ですから、CRMの担当者は、会社の経営層に対して、「このランクの顧客に対するDMのヒット率は○○%で、RFM分析を用いたCRMは効果が高いです!」などと胸を張って報告しました。
ところが、優良顧客のランクにいる顧客でさえ、いつも買い続けるとは限りません。つまり、DMのヒット率が如実に下がってくるのです。そうです、顧客がDMに反応しなくなるのです。それもそのはずです。というのも、こうしたやり方が何を意味しているのかと言えば、お腹いっぱいの顧客に「おかわりはいかがですか?」と言ってるようなものなのですから。こうした状況は、多くのCRM担当者が直面したことがあるのではないでしょうか?
ここで、CRM担当者は、次の一手を考えます。その次の一手とは、「当たるDMを作れ!」です。しかし、たまに大当たりするDMはあっても、当たり続けるDMなどこの世に存在しません。すると、CRM担当者は最後の切り札“値下げ”の告知を行うわけです。結果、このデフレスパイラルです。そして、CRM担当者はやがて窮地に追い込まれます。
CRMとRFM分析の目的の相違
なぜRFM分析を使って優良顧客を抽出し、その優良顧客に接触したにもかかわらず、このような状況になってしまうのでしょうか? 優良顧客をターゲティングして、そこに接触するという王道とも言える方法が、なぜこうした事態を招いてしまうのでしょうか?
それは、このRFM分析は、CRMの目的である「顧客との関係を深化させ、顧客の価値を実現し、LTVを最大化させる」という考えのもとで作られているものではないため、CRMを導入する企業が本来実現したいことを、端から叶えられるものではないということなのです。
そもそも、このRFM分析は、1930年代に米国の通信販売会社が、カタログの送付先を選別するために導入したのが始まりとされています。つまり、通販カタログ送付客が肥大化していく中で、効果の薄いと思われる顧客には通販カタログを送付しないことを決めるための、いわば“顧客切り捨ての分析手法”が発端だったのです。
それゆえ、CRMに求められるようなことを、そもそも実現できるような分析手法ではないのです。それにもかかわらず、CRMを導入している多くの企業では、いまだにこの1930年代の顧客切り捨てのための分析手法を用いて、CRMを行っているのです。これでは成果が出ないのは当然ですよね。
そもそもRFM分析は“個客を特定していない”
では、なぜRFM分析はCRMに適合しないのかを紐解きます。それに当たって、まずCRMの顧客の捉え方をおさらいしますが、CRMでは「顧客を個客として特定し、その個客と継続的に関係を深化させ、価値を実現し、LTVを最大化していく」ことが求められます。まさに、ワントゥーワンの考え方ですね。
それに比べて、RFM分析はどうなのか。RFM分析は、R・F・Mによって顧客をランク付けしているわけですが、じつはこれは個客にランクを付けているのではなく、“セルにランクを付けている”のです。ですから、R・F・Mが(5・5・5)の最高ランクのセルにいる顧客はすべて優良顧客としてのフォローやアプローチをしています。これって、どういうことかおわかりでしょうか?
そうです、RFM分析では“個客を特定していない”のです。
RFM分析のリスク
しかも、このRFM分析は、その抽出時(タイムスライス)によって、そのセルに入る顧客はその都度入れ替わります。つまり、長期的に見た場合に自社から数多くの買い物をしてくれる“本来の優良顧客”が、R(Recency:最終購買日)がたまたま条件にそぐわなかったがために、フォローの対象から外れてしまったり、直近何か事情があって大きな買い物をしたけれど、普段はぜんぜん買いに来ないような顧客が優良顧客としてランク付けされたりと、本来の優良顧客の漏れと優良顧客の誤認知が高い確率で発生するわけです。
また、これまで優良顧客のセルにいて手厚いフォローを受けていた顧客が、1年後の抽出時にランクが下がって、これまでの手厚いフォローがピタリと止まるといった問題も発生します。そうなった時、顧客はどう感じるでしょうか。
今日ちょうどこういう件で、ある方とツイッターで情報交換していたのですが、その方は、ある大手カメラチェーンから今まで来ていたDMがピタリと来なくなって、自分はランクが下げられたのだと気づき、以降そのお店からは意識的に買うのを止めたんだそうです。つまり、企業がRFM分析で顧客を切り捨てたことに、気付いている顧客も存在するというわけです。そしてこのことを、その方は「逆RFM分析」だと仰っていました(笑)
さらに、RFM分析にはもうひとつ重要な問題点があります。それは、ポテンシャルのある顧客をみすみす逃すということです。ポテンシャルのある顧客とはどういう顧客なのか?
それは、たとえば百貨店で考えるならば、1足10万円する革靴を買った顧客だったり、1本3万円のネクタイを買った顧客だったり、ひとつ17万円のハンドバッグを買った顧客だったり。つまり、RFM分析ではランクが低いとしても、今後、関係を深めていけば、もっと自社から購入をしてくれる(自社に利益をもたらしてくれる)可能性が高い顧客ということです。
もちろん、どういう顧客をポテンシャル顧客とするかは、その企業、その売場で定義すれば良いのですが、重要なことは、そのポテンシャル顧客の条件に入る顧客が現れたら、RFMの指標がたとえ低かったとしても、特例で顧客と関係を深め、育成するシナリオに載せるということです。
大事なことはRFM分析の特性を見極めること
そうなのです。本来CRMは、このように自社の優良顧客を定義し、そこに向けて育成すべき個客を特定し、優良顧客へ育成するためのシナリオやアクション、ツール等を設計し、関係を深めながら、顧客と企業双方の価値を実現し、結果としてLTVの最大化を図っていくものなのです。
残念ながら、RFM分析にはこうしたCRMの視点が全くありません。ですから、CRMをやろうとしているのにRFM分析を活用するというのは、じつは矛盾した話なのです。片方が育成、片方が切り捨てを目的としているのですから。
もちろん、RFM分析を否定しているわけではありませんし、あるタイムスライスでの顧客識別には有効な手段のひとつだと思います。しかし、CRMなど長期的視点でマーケティングを行う際には、RFM分析は必ずしも良い手とは言えないのです。
CRMとはどういうものなのか、RFM分析とはどういうものなのか、こうしたひとつ一つの本質を見極めて、最適な組合せを模索していくことが、企業のCRM(マーケティング)担当者に求められることなのではないでしょうか。
河野コメント
そもそもコストカットのための施策を、売上アップのために使ってるのが間違い、というのが荒木さんの指摘なのですが、たしかにRFM分析というのは限られた資源(予算)をいかに効率よく活用するかという「選択と集中」の考えに沿った分類手法ですからその通りですね。
RFM分析が重宝されたのは、カタログ送付やDM郵送、あるいは電話セールスといった通信費がかかるマーケティングが全盛の時代の話であるため、ネットマーケティングにシフトしてきた時代では「コストカット」部分が軽視される(できる)ようになったわけです。それがeDM(メールによるDM)の乱発に繋がるのは皮肉な話ですが。
また、本文中でも指摘されている通り、RFM分析は「ある時点においての分類」でしかないため、昨日が奥さんの誕生日で高い買い物をしただけの顧客や、いつもは他店で買ってるけどたまたまそっちに在庫がなくて自店で買ってくれたというような顧客が優良顧客扱いになることもれば、明日まとめ買いする予定の顧客を見落とす(低ランクに分類してしまう)ことがよくあります。
そのため正しく活用するには顧客の買い物傾向を継続して分析し、把握することが必要です。顧客ごとの可処分所得の多寡やショッピングサイクルを把握してはじめて有効なCRM施策が実行できるわけです。
DM/eDM送付先の顧客抽出手法としてしか使ってないのは、誤用もいいとこですね。
たまたま辿り着いただけですが、RFMの有用性を十分に考慮していないで決めつけるレベルの低い記事ですね。そのままターゲティングのみに使用する企業なんてありません。古い記事に対して失礼ですが、もう少し考えてみたら如何ですか?
たかがRFM分析でも有用な使用方法は沢山あります。
2010年の投稿なので、なるほどと思った部分と、アレ?って思った部分がありますね。
もしよろしければ現在の見解もお聞かせ頂けると幸いです。
非常に興味があります。