「アドテクノロジー(または広告テクノロジー)」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか? インターネットの広告は他のテレビ等の媒体に比べ通信データなどを利用して広告のコントロールがしやすい分野であり、最近では広告の出稿・取引がこれまではなかったようなテクノロジーで行われるようになっています。今回は以前行ったアドテクノロジー勉強会の資料をもとに改めて解説を行っていきたいと思います。

全体図とエコシステム

まずは以下の図をご覧ください。

(出典:Terence Kawaja’s IAB Networks and Exchanges Keynote

この図は米The Interactive Advertising Bureau(IAB)が公表した「米国アドテクノロジーの関係図(ディスプレイ広告版)」で、左はじの「Advertiser(広告主)」から右はじの「Publisher(メディア)」までどのように広告がどのようなサービス(カテゴリー一つ一つ。さらにその中のロゴは競合する会社やサービス)を通じて出稿・配信されているかを表しています。ここではそれぞれのカテゴリーの定義はともかくとして、これだけ多くのサービスが広告を出稿する際に経由しているんだということを理解していただければと思います。

実際にインターネット上でバナー広告を表示するという分野だけでこのように複数のカテゴリー、サービスが互いに連携し、それぞれが広告主やメディア(パブリッシャー)に最適だと考える方法で取引が行われており、その依存/競合による成長から「エコシステム(生態系)」と呼ばれることもあります。

目的とアドテクノロジー

では「アドテクノロジーとはなんだ?」ということに答える前に前提として登場人物のカテゴリーを3つに分け、それぞれの目的を挙げてみると、

広告主:(利益の増加や認知率の向上など)企業の持っている任意の達成したいことを実現するために効果的かつ効率的に広告を出稿したい。

メディア(パブリッシャー):インプレッション(ページでの広告の表示)1回あたりの価値を高めつつユーザーに広告を表示することで利益を出したい。

アドテクノロジー関連サービス:広告主とメディアの間に入り、様々なサービス(配信管理やどう出すべきかの最適化などなどさまざま。アドテクノロジー分野の中心部)を提供し、その対価を受け取ったり、市場全体を大きくしたい。

となり、広告主とメディアが上記の目的をどのように達成するかということを様々な技術を活用して自動化したり、人間の計算ではできない処理で最適(だと思われる)な出稿・取引を行うということをアドテクノロジーのサービスが担っています。

アドテクノロジーの中身

それではそれぞれのテクノロジーがどのようなものなのか見ていきたいと思います。
(ここからの定義は筆者の一意見ですのでその点ご了承ください。)

ネットワーキング&スケーリング

アドネットワークとアドエクスチェンジ

広告を出稿する先であるメディアへの参入がインターネット広告では他のメディアに比べて極端に低いため、メディアのインプレッション量(在庫に相当)も大幅に増え、種類も多岐に渡ることになります。そこで出てきたのが「アドネットワーク」です。

アドネットワークはメディアから広告枠を仕入れ、パッケージングして広告主に販売します。広告主としては(女性系、など)特定のカテゴリーに対して媒体と直接契約しなくてもまとめて配信が可能になることや、配信量の効率化を行えます。対してメディアとしては営業の代行をアドネットワークが行ってくれるため、広告枠の販売のコストを抑えることが可能になります。

アドネットワークは一見効率的な感じがしますが、媒体の価値がまちまちであるにもかかわらず単一の単価で販売されていることが多く、場合によっては非効率的です。また、メディアのインプレッション量の増大はさらに激しくなり、売れ残った広告枠も増えたため、よりフラットかつ大規模に取引が行われる市場、「アドエクスチェンジ」が登場します。

アドエクスチェンジはアドネットワークと違い、需要と供給のバランスでインプレッションあたりの金額が決定します。より売れるインプレッションは高くなり、そうでないものは安く取引されます。広告主側としては必要なインプレッションのみを購入可能になり、メディアとしては単一の価格にうもれていたインプレッションに適切な価格がつくためより高い金額で売れることも期待されていました。

しかしながら、実際には売れないインプレッションばかりがメディアから市場に流れるなど、結局のところその仕組みだけではうまく盛り上がらず、後述のオーディエンスデータとReal-Time Biddingの出現から徐々に変化していきます。

コントロール

DSP(Demand-Side Platform)とSSP(Supply-Side Platform)

正確にはこのカテゴリーはきちんとした定義があるわけではなく、あくまで概念の話になります。

アドネットワークやアドエクスチェンジが増えていくにつれて、広告主もメディアもそれらを管理できなかったり、どこにどれだけのウエイトを置くべきなのかが分かりづらくなってきました。


(注:YieldManagerはSSPのうちの一部分)

そこでネットワークを横断し、広告を最適な形で出稿するDSP(Demand-Side Platform:枠を提供してもらう側)や最適な形でメディアに配信するSSP(Supply-Side Platform:枠を提供する側)が現れます。後述のオーディエンス(ユーザー)データの利用やReal-Time Bidding(RTB)が実現可能になったことで「誰に広告を出すか?」という精度を高めることが可能になり、複数のネットワークやエクスチェンジ上でより効果的に広告を出稿したり、より高い収益をあげるように広告を配信したりといったコントロールが出来るようになります。

オーディエンスデータターゲティング

データプロバイダーとReal-Time Bidding(RTB)

これまで「ターゲティング」といえばリターゲティングや行動ターゲティングなど、ユーザーの行動をある程度のグループにまとめ、そのグループの「いそうなところ」に広告を配信したり、インプレッションの中から適合する条件のユーザーだけに絞り込んで配信するような方式が主流でした。

そこに「データプロバイダー」という存在が登場します。

データプロバイダーはいろいろなところからユーザーに関するデータ(米国ではクレジットカードの与信情報なども)を集めカテゴライズし、アドネットワークやアドエクスチェンジ、DSP・SSP、に対して利用出来るように提供するサービスのことで、そのデータを利用することで、これまで大まかな行動データ(おもにタグを踏んだか? どのページを見たか?)などを利用したターゲティングよりも粒度の細かいデータ(そのユーザーピンポイントのデータ)でのターゲティングが可能になります。

DSPなどのサービスは訪れたユーザーひとり一人に関してデータを参照し、リアルタイムで入札を行ないます(Real-Time Bidding:通称「RTB」)。これまでの入札と大きく違うところはその配信されたインプレッションに対して支払うのではなくその「オーディエンス(ユーザー)」に対して入札を行うという点です。広告主としては効果の良い(と思われる)ユーザーにピンポイントにコストをかけることができ、メディアとしてはこれまで効果の良いユーザーと悪いユーザーが混じっていたために下がっていた単価を引き上げることが可能になります。

また、ターゲティングというと「絞り込む」ために実際の配信数が小さくなってしまいがちですが、アドネットワークやアドエクスチェンジといったサービスのおかげで配信先の母数が大きくなり、必要な配信の規模を維持することが可能です。

まとめ

広告主・メディアそれぞれの目的を効率的かつ効果的に達成するためにテクノロジーを活用したサービスが数多く登場しています。(少なくともインターネット広告においては)アドネットワークやアドエクスチェンジによりメディアという垣根はなくなってきており、DSPなどのサービスと合わせてより広い可能性の中から効率的に広告取引が行えるようになってきています。また、これまではレポートの数字を眺め、「どこに出す(出稿する)か?」というアプローチでしたが、ユーザーひとり一人に対して入札を行えることから、「誰にいくらで出す(出稿する)か?」というアプローチが主流になってくるでしょう。

アドテクノロジーは互いに影響・競争することで日々進化しており、今後もインターネットの広告取引の仕組みを大きく変えていくのではないかと思います。

説明会で利用した資料はこちらです。

河野コメント

インターネットに限らず、広告主としては意味のある(効果のある)露出以外には1円たりとも払いたくないという考えがあります。テレビCMにしても精度に疑問の残る視聴率で価格が決まっていますし、回読人数というロジックで押し紙の問題をうやむやにされたまま新聞広告の価格も決まっています。
ただこのあたりは需給バランスでいえば明らかに供給サイド(メディア側)のほうが少ないために、売り手有利の交渉になりがちです。「イヤなら出さなきゃいいじゃん」と逆ギレできるので(最近はそれもできなくなりつつありますけど)。

インターネット広告の場合はメディア数がいまこの瞬間も無限に増え続けているため、Yahoo!など一部のメディアを除けば圧倒的に買い手有利な交渉になります。その結果としてクリックやコンバージョン(成果報酬)など、より効果(=売上)に近い条件での出稿に変化してきています。

その延長線上にあるのが、ターゲティング広告の領域で、「どういう人に」ではなく「誰に」の単位で出稿できるようになりつつあります。技術的にはcookieを使えば簡単にできるのですが、同時にプライバシーの問題を抱えているので慎重に進める必要があります。

けっきょくのところ、広告主にとって見ればCRMの拡張と見ることもできます。もっともこの場合の「C」は「Customer」ではなく「Consumer」ですが。
広告主にとってみれば、どうやって見込み顧客の選別を行なうかというのはコストの無駄遣いを抑えるためにも不可欠なことです。そのために(ようはその無駄遣いのコストを超えない範囲で)こうしたテクノロジーを活用していくことになるのでしょうね。