いまあらためてソーシャルメディア(マーケティング)について考える

ソーシャルメディア」と呼ばれるものの正確な定義はむずかしいですね。この言葉がある程度定着したいまでも、曖昧なままいろんな人がいろんな解釈で語っています。広義や狭義など取り上げる範囲もさまざまですし、内包される(だろう)サービスもどんどん出てくるため、厳密に定義することがむずかしいのも事実です。ただ、この基本概念となる「ソーシャル」についてと、ソーシャルメディアが従来のネットコミュニティやWeb2.0ブームの頃に語られた「CGM」とどうちがうのかについては、正しく理解しておくべきだと思います。
また、そのソーシャルメディアをマーケティングに活用するということはどういうことなのかについても、いまこのタイミングでしっかり考えてみましょう。

なお、「ソーシャル」を「社会」とか「社交的」とかむりやり和訳するのはぼくは反対です。英語が苦手なぼくですが、ここは「ソーシャル」のまま解釈するべきだと思いますし、下手にいいかえないほうがより正確につかむことができるはずです。なので以下はソーシャルはソーシャルとして話を進めます。

ソーシャル的なサービスは昔からあった

まず、ソーシャルのキモは人間同士のつながりです。
ソーシャルメディアの特徴は、そこに参加する個々人を特定し、かつ認識できるという点にあります。つまり「IDの担保」です。利用者のIDが担保されているからフォローしたりマイミクになったりできるわけですね。またそのIDがただの識別子ではなく、それに付随するある程度の情報を持っているため、その人がどういう人かわかった上で付き合えるということがソーシャルを成立させる要素となっています。
少し詳しく書きます。
IDを「特定できること」と「認識できること」は別です。もうずっと前からオンラインでのコミュニケーションにおいてIDの特定はできました。パソコン通信時代のNIFTY-ServeでもIDは存在しましたし、それこそ匿名掲示板といわれている2chでも個々の発言のIDは特定できます。だけどそれは英数字の羅列で表記されていたので、お互いのIDを記憶することもなければ、IDだけで誰かを想起できることはまずありませんでした。つまりこれはシステム的な識別子ではあったものの、人間同士のやり取りではほとんど活用されていませんでした。
そこでハンドルネームと呼ばれる「通り名」を使うことで、お互いを認識して会話するようになるのですが、初期のmixi(やSNSと呼ばれるサービス)がNIFTY-Serveに酷似していたのは、ソーシャルの基本部分はパソコン通信時代から変わってないからだともいえます。もっともパソコン通信の時代は各社のサービスを足しあわせても数百万人程度の利用者しかいなかったので、現在のように身近にいる利用者を探すのが容易ではありませんでした。この規模の大小がもっとも大きなちがいといえるでしょう。
余談ですが、mixiは数字のIDを使い、ツイッターなどの後発のSNSはアカウント名を自由に取得できるようになったのも時代のニーズだとぼくは思います。もっともそのために企業はドメインのように自社名のアカウントを押さえる必要が出てきたり、なりすましなどの問題も起きやすくなったのですが。
IDにひもづく情報は名前だけではありません。プロフィール画像はパソコン通信にはなかったものですが、この画像によって個人の認識はかなり容易になりました。異なるサービスであってもアカウント名や画像が同じというだけで、同一人物と認識できるわけですからね(同時にアイコンを変えただけで気付かれなくなることもありますね)。
さらに趣味や出身地、勤務先などのプロフィール情報が登録されることで、その人の背景がより詳細にわかるようになります。だからぼくたちは「発言がおもしろそう」という理由だけでなく、「同じ野球チームが好き」とか「同じ地元出身」とかの共通点を見つけては、その人とつながるきっかけにしているわけですね。

ソーシャルメディアとCGMとはどうちがうのか

数年前に話題になった「CGM(消費者作成メディア)」という言葉も最近はまったく聞かなくなってきました。これはブログが代表的なサービスで、ほかにも価格コムなどの評価サイトや、クックパッドなどの投稿サイトも含まれています。AmazonなどのユーザーレビューもCGMですね。話題になることは少なくなりましたが、いまでも多くのサイトでCGMは活用されています。
CGMという言葉も定義が広く、曖昧なのでなかなか比較がむずかしいのですが、ブログと投稿サイト(評価サイトなども含む)にわけて考えることにします。まずブログは個人の特定も容易にできますし、ある意味ではその人に関する情報の集積地なわけですから、情報量としては必要十分なのですが、仕組みとして利用者同士がつながることができません。RSSの購読などで一方的な関係をつくることしかできません。また、投稿サイトは投稿される内容が専門的であることと、そのせいで投稿数も投稿頻度もどうしてもかぎられてしまうため、その人に興味を持つだけの情報が不足しがちです。食べログで投稿しまくっているような一部のレビュアーは特別で、こうしたカリスマ的ユーザーの場合は「マイレビュアー」としてお気に入りに登録することができますが、これもRSS購読と同様に一方的な関係です。
Web2.0ブーム以降、CGMのサービスが増えたこともあり、またブログのように個人が情報発信しやすいツールやサービスが一般的になったこともあり、全国の消費者が自由に発信するようになったのですが、彼らはシステム的には孤立しており、ブックマーク(お気に入り)やRSS購読など一方的な関係しか構築できませんでした。この部分がソーシャルメディアとのちがいになります。
じっさいCGMは芸能人ブログに代表されるように一方的な関係をつくることには非常に向いているため、著名人(インフルエンサーという呼び方もされてましたね)に多数のファンが群がります。CGMが話題になっていた頃は「クチコミマーケティング」が盛んに叫ばれていましたが、実態は「ステルスマーケティング」と「ペイパーポスト」が横行していたように、ことマーケティング利用の側面からいえば、情報の拡散を目的とした、悪質な「バズマーケティング」の舞台となっていました。
CGMは人気や評判の格差を増幅させるツールでしかなく、有名人や有名企業をより有名にすることはあっても、ふつうの人や企業が一発逆転を狙うことは困難でした。もちろん情報を発信しつづけることで、消費者と好きなタイミングで連絡がとれるチャネルを開拓できるメリットは大きいですから、ぼくは企業ブログをオススメします。

ソーシャルメディアの特徴は「信頼の担保」

ソーシャルメディアでは消費者同士がある程度フラットな関係を築けるという点が特徴ですが、それはツイッターやFacebookなど、同一サービス上の利用者数が増えたことが前提です。さらには日々の細かな行動まで共有されるため、相互に開示される情報量がケタちがいになっています。その結果として、名もなき素人同士が双方向につながるという点が、これまでのネットコミュニティと大きく異なります。
この「素人同士が双方向につながる」ということをもう少し深く見ていきましょう。
ぼくらはただの一般人であり素人ですが、それでも複数人が集まれば、相対的に詳しい事柄はたくさんあります。たとえば「グルメ情報ならぼくより山田くんのほうが詳しい」とか「それでもイタリアンにかんしては佐藤さんに聞いたほうが確かだ」とか、ほかにもパソコンのことなら、アニメのことなら、サッカーのことなら、アイドルのことなら、とあらゆるジャンルにおいて仲間内での相対的な専門家がいるわけです。もちろんこれは相手にとっても同じことで、なにか特定のジャンルにかんしては自分のほうが詳しいということがふつうにありえます。
そういう専門性の非対称さがぼくらの周囲には相互にあるわけで、ソーシャルメディアは自分の周囲にいるプチ専門家を顕在化させてくれます。ぼくはこれこそがソーシャルを理解する本質であり、ソーシャルメディアをマーケティングに取り入れる際に無視できないポイントだと思っています。
つまり人はソーシャルメディア上の情報を単純にかつ平等に読んだり信じたりしているわけではなくて、その人にとっての信頼度に基づいて――それはトピックごとに変わります――評価しながら理解しているわけです。いいかえると「個々の発言に重み付けができる」という点がソーシャルメディアの特徴なのです。

ソーシャルメディアをマーケティングに活用するということ

ソーシャルメディアの普及にともなって「誰がいったか、よりも、何をいったか、が大事とされる」という意見もありますが、ぼくはこれには懐疑的で「誰がいったか」がより重要になるのがソーシャルだと思います。ただしそれはどんなことでも同じ人の発言が信用されるわけではなくて、「何を」の部分次第でその人が信用されたり、軽視されたりするということです。
とくにブランディング目的でソーシャルメディアを活用する場合は、この部分を想定しなければいけません。すなわちある人の周囲にいるプチ専門家の裏付けや推薦を得ることを狙わなければならないのです。それはけっして芸能人などの会ったこともない有名人ではなく、日々やり取りしている知人の発言が鍵となってくるのです。
にもかかわらず、現在ソーシャルメディアを利用したマーケティング企画の大半はCGMの頃と同じように情報の拡散を狙ったものが多いです。そうではなくて個々の情報の「信頼の担保」という点にフォーカスをあてるとより結果につながりやすい企画になるはずです(それこそがコミュニケーションデザインなのですが)。
ある意味では、ソーシャルメディアでは情報の拡散はほっといてもいいのです。リツイートや「いいね!」は利用者が勝手にしてくれます。もちろんページにボタンは置いておいたほうがいいですが、仮にボタンがなくてもURLを貼りつけてくれるし、メールを転送してくれます。問題は最初のひとりが「周囲に伝えたくなるか」という点に尽きます。目の前のひとりが文字どおりフォロワーになってくれるなら、あとは自然と情報が拡散するでしょう。
ソーシャルメディアをマーケティングに活用する場合は、このように結果として広まっていくという「バイラルマーケティング」の考え方が不可欠です。そしてそう考えれば、なにも最初の情報はソーシャルメディア経由でなくてもいいということもわかるでしょう。テレビCMでもメールマガジンでも会報誌でもなんでもいいのです。もちろんネットをつかえば引用や転載しやすいというメリットがありますけどね。
ソーシャルメディアと呼ばれるさまざまなサービスは人と人が出会い、つながる機会を提供してくれました。また、より簡単に情報を共有できる手段も提供してくれています。だからこそどんな情報を提供するのか、どんなメッセージを届けるのかということがより一層問われるようになりました。
おそらく2012年もソーシャルメディアの利用者は増えるでしょう。「もはやソーシャルメディアはマーケティングを考える上で無視できない」と煽るつもりはありませんが、使えるならぜひうまく活用したいものですよね。その際にソーシャルメディアの特徴を活かせているかについて、いま一度考えてみてください。
それではみなさん良いお年を!

河野

当メディア編集長。コミュニケーション・デザイナー。企画屋。1997年、ニフティ入社。2001年にニフティ退職後、フリーターとして数年過ごし、2004年から2005年までオンライン書店ビーケーワンの専務取締役兼COOを務める。ECサイト初となるトラックバックを導入し、また「入荷お知らせメール」などを考案した。また、はてな社との協業による商品の人力検索サービス等をプロデュース。2005年から2007年までシックス・アパート株式会社のマーケティング担当執行役員を務める。2007年から2010年までブックオフオンライン株式会社取締役を務め、サービスの立ち上げ全般のサポートに加え、「オトナ買い」や「デマチメール」などの独自機能を考案した。その後、フリーランスに。2014年から株式会社クラシコムに勤務。現在に至る。「アクティブサポート」や「最愛戦略」の提唱者。個人として「攻城団」と「まんがseek」を企画運営。個人のサイトはsmashmedia

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