プロダクトライフサイクルとは

今日は「プロダクトライフサイクル(Product Life Cycle)」について解説します。

プロダクトライフサイクルとは

プロダクトライフサイクル、製品ライフサイクルとは、ある商品やサービスが市場に投入されてから、支持を得て、だんだんと売れなくなって消えてしまう(撤退)までのプロセスを示したものです。ライフサイクルとあるように、製品を生物の一生にたとえているわけです。

こんな図を見たことがありませんか。

この図のようにプロダクトライフサイクルは縦軸に売上(利益)、横軸に時間をとって表します。
初期において、売上と利益が連動しないのは、通常は商品開発にかかった投資回収などがあるためです。逆に言えば、この図で見るとわかるように最初の「導入期」の時点ではせいぜいトントンくらいということですね。

一般にプロダクトライフサイクルの段階区分は、「導入期」→「成長期」→「成熟期」→「衰退期」という4段階で表現されることが多いです。より詳細に成長期を「成長前期」と「成長後期」に分けたり、成熟期と衰退期の間に「飽和期」を加えるなど、5段階や6段階のサイクルに分類するケースもあるのですが、まあ4段階で覚えておけば十分でしょう。

プロダクトライフサイクルとマーケティングの関係

プロダクトライフサイクルがマーケティングにどう関わるのかというと、それは各段階においてマーケティングの役割やとるべき施策が変わっていくからです。

プロダクトライフサイクルの段階区分とマーケティング目標

まず「導入期」ですが、これは新しい製品を市場に投入した直後です。
この時点でやるべきことは認知度を高めることと、流通チャネルを開拓することです。売れる環境作りですね。当然広告も行う必要がありますし、サンプリングなどもやるべきです。
ここでうまく市場に進出・浸透できるかが最初の難関です。多くの製品はこの関門を越えられずに撤退することになります。このあたりの話は「イノベーター理論」や「キャズム理論」として別途紹介します。

うまく市場で認知されれば「成長期」に入ります。
ライバル会社もどんどん市場に参入してきます。ここで問われるのは製品の良さです。しかし昨今の事情を考えれば特許で保護でもしない限り、技術はあっという間にマネされるため、製品の良さだけでアピールするには限界もあります。
ただここから投資の回収フェーズに入るため、市場の成長性や自社のポジショニングを正確に把握して効率よく利益を出していかなければなりません。場合によっては生産設備を増強するべきですし、新規チャネルもさらに開拓していく必要があります。

続いて「成熟期」です。
約半数の消費者がその製品(自社商品もしくは競合他社の類似商品)をすでに所有しており、この頃から需要量は頭打ちとなります。
同時に技術がコモディティ化して製造コストが下がるため、中小企業や海外企業など市場参入業者はさらに増加するため競争が激化します。プライベートブランドの投入含めて、いわゆる値下げ競争が本格化するフェーズです。

そして最後が「衰退期」です。
消費者のほとんどが所有しており、一般的に「普及品」と見なされる段階です。衰退期に入ると需要量は減少するため、市場からの撤退を考慮すべきです。

このように市場の創造から、市場からの撤退までを敏感に感じ取りながらマーケティングを進める必要があります。

液晶テレビに見るプロダクトライフサイクル

たとえばぼくが液晶テレビ(AQUOS)を買った2004年では、32インチで32万円でした。当時は1インチ=1万円が相場だったのですが、いまでは10万円以下で購入できます。さっき調べたら6-7万円で売ってました。

まさにぼくは「導入期」から「成長期」の初期に買ったのですが、このくらい価格は下がるわけです。
当時はシャープAQUOSの「亀山モデル」が液晶テレビのトップブランドとして認知されていましたが、競合他社も同等以上の製品を出してきましたし、デザインで勝負する企業も出てきます。
価格が下がり始めたのは2007年くらいからだったと思いますが、当然、企業にしてみれば、利益が圧迫されるわけです(生産コストも下がっているのですが、それ以上に販売価格が下がっているため)。

液晶テレビはいまは完全に「成熟期」に入っており、エコポイントも終わり、地デジ移行の来年7月の駆け込み需要(アナログテレビの買い換え需要)を最後に、「衰退期」に入るでしょう。

一方で3Dテレビはいままさに「導入期」にあります。
ぼくはこの3Dテレビは普及しないと思っているのですが、どのような曲線を描くのか興味深いですね。

プロダクトライフサイクルの限界

プロダクトライフサイクルは基本的な理論としてはいまでも非常に有用です。
ただしじっさいにはその見極めは決して簡単ではありません。製品によってサイクルの長短もちがいますし、さらには競合他社の参入状況によっても変わってくるため、自社製品がどの段階にあるのかを正確に把握することは困難です。
そのため理論としては意味があっても実用的ではないという指摘もあります。

ぼくもこれをマーケティング戦略策定のより所にするのは難しいかなと思っています。
当然ながらすべての製品にあてはまるものではありませんし、それだけでなく現在の市場環境や流通システムを考えればますます適用が難しくなっているからです。

まずプロダクトライフサイクル理論からはずれるものとしては、いわゆるロングセラーや定番商品といった「持続型」商品があります。あるいはファッションのように流行のスタイルが出るごとに活況する「スタイル型」商品や、何かのきっかけで突然ブレイクする「遅咲き型」商品などがあります。
こうした商品はみなさんの身の回りでもいくつか思いつくものがあるのではないでしょうか。とくにここ数年は急に売れ出す「遅咲き型」商品も増えているように感じます。

その逆に市場からの撤退も早まっています。その原因はコンビニエンスストア(コンビニ)等にある、POSシステムの影響です。POSシステムの導入により、流通業界ではほぼリアルタイムに全国でどの商品が売れているかを把握できるようになりました。そしてそのデータを元に、一定期間売れない商品は「死に筋」として店頭から姿を消すことになります。
その結果、企業が望む望まないにかかわらず(もちろん望んでないのですが)、またその商品はもしかすると将来「成長期」に進めたかもしれないのに短期的な評価で撤退を余儀なくされることが増えています。

もちろんそれを回避するために、企業側(メーカー側)も導入期に大量のテレビCMを流したり、大規模な販促キャンペーンを行うわけですが、これは投資の総額が増えることになってしまい、結果的に利益を生み出す時期が先送りになってしまいます。

こうした事実を踏まえた上で、プロダクトライフサイクル理論を理解しておく必要がありますね。

[追記]
『WEDGE』2010.12月号(P.29)に液晶テレビの平均単価のグラフがありましたのでご参考まで。

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河野

当メディア編集長。コミュニケーション・デザイナー。企画屋。1997年、ニフティ入社。2001年にニフティ退職後、フリーターとして数年過ごし、2004年から2005年までオンライン書店ビーケーワンの専務取締役兼COOを務める。ECサイト初となるトラックバックを導入し、また「入荷お知らせメール」などを考案した。また、はてな社との協業による商品の人力検索サービス等をプロデュース。2005年から2007年までシックス・アパート株式会社のマーケティング担当執行役員を務める。2007年から2010年までブックオフオンライン株式会社取締役を務め、サービスの立ち上げ全般のサポートに加え、「オトナ買い」や「デマチメール」などの独自機能を考案した。その後、フリーランスに。2014年から株式会社クラシコムに勤務。現在に至る。「アクティブサポート」や「最愛戦略」の提唱者。個人として「攻城団」と「まんがseek」を企画運営。個人のサイトはsmashmedia

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