ソーシャルメディアマーケティングのトリセツ「ツイッター編」

このシリーズではソーシャルメディア上のサービスひとつ一つを取り上げつつ、具体的な用途やメリット・デメリットについて整理したいと思います。最初はツイッターです。

ツイッターとはなにか

「ツイッター(Twitter)」は、「ツイート(Tweets)」と呼ばれる140文字以内のテキストを投稿し、閲覧できるコミュニケーション・サービスです。「ツイート」は、英語で「鳥のさえずり」の意味です。日本では「つぶやき」と意訳され、表現されることが多いです。

http://twitter.com/

2006年7月にObvious社(現Twitter社)が開始したサービスで、日本市場でのマーケティングは株式会社CGMマーケティングが担当し、広告枠の販売なども行なっています。

ツイッターの正確な利用者数は公表されていないのですが、日本でも欧米と同じようにタレントや政治家のアカウントが開設されており、さらには自治体や中央省庁のアカウントも開設されています。

企業アカウントも上述のCGMマーケティングが運営しているサイト「twinavi」に掲載されているだけですでに2,700件以上が登録されています。
企業アカウントの実態調査はこちらをご覧ください)

ツイッターのようなサービスはその仕組み上、ブログに近いこともあり「ミニブログ」や「マイクロブログ」と呼ばれています。類似サービスとして「Amebaなう」や「Timelog」などがあります。

ツイッターの使い方については、twinaviに詳しいコンテンツがあります。

http://twinavi.jp/guide

ツイッターとマーケティング

さて、そのツイッターをどうやってマーケティングに使えばいいのでしょうか。

そもそも「使えるのか?」という問いには、ツイッターに限らず「使い方次第」ではあるでしょう。効果の大小、意味のありなしをさておけば、どんなサービスでも使うことはできます。もっともその見極めをするのはマーケティング担当者の仕事なんですけどね。

よくある勧誘トーク

最近は「ツイッターをからめた提案を持ってきて」と依頼する広告主も多いと聞きますが、それ以上に多いのが代理店からの提案で、おおよそ次のようなセールストークです。

  • 「140文字なのでブログより簡単」
  • 「いま始めないと後れを取りますよ」
  • 「Dellは3億円稼いでます」

この手の発言が飛び出した時点でお帰りいただくのがいいと思いますが、それがなぜかを少し解説します。

「140文字なのでブログより簡単」

ブログが続かなかった企業がたくさんいることもあり、この手の「簡単さ」をアピールされることは多いです。

でも本当に簡単なのでしょうか。じっさいにやってみなければわからないのはしょうがないにせよ、140文字で伝えるのはかなり大変です。たとえば「ご意見ありがとうございます。」と書くだけで14文字、すでに1割を使っています。さらに「今後ともご愛顧ください。」と書けばさらに12文字、「また何かございましたら遠慮なくお問い合わせください。」と書けば26文字も使ってしまいます。
名乗る必要もあるでしょう。さらにはツイッターで返信(リプライ)するには、最初に相手のアカウント名を書かなければなりませんので、じっさいに会話のやり取りに使用できる文字数は100文字程度になるでしょう。
あなたのメールを読み返してみてください。100文字で言いたいことを伝えられそうですか?

そもそもブログが続かなかったのはたくさん書かなければならなかったからでしょうか? それよりも毎日書くことのほうが大変だったのではありませんか?
ツイッターの場合、ユーザーはその日のうちに何度も投稿しています。なのにあなたの会社は1日1回しか投稿しないのでしょうか。仮にそうだとしても、話しかけられれば返信するんですよね。そうするとメールに近い頻度になりますけど、大丈夫ですか?

第一、多くの企業では炎上が怖くてブログのコメント欄を閉じているにもかかわらず、ツイッターなんてできるわけもないのです。ツイッターでは誰でも話しかけられるのですから(もちろんそれを無視することはできますが、印象は悪いですよね)。

この程度のこともわからずに提案してくるのは、ツイッターについての知識と経験が圧倒的に足りていないからです。
ツイッターはブログと比べて、本当に簡単だと思いますか?

「いま始めないと後れを取りますよ」

この質問には「なぜツイッターでなければならないのか?」を問い返すべきでしょうね。

それを差し置いても、ぼくはこの話を何ヶ月も前から聞いています。半年前に始めなかった企業は、いま後れを取っているのでしょうか?
それがすべて証明しています。

ツイッターに限らず、すべての企業が同時にはじめる必要なんてありません。自社の顧客を見て、あるいは見込み顧客を見た上で、ツイッターが有効なコミュニケーションチャネルになると思えば始めればいいだけの話で、他社がやってるから、有名企業がやってるから始めるというのがおかしいのです。

本当にいま始めるべきなのでしょうか? あなたの顧客はツイッターを使ってるんですか? そこでのやり取りを求めているのでしょうか?

ツイッターのアカウントを取得するのは5分もあればできるでしょう。しかしそれを組織として運用していくには、それなりの準備が必要です。
どのような体制でやるのかを始め、ガイドラインや運用マニュアルの策定、緊急時の対応を想定すれば広報など他部署との事前調整も必要になります。

企業アカウントはあなたの個人アカウントとはちがうのです。ユーザーはあなたと話したいのではなく、企業の代表者と話したいのですから、きちんと準備をしないまま始めることがいかに危険かを考えてみてください。

「デル社は3億円稼いでます」

だいたい最初か最後にはこの手の成功事例紹介が出てきますね。おそらくデル社は代理店を使わず自社運用だと思うので、それを代理店が紹介する滑稽さがまず気になりますが、これについては「どうやって億単位の売上を作ったのか」を明らかにしなければなりません。

少なくともデル社のケースでは数十万人のフォロアーがいることが前提ですので、まずはどうやってフォロアー数を増やすのかを聞いてみてください。その答えを持ち合わせていなければ論外です。

さらに「Dell」というブランド、さらにはアウトレットという商品の訴求力に対して、どのくらい互角に渡り合えるのかを考えなければなりません。
デル社のケースはまさしく成功事例ではあるのですが、本質的な成功の理由を理解しているかが問われています。それと同時に、いつまで経っても同じような事例しか出てこないということが、ツイッターを利用することの難しさを証明していると思いませんか?

企業のツイッターの利用目的

いちばん簡単な利用目的は、アカウントを取得することなく、ただユーザーの投稿を読むだけというものです。いわゆる「オンラインモニタリング」ですね。これはすぐにでも始められますし、ツイッターの検索を利用して、自社のブランドがどんなふうに語られているのかをチェックすることは有益です。

以下は、公式アカウントを開設することを前提にした利用目的の一覧です。およそ企業アカウントはこのどれかにを分類されます。

宣伝・PR型 別名メルマガ型。メルマガと同じで一方通行的
ニュースリリースのRSSやブログ等からの垂れ流しが中心
サイトへの送客目的
イベント型 記者発表会やセミナーの実況など担当者がつぶやいている
イベント連動なので期間限定的な使い方が多い
ハッシュタグを活用したコミュニティ的な利用も
販促型 在庫処分目当てのタイムセールなどに利用
クーポンの発行とか、ホテルの空室情報を配信
フォロアー数が相当数いないと難しい
アクティブサポート型 CRMの一環
自社ブランドについて不満をつぶやいているユーザーに対して 問題解決を行なう
ツイートの大半がリプライ
ブログ型 社長や担当者の人間味を伝えるために利用
独り言以外にもリプライやRTなども使う
軟式アカウントと呼ばれているものの大半はこれ

こうして見ると、ツイッター独自の利用目的はほとんどなくて、メール(メールマガジン含む)の補完であったり、ブログの補完であったりと、既存のコミュニケーションチャネルの拡張と考えることもできます。
(じっさいブログの投稿を流し込んでいるだけの企業アカウントもあります)

もちろんユーザーから見れば、メールアドレスを渡さずとも企業アカウントをフォローするだけで最新情報を入手できるメリットはありますし、登録や解除についてもワンクリックで簡単に行えるメリットはとても大きいです。
だからこそ企業側はチャネルによって提供する情報に差異が出ないように、配信するタイミングや内容には十分に気をつけなければなりません。ユーザーが自由に選べるというのは、同じ情報が同じタイミングで流れるという前提あってのことです。

CRM的な利用目的として「アクティブサポート」もありますが、難易度はかなり高いです。電話やメールなどで顧客対応経験のない担当者がやるのはオススメしません。
具体的な手順については以下の記事にまとめてあります。

ツイッターのトリセツ

まず最初にツイッターのアカウントは取得しておきましょう。ツイッターのアカウントは早い者勝ちなので、いますぐ登録しましょう(企業名などは後から交渉はできるようですが確実ではないので、先に取っておくに越したことはありません)。
ただし、登録するだけで何も投稿しなくていいです。アイコンも変更しなくていいですし、プロフィールも空っぽでかまいません。あくまでも取得するだけです。

その上で、じっくり考えてみましょう。
本当にツイッターをいま始める必要があるのかを。いま始めることによって、喜ぶ顧客の顔が浮かびますか?

いざ始めるとなれば、利用目的を明らかにしましょう。ただし販促目的の場合は、フォロアー数を増やすことが不可欠になるため、その方策を考える必要があります。具体的には自社発行のメールマガジンで紹介したり、ツイッターのサイト上での広告、プレゼントキャンペーンなどが挙げられますが、ポイントは「いかに有益な情報を投稿し続けられるか」にかかっています。

ぶっちゃけフォロアー数はお金さえ出せばある程度の数を集めることは可能です。しかしツイッターのフォロー関係は簡単に解除することができます。読者にメリットのない宣伝だけが流れれば、あっという間に獲得したフォロアーが去っていくでしょう。
商品もしくは価格に訴求力がない限り、ツイッターで販促が成功することはありえません(ツイッター以外でも難しいでしょうが)。逆に、商品と価格に訴求力があれば、ツイッター上ではリツイート(転送)でどんどん広がっていくでしょう。

使用上の注意

とくに「ブログ型」のように、担当者のパーソナリティが前面に出る使い方をする場合は、その担当者の離職が最大のリスクになります。会社を辞めないまでも人事異動があったり、あるいは事故で入院といったケースを想定して、あらかじめ複数人のチーム運営にするとか、サブの担当者を用意するなどして対処方法を準備しておきましょう。

またツイッターの運用を始めた日から、そのアカウントは代表電話やコールセンターと同じように、企業の顧客対応窓口になるため、リコールなどのトラブルが発生した際には問い合わせが集中します。もちろんその場合は独自に行動せず、広報の指示に従って全社で統一した対応が必要になるわけですが、クライアントと対面する営業や、日頃からお客さまの問い合わせを受けているコールセンターと比べると、マーケティングの部署へのこうした連絡は忘れられがちです。日頃から社内連携を心がけ、自分たちだけでなく、他部署に対してもツイッターでお客さんと直接やり取りしていることを理解してもらいましょう。

その流れで言えば、サポートやシステムとの連携も重要です。さまざまな問い合わせに自分たちだけで答えられるわけがありませんから、すぐに確認するなり、ときにはエスカレーションで対応を替わってもらったりしなければなりません。
社内調整が大変なのはよくわかりますが、ユーザーとの対話はもっと大変です。他部署の協力なしには進まないことを自覚して、事前の調整をしっかりしてください。

ソーシャルメディアマーケティングは担当者の心構えも重要ですが、それよりも体制作りのほうがはるかに重要です。そこがいちばん難しい点でもあります。
まずは社内のコミュニケーションをしっかり取って、万全の体制を築いてください。

それとツイッターはスパムの定義が開示されていますので、事前に目を通しておくのがいいと思います。スクリーンショットやロゴの利用ガイドライン、さらにはあなたの会社の商標権侵害を見つけた際の報告手順なども記載されています。

http://support.twitter.com/groups/33-report-a-violation

どういう使い方が理想的か

販促目的であっても、たとえばホテルの空き室を案内するとか、在庫処分のためのセール情報を配信するとか、いわゆるタイムセール的な使い方はツイッターには向いています。この場合もフォロアー数が多いほどいいのですが、おそらく売りたい商品数もそう多くないでしょうから、既存顧客中心の少人数のフォロアーでもうまくいくと思います。

また、ぼくの経験上、ユーザーとの対話チャネルには使えることを実感しています。もちろんすべてのユーザーが企業アカウントから話しかけられたいわけではないので慎重な対応が必要ですが、それでも電話やメールするほどでもないけど、日頃感じている不満を伝えたいというお客さんは確実にいらっしゃいます。そういうこれまで届かなかった声を受け止められる窓口になれれば、非常に有益だと思いませんか。

企業にとって、ツイッターはまだまだ様子見でしょうし、それでいいと思います。
と同時にこれから先、どこで顧客(ひいては消費者)とコミュニケーションを取るのかという観点で、インターネット、ソーシャルメディアを見渡したときに、現状ではツイッターの将来性が高いのも事実です。

いつでも始められるように、準備と検討は進めておきたいものですね。

あなたのトリセツを教えてください!

ツイッターのマーケティング活用について、どんな使い方があると思いますか? 思いつきでも実践例でもけっこうですので、あなたのアイデアをぜひお聞かせください。

河野

当メディア編集長。コミュニケーション・デザイナー。企画屋。1997年、ニフティ入社。2001年にニフティ退職後、フリーターとして数年過ごし、2004年から2005年までオンライン書店ビーケーワンの専務取締役兼COOを務める。ECサイト初となるトラックバックを導入し、また「入荷お知らせメール」などを考案した。また、はてな社との協業による商品の人力検索サービス等をプロデュース。2005年から2007年までシックス・アパート株式会社のマーケティング担当執行役員を務める。2007年から2010年までブックオフオンライン株式会社取締役を務め、サービスの立ち上げ全般のサポートに加え、「オトナ買い」や「デマチメール」などの独自機能を考案した。その後、フリーランスに。2014年から株式会社クラシコムに勤務。現在に至る。「アクティブサポート」や「最愛戦略」の提唱者。個人として「攻城団」と「まんがseek」を企画運営。個人のサイトはsmashmedia

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