糸井(重里)さんが推薦しているので、けっこう話題になっていますね。
読んだ感想としてはそれほど新しいことは書いてないんですけど、裏を返せば「いまでは当たり前」のことを何十年も前から(ぼくが生まれる前から!)やっている、グレイトフル・デッドはすごいなと思いました。

まず本書の中心テーマをひとつ挙げるなら「独自で強固なビジネスモデルを構築する」ということで、それは従来の常識から外れていればいるほどライバルが現れにくいのでいいということです。常識にとらわれず、そして短期的ではなく長期的な視点に立って、顧客を喜ばせ、彼らがより集まるような仕組みと、彼らに販売する商品を生み出すことができれば長きにわたって稼げるというものです。
内容についていくつか紹介します。
グレイトフル・デッドはファンにライブの録音を認め、そのテープを自由に交換できるようにしました。そうやってリーチを広げ、より高音質な音源を求めるファン向けに特別な機材によるライブ録音版やスタジオ録音版のレコードを販売して、儲けることにも成功しました。
このあたりはアメリカだけでなく、日本でもずっといわれつづけていることです。音楽だけでなく、電子書籍などもデジタルデータの共有によって、リアルビジネスのシェアが奪われるといわれてますね。グレイトフル・デッドの例は音質に明らかな差があるから成立するわけで、そうでなければやっぱり売れないんじゃないでしょうか。
またこれをもって「フリーミアム」と説明するのはちょっとちがうような気がします。

一般のアーティストがライブツアーを新作アルバムのPRのために行い、あくまでも収益はアルバムの売上で見込んでいるのに対して、グレイトフル・デッドは、というよりもこれからの時代は(YouTubeなどの影響もあって)音楽コンテンツそのものの価値はどんどん下がってしまうので、ライブで儲けるようにしなければならない、という話はよく聞きます。
以前、プリンスが無料で音楽配信をやったときも、ライブで儲かるからいいんだという記事がありました。つまりCDこそがライブの集客ツールだということですね。でもこういうのはある程度の知名度があるからできることでもありますよね。

そもそもライブは儲かるのかという収益構造についても気になります。
ちょっと調べた感じでは、日本の場合は満員になってグッズがそこそこ売れてトントンだそうです。ただしツアーで同じセットを使い回すとか、ハロプロのように一日二回公演の場合は損益分岐点が下がるので利益を出しやすいそうです。あと矢沢永吉のツアーはグッズが半端なく売れるのでめちゃくちゃ儲かるとありました。
その一方で、イギリスの音楽産業ではメインの収益がレコードからライブへ変化しているという話もあったりします。日本の場合は「着うた」「着メロ」の売上と利益率が大きいので、欧米と同じようにはならないのではないかと思いますけどね。

いずれにしても無料コンテンツで集客して、ビジネスを組み立てるという話は共著者のひとりであるブライアン・ハリガンが書いた『インバウンド・マーケティング』の主張でもあるわけですが、誰でもいいということではなくて、売上につながりそうな見込み顧客をいかに集めるかという点がいまいち伝わってない気がします。そういう人を集めるためのコンテンツでなければ意味がないですし、それを踏まえたコンテンツ企画が重要なのです。

ぼくがこの本で今後の自分のビジネスで参考にしようと思ったのは、グレイトフル・デッドが自分たちのライブのチケットを直販したことと、最前列の特等席は(ダフ屋ではなく)ファンに確実に届くようにしたことですね。
もちろんチケット販売業者に任せたほうが楽なんですけど、こういう手間のかけ方こそ、ぼくらは参考にすべきだと思います。顧客を公平に扱うのであれば、ファンを優遇することは当然です(公平と平等をはきちがえているケースが多いです)。
にもかかわらず多くの企業はきちんと正規の料金を払っている既存顧客は放置して、新規顧客に「最初の3ヶ月は無料」といったキャンペーンを展開しているわけです。こうした企業は忠実なファンを遠ざけてることにいずれ気づくことになるでしょう。このあたりの考え方はぼく自身のスタンスとも非常に近かったので共感が持てました。

ファンと直接つながるためにインターネットはとても便利なプラットフォームになりえますし、彼らと直接対話をし、コミュニティを形成し、商品を販売することで、長期的に持続的な関係を構築できるんですよね。そのインターネットそのものが持つ強みをもっと活かしていきたいものです。

グレイトフル・デッドが教えてくれたのは「お金が取れるだけのいい商品をつくること」と「その商品を広めるために顧客が望むことは可能なかぎり許可すること」で、その両方が満たされてなくて、片方しか満たされてなければ成功はないということです。そして「フリーにすること」は「顧客が望むなら」という条件のもとにおいてのみ成立する話なのです。

最後に。
本書で紹介されている個々の施策については納得のいくものが多かったです。ただしグレイトフル・デッドが初期に行ったマーケティング施策、ある程度メジャーになってから行ったマーケティング施策、そして落ち目になってきてから行ったマーケティング施策に分けて解説してくれればもっと納得しやすかったと思います。
タイミングをまちがえて採用してもうまくいきませんから、そういう意味では注意して読まないといけない本でしょうね。

[追記]
書籍としては非常に読みづらいです。紙は分厚いし、フォントも大きいし、行間も空きすぎだし、ビジネス書として出すならもうちょっと読みやすくしてほしかったです。1700円の値付けに加え、普段ビジネス書を読まない方向けの本だから、いろいろ装飾したのかもしれませんが。
あと何箇所か誤植と誤訳がありました。