[書評]インバウンドマーケティング
これまでのマス広告を利用したり、大量のメールやDMを送るマーケティング手法を「アウトバウンド・マーケティング」と定義した上で、そうした手法はこれからの時代では通用せず、むしろ魅力あるコンテンツを用意して自社サイトへいかに多くの訪問客を集めるかという「インバウンド・マーケティング」が中心になるというのが本書の主張。
ややB2Bに寄った内容にも感じられますが、B2C企業にも十分通用すると思います。
内容はツイッターなど各ソーシャルメディアの利用法から、SEOのテクニックまで、実践的な項目が並んでいますが、「もう知ってるよ」というものも少なくないので、適宜読み飛ばせばいいと思います。
じっさいタイトルに数字を入れてアクセスを稼ぐといったクズみたいな話もあるので、書いてあることをそのまま実践するのも微妙です。もちろん大半は当たり前の、まっとうなことしか書いてませんので、安心して読めます。
インバウンド・マーケティングの特長はいくつか紹介されてるのですが、ぼくなりに整理するならば、「嫌われずにマーケティングできる」ということに尽きるでしょう。
つまりこれまでのアウトバウンド・マーケティングの代表例であるテレビCMは消費者の楽しい時間に割り込むわけですし、ネットにおけるeDM(メールニュース)ではリストを購入し、ひたすらスパム同然のメールを送りつけるわけですから嫌われて当然です。それに対してインバウンド・マーケティングの場合は、消費者が自ら選択して訪問するような状況をつくるため嫌われることはほぼありません。
さらに創意工夫次第で誰でもできるというのも特長です。下剋上はネットマーケティングの醍醐味ですし、飽きっぽいぼくが長年関わりつづけてる最大の理由ですが、資本力ではなく知恵や努力で勝負できるというのがインバウンド・マーケティングです。
(もっともこれは裏を返せば大企業にとっては大変な状況ですけどね)
内容がまっとうというのは本書の推薦者でもあるセス・ゴーディンの主張に近いという点からも証明できるでしょう。
インバウンド・マーケティングの「見つけてもらう、来てもらう」ための施策は、パーミション・マーケティングの一歩前に当たるわけですし、彼らがいう「突き抜けたコンテンツが必要」という主張は「紫の牛」と同じです。
それと後半にまとめられている人材採用については、ほかでは見かけない内容だったので紹介します。
本書ではインバウンド・マーケター(インバウンド・マーケティング志向の社員)を採用し、教育するためのフレームワークとして『DARC』というものを提唱しています。
それぞれの意味は以下のとおりです。
- D:Hire Digital Citizens 「デジタル市民」を採用せよ
- A:Hire Analytical chops 「分析オタク」を採用せよ
- R:Hire for Web Rearch ウェブ上での「リーチ」を広げるために採用せよ
- C:Hire Contents Creators 「コンテンツ・クリエイター」を採用せよ
採用するための効果的な質問も書いてありますが、かいつまんで紹介すると「ブログやツイッター、YouTubeなどのアカウントを聞く(D、R、C)」や「Excelのピボットテーブルが使えるか、Google Analyticsが使えるか(A)」などがあります。
コンテンツ生成能力については、2万円程度の原稿料を払ってじっさいに書いてもらい、そのPVやソーシャルメディアでの反応を計測することも薦めていますが、すでにその人がブログを書いているのであればそれを読んだほうが(そしてはてブやツイッターでの引用数を確認したほうが)早いでしょうね。
もっともほんとに理想的なのは「デジタル市民」を採用することではなく、デジタル市民にも(その反対語として定義されている)デジタル難民にも伝わるように話せるバイリンガルな人材だと思うんですけどね。
またすべての能力をあわせもった人材は少ないので、複数人でカバーできるようにすることも提案されていますが、これはそのとおりだとぼくも思います。
それと企業ブログの記事ごとのアクセス数など、計測した数値は社内で共有し、モチベーション向上につなげることも提案されています。あまり競争原理を持ち込みすぎると、それこそ煽ったタイトルをつけたり、ヨソから記事をパクったりする従業員が出てきかねないので、ぼくはあまりオススメしません。
インバウンド・マーケティングを簡単にまとめると、ソーシャルメディアをフル活用して、ただし宣伝や営業は控えめにして、消費者の役に立つコンテンツを提供すれば、あちこちからリンクされ、さらには検索順位も向上するのでどんどん訪問者が増えますよ、というものです。
原書はともかく、翻訳では「与えよ、さらば与えられん」と表現してますね。
この手の話はSEOの世界ではもう何年も前からいわれていることですし、「アテンション・エコノミー」が叫ばれたり、あるいは「Contents is King」といわれているのとも同じです。
だからとくに目新しくはないのですが、基本の再確認という目的で読んでみるといいかもしれません。
[追記]
日本語訳がちょっとおかしいです。てにをはが気になる箇所がいくつかあります。
あとソーシャルメディアの羅列の部分に、親切心からわざわざmixiを入れたんだろうけど「ミクシー」って書いちゃダメですね(正しくは「ミクシィ」です)。
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