パレートの法則とデシル分析

みなさんは、「80:20の法則」というのを聞いたことはありませんか。「売上の80%は20%の顧客が生み出している」という、あれです。あの法則を「パレートの法則」と呼びます。

最近は「ロングテール」の話の際によく取り上げられていますが、「売上の80%は20%の商品で構成されている」(売れ筋の重要性)という感じで、販売の合理化、効率化、最適化を考える際にどこに重点を置くべきかについて考えるヒントになります。
(ロングテールについては次回説明します)

パレートの法則は、そもそもパレートさんが考えた理論です。パレートさんはイタリアの経済学者で、この理論を発表した時はかなり叩かれたそうですが、今ではかなり一般的な経済原理として活用されています。

デシル分析

「デシル」というのは「10等分する」という意味のラテン語です。「デシ」という言葉に「10分の1」という意味があり、例えばデシリットルは1 リットルの1/10ですよね。まあラテン語はマーケティングにあんまり関係ないんですけど、ナノとかピコとかそういう「10のn乗」を示す言葉はいくつかあってけっこう覚えるとおもしろいです。ぼくは高校の時に科学の授業で習いました。

デシル分析というのは、顧客を10等分して上位何割のお客様によって、どのくらいの売上が占められているのかを量る手法です。優良顧客が自社の売上にどのくらい貢献しているかを見ることができます。裏を返せば、本当に上位20%のお客さんが売上の80%を占めているのか、つまりパレートの法則が成立しているかをチェックする分析手法ということになります。

実際に確認してみましょう。以下はあるショップの売上構成図です。デシル1はもっとも購入金額の多い方から上位1割のグループです。例えばその月の総顧客が100人だとすれば、上位10人がデシル1で、11番目から20番目までの方がデシル2となります。

それぞれのデシルごとに購入金額の合計を計算します。そしてその金額構成比を出します。ついでに累積も出しておきましょう。

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念のため、この図を作成する手順を示すと、顧客を購入金額の多い順に並べて、上から10%ずつ、各デシルに割り振っていきます。例えば総顧客数が356人というように、必ずしも10で割り切れないと思いますが、あまり気にしなくていいです。デシル10とかで調整すればいいです。

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これをExcelのピボットテーブルとかで、デシルごとの集計を出せば完成です。構成比はトータルの購入金額(=売上)で割れば計算できますよね。

次にそれをグラフ化します。購入金額を棒グラフに、累積構成比を折れ線グラフにしてください。以下のようなグラフができます。

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このグラフを「パレート図」といいます。

このショップのデシル分析では、上位20%のお客様で約80%の売上を占めていますね(まあそうなるようなサンプルを用意したのですが)。

ではこの分析を使って、どういう施策を考えるのでしょうか。

顧客を区別する

顧客を差別するのは企業姿勢としてもよくないことですが、だからといってすべての顧客を平等に対応することもよくないです。毎日通ってくださるお客様と、1年に一度しか来てくれないお客様がいたとして、そのふたりに同じようにサービスをすれば毎日通ってくださっているお客様は不満に思うのではないでしょうか。

人間というものは「差別しちゃいけない」と思う一方で、「自分は特別」と誰かに差別されたい気持ちがあります。ですから、「お客様は毎日通ってくださっているのでこれは特別にサービスします」と言われたら、とても喜びます(そう思いませんか?)。

だから我々は顧客を差別しないまでも、きちんと区別しなければなりません。このように公平に対応することこそがフェアなのです。

もちろんすべてのお客様に最高のサービスを提供できるなら、それに越したことはありません。だけどもサービスを提供するには時間や手間といったコストがかかります。だからまずは「本当に大事にしなければならない顧客は誰か」ということをきちんと把握しておくことが大事です。

パレートの法則通りであれば、仮に下位8割の顧客を失ったとしても、売上は2割しか減りません。もしそれでサービスにかかる人件費を半分に減らせたら、おそらく利益率は飛躍的に高まるでしょう。

経営者として、わざわざ売上を減らす選択をする必要はないのですが、そういうオプションを頭に入れておくことは重要です。多くの経営者が失敗するのは、「お客さんを増やす」ことばかりを考えて、どんどん効率が悪くなってしまうことです。利益を出すために、時には顧客を区別することは必要なのです。

具体的なケースを考えてみましょう。

デパートでは全員一律10%OFFのサービスデーを設けているところがあります。でももしデシル分析をしていれば、上位2割の人にだけ優待券を配ることにして「本当に大事にしなければならない顧客」だけを特別扱いすることができます。

こうすることで、サービスにかかるコストは最適配分されます。

すべてのお客様が大事で、差別はしません、という姿勢は素晴らしいですが、もしかするとそれはただの自己満足かもしれません。まずはお客様の立場になってみて想像してください。自分がたくさん購入していたらVIP待遇してほしいと思いませんか。そういう気持ちに応えることが本当の顧客志向なのではないでしょうか。

あなたの会社のデシル分析をやってみて、上位2割のお客様が何割の売上を占めているかを確認してみてください。その上で、上位顧客(=優良顧客)にどんなサービスができるかを考えてみましょう。

[追記]
ちなみにこれは経験則ですが、ECの場合は上位30%の顧客(デシル1からデシル3)で売上の70%を占めるくらいになることが多いです。これは何人かのECサイト運営者と話をしても、だいたいこのくらいの比率になるみたいです。

河野

当メディア編集長。コミュニケーション・デザイナー。企画屋。1997年、ニフティ入社。2001年にニフティ退職後、フリーターとして数年過ごし、2004年から2005年までオンライン書店ビーケーワンの専務取締役兼COOを務める。ECサイト初となるトラックバックを導入し、また「入荷お知らせメール」などを考案した。また、はてな社との協業による商品の人力検索サービス等をプロデュース。2005年から2007年までシックス・アパート株式会社のマーケティング担当執行役員を務める。2007年から2010年までブックオフオンライン株式会社取締役を務め、サービスの立ち上げ全般のサポートに加え、「オトナ買い」や「デマチメール」などの独自機能を考案した。その後、フリーランスに。2014年から株式会社クラシコムに勤務。現在に至る。「アクティブサポート」や「最愛戦略」の提唱者。個人として「攻城団」と「まんがseek」を企画運営。個人のサイトはsmashmedia

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