プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントとは

今回は広義のマーケティング(いわゆる事業戦略まで含んだマーケティング)では必須知識のひとつである、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントについて解説します。

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントとは

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(Product Portofolio Management)とは、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が提唱する市場戦略分析手法のことです。「PPM」と略されることも多いです。
具体的には、市場占有率と市場成長率のマトリクスで自社の事業や製品を位置付け、分析します。

ポートフォリオというと株式投資の世界でも使われますが、この場合の定義はある程度の資産を持つ投資家が、自らの資産を複数の金融商品に分散投資することを指します。プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントも企業がどの事業に投資を集中するべきか、いわゆる「選択と集中」をするために用いる分析手法です。

金のなる木、キャッシュカウってなに?

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントで分類した結果、以下のようなマトリクスになります。それぞれの象限には名前が付いています。

それぞれについて説明します。

問題児(problem child)

ワイルドキャット・ビジネスとも言う。
市場成長率が高い半面、自社の占有率が低い分野。市場が急成長しているので、市場占有率を高めるためには、先行投資が必要です。

多額な投資資金が必要ではあるものの、現時点では収益化としては不十分。もちろん製品の改良や広告宣伝費の投入によって占有率を高めることができれば「花形製品」になるけれど、シェアの低いまま成長率が鈍化すれば「負け犬」にもなるリスクの高い状況です。
これはプロダクトライフサイクル(製品ライフサイクル)の導入期や成長期に見られることが多いです。

花形(star)

スター・ビジネスとも言う。
成長率・占有率ともに高く、かなり良い状況です。ただし市場の成長率が高いため競争は激化しやすく、占有率の維持・拡大に多額の追加投資を必要とします。高シェアを維持し続けることでいずれは「金のなる木」へと育てるべきなのですが、もしシェアが低下すれば「負け犬」となってしまいます。
これも「問題児」同様、プロダクトライフサイクルにおける導入期や成長期に見られることが多いです。

負け犬(dog)

ドッグ・ビジネスとも言う。
市場占有率が低く、今後の市場成長率も見込めないため撤退が検討されるべき分野です。投資がムダになるため、特段の理由がない限り即刻撤退すべきです。
これはプロダクトライフサイクルにおける成熟期から衰退期に見られることが多いです。

金のなる木(cash cow)

キャッシュカウ・ビジネスとも言う。
成熟市場におけるリーダーの地位を確立している状況です。これはいちばん望ましい状況で、市場の拡大が見込めない反面、新規参入も少なく追加的な投資があまり必要ではないですし、自社の市場シェアが高いため大きな資金流入・利益が見込める、つまり儲かる分野です。
これも「負け犬」同様、プロダクトライフサイクルにおける成熟期から衰退期に見られることが多いです。

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの限界

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントはとにかくシンプルに把握できることがいちばんの特長ですが、この手のフレームワークの多くに見られるようにそのシンプルさゆえに状況を見誤る危険性もあります。

たとえばそれぞれの事業は独立していることのほうが少なく、むしろ相互に関連しているケースのほうが多いために、事業単独の分析結果で判断するのは危険だというものです。
これはある不採算事業(問題児や負け犬)の研究を経て開発された技術が、別の事業の収益に大きく貢献していることなどを想定していて、たしかによくありそうな話です。

それ以外にも不採算事業と共通で使用する材料などがある場合は、その事業を切り捨てることによって仕入れ量が激減して結果として仕入れ価格に関する交渉力が弱まり、コストアップに繋がることも考えられますし、この手の相互の関係性をきちんと踏まえないまま判断するのは危険です。

ほかにも現在の自動車産業や家電産業のように、研究開発を続けなければいけないような市場では、すでに市場自体の成長性は止まっているにも関わらず競争が激化するため、なかなか「金のなる木」にならないジレンマもあります。

こうした分析によって、それぞれの事業で働く社員のモチベーションも大きく左右されます。じっさいにはそこで働くスタッフの能力とは関係のないところで決まっているにもかかわらず、自分の携わる事業が「負け犬」に分類されたとなればモチベーションが低下するのも当然で、このあたりの配慮も慎重に行う必要がありますね。

いずれにせよ、この手の分析ツールはそれだけですべてを網羅、解決できるものではありませんので、その特徴をしっかり踏まえた上で、ざっくりした分析に使うのが良いでしょう。
精査は必要ですけど、自社の事業をざっくり分析するには有効なツールだと思います。

河野

当メディア編集長。コミュニケーション・デザイナー。企画屋。1997年、ニフティ入社。2001年にニフティ退職後、フリーターとして数年過ごし、2004年から2005年までオンライン書店ビーケーワンの専務取締役兼COOを務める。ECサイト初となるトラックバックを導入し、また「入荷お知らせメール」などを考案した。また、はてな社との協業による商品の人力検索サービス等をプロデュース。2005年から2007年までシックス・アパート株式会社のマーケティング担当執行役員を務める。2007年から2010年までブックオフオンライン株式会社取締役を務め、サービスの立ち上げ全般のサポートに加え、「オトナ買い」や「デマチメール」などの独自機能を考案した。その後、フリーランスに。2014年から株式会社クラシコムに勤務。現在に至る。「アクティブサポート」や「最愛戦略」の提唱者。個人として「攻城団」と「まんがseek」を企画運営。個人のサイトはsmashmedia

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