成熟しきった市場で何をするべきか

みなさんは最近、わくわくするような商品を購入しましたか?

たとえば家電量販店に出かけても、これはすごいなあと感動したり、ボーナスを待ちきれずに衝動買いするような商品が少なくなったと思いませんか。
経済が停滞していることもありますが、ぼくはそれだけじゃなくて魅力的な商品がないことも消費が冷え込んでいる原因だと感じています。

買い替えさえ起こらないほど成熟した市場

技術的な観点ではせいぜい「3Dテレビ」くらいでしょうか。でも3Dテレビは値段が高いこともありますが、そもそもいらないですよね。家の中でテレビを見るためだけに専用メガネをかけるなんてどう考えても受け入れられるとは思えません。
(もっとも先週の記事の通り、その感覚を疑うことも大事ですが)

ぼくらはいつから「どうせどこのメーカーでも同じだろ」と決め付けて、値段ばかりを追いかけるようになってしまったのでしょう。
そもそも「まだ使えるのに、どうしても新しい機種がほしい!」といった衝動をどこに忘れてきてしまったのでしょうか。

10年前、20年前は毎年のように新しい商品が世の中に登場していました。ウォークマンもそうです。初期のテープのもの以外に、CDウォークマン、MDウォークマン、さらにはメモリースティック、そして最新のネットワーク対応のものと数年おきに買い換えていた人も少なくありませんでした。

ソニーつながりですと、1997年(平成9年)にソニーがVAIOでノートパソコン市場に参入したときはその薄さが話題になりました。
当時は秋葉原も白物家電からパソコン中心の街になっていたように、どんどん新しいパソコンが発売されていましたし、すぐに自分が持っているものが時代遅れに感じるくらい進化が早かったので、買い替えも多かったです。
でもいまはパソコンの買い替えすら数年おきになってしまったように感じます。ぼくも気づけば3年以上同じパソコンを使い続けてました。

買い替え理由の変化

内閣府が発表している「消費動向調査」には「主要耐久消費財の買替え状況(一般世帯)」というデータもあります。

このデータは買い替え理由を聞いたものですが、「上位品目」への買い替えがカラーテレビ以外はどんどん下がっていることが如実に現れています。

テレビは言うまでもなく薄型テレビへの買い替えです。とくに今年の3月時点の数字が過去最高なのはアナログ放送終了とエコポイントの影響ですね。

デジカメとパソコンのここ数年の落ち込みははっきり現れています。パソコンを例にとれば、平成20年度の調査で逆転して以降は故障が約半分を占めています。
(22年度の「上位品目」の数字が上がっているのはWindows 7の影響でしょうね)

なお、携帯電話は2007年(平成19年)に総務省が行ったインセンティブ廃止の指導以降、機種変更が少なくなったことが大きく影響していると思われます。

つまりぼくらは家電を故障でもしなければ買い換えなくなってきているのです。これはひとりの消費者としてぼくも実感するところですが、みなさんはどうですか?

画期的な商品はもうない

クルマでいえばハイブリッドと電気に動力がシフトしていくことはもうわかっていて、パソコンにしても記録媒体がハードディスクからフラッシュメモリに換わって軽く薄くなることはわかっています。

期待や想像を裏切るような、予想外の商品はもうなくなってしまったのでしょうか。たしかにそうかもしれません。
これはなにも製品開発の世界の話だけではなく、音楽などの芸術分野でもよく言われることです(「ビートルズ以降の音楽は模倣であって、オリジナルではない」といった感じで)。

ことの是非はともかく、あとの時代に生まれた者の宿命として、だんだんと隙間がなくなりつつあることは事実なのでしょう。
じっさい、ジョブスが関わったとはいえ、iPhoneもiPadも、そしてMacBook Airにしても本当の驚きはなかったですし、英Dyson社が作った羽根のない扇風機も画期的ではありますけど、みんながこれを求めていまある扇風機を買い換えることはないでしょう。3Dテレビと同じで技術力のショーケースにはなりますが。

世の中に広告が溢れ、消費者に振り向いてもらうことも難しい現代において、商品そのものに革新性がなければ、マーケティングに苦戦することは目に見えています。

消費者はだいたいのものはすでに手に入れており、現状に満足しているため、故障でもなければ買い換えないのはすでに見たとおりです。そして技術力が高いこととアフターサポートが充実しているために、日本企業は故障による買い替えをむしろ阻害しています。

「消費動向調査」の結果でも平均使用年数はどんどん伸びています。

本当に難しい時代だと思います。
このような時代にぼくたちは何をすればいいのでしょうか。
ぼくはその突破口は3つあると思っています。

3つの突破口

ひとつは低価格にすることです。同じような商品しか作れないなら、ほかよりも安くすればいいのです。
しかしこれは薄利多売が成立する場合においてのみ有効な戦略で、いまの状況ではジリ貧になるリスクが大きいです。

もうひとつはデザインです。
iPadは技術的にはそれほどでなくても、あのデザインはプロの仕事ですよね。iPhoneのマルチタッチ方式の液晶(タッチスクリーン)もそうですが、デザインやUIの革新性はまだまだあると思います。
ここは技術も含めて、まだまだ可能性は残されているのですが、最新技術を使えば使うほどコスト高になるため、儲からないジレンマがありますね。

そして最後のひとつは使い勝手の向上、すなわち改善・改良です。
もともと世の中に受け入れられる商品は消費者の問題解決を図るものですが、これからは既存の技術を応用・流用した小さな問題解決を実現する商品が狙い目です。

たとえば三洋電機が出している、お米からパンを作るホームベーカリーのような商品が、地味だけどポイントをついていると思って見ています。

小麦粉アレルギーの方のために、米粉のパンは一定の需要があります。それを家庭でも簡単に作れるように、従来のホームベーカリーを改良して製品化しています。
バカ売れすることはないでしょうが、こうしたニッチなマーケットを掘り進むしか道はないと思いますし、またそれは消費者に求められていることでもあります。

ひとつひとつの商品が狙うマーケットサイズが小さくなることを意味していますから(規模の経済が働きにくくなるので)、中小企業にとっては悪い状況ばかりではありません。
むしろ積極的に絞り込んでいくべきです。

たしかに大変な時代です。デフレが回復したところで、消費が劇的に活性化することは(よほどの技術革新でも起こらない限り)もうないのかもしれません。
そんな時代にどのようにして新しい需要を生み出すか、それを考えることがぼくらの仕事で、自分で書いていても本当に大変だなあと思うのですが、みんなで知恵を出しあってがんばりましょう。

河野

当メディア編集長。コミュニケーション・デザイナー。企画屋。1997年、ニフティ入社。2001年にニフティ退職後、フリーターとして数年過ごし、2004年から2005年までオンライン書店ビーケーワンの専務取締役兼COOを務める。ECサイト初となるトラックバックを導入し、また「入荷お知らせメール」などを考案した。また、はてな社との協業による商品の人力検索サービス等をプロデュース。2005年から2007年までシックス・アパート株式会社のマーケティング担当執行役員を務める。2007年から2010年までブックオフオンライン株式会社取締役を務め、サービスの立ち上げ全般のサポートに加え、「オトナ買い」や「デマチメール」などの独自機能を考案した。その後、フリーランスに。2014年から株式会社クラシコムに勤務。現在に至る。「アクティブサポート」や「最愛戦略」の提唱者。個人として「攻城団」と「まんがseek」を企画運営。個人のサイトはsmashmedia

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