なぜ企業はツイッターマーケティングで勘違いするのか

ソーシャルメディアに(というよりもツイッターに)注目が集まり、ツイッターのアカウントを取得する企業が増えてきました。

僕自身も企業のウェブ担当者としてツイッターアカウントの管理や運用をしているのですが、ツイッターがテレビや雑誌などで取り上げられるにつれ、今までネットマーケティングに力を入れていなかったような取引き先や知人の会社からも「ウチもツイッターはじめました!」というような連絡が日々入るようになってきています。

急速なツイッターの普及を感じるとともに、企業の多くがアカウント開設の手軽さにまかせてツイッターをはじめていることを(余計なお世話でしょうが)心配になってしまいます。

情報配信よりもコミュニケーション?

たまたまネットコミュニケーションの勘所をおさえた担当者がいる場合などは(継続性を無視すれば)それでも良いのかもしれませんが、そういった経験やセンスがない普通の人が企業アカウントの「中の人」をやらなくてはならない場合は、アクティブサポートを行うのか、それともセール情報を流すアカウントにするのか、常連のお客様との雑談を中心にしたコミュニケーションツールにするかなど、コミュケーションデザイン/運用方針をしっかり設計しておかないと、無駄な労力になってしまったり、企業の看板を掲げているにも関わらず担当者の個人アカウントのように運用されてしまうことがあります。

「ツイナビ」を運営している(株)CGMマーケティングが2010年7月にツイッターを積極的に活用している企業に対して行った「Twitter運用/管理についてのアンケート」によると「セール・キャンペーン・イベント情報のお知らせなどをツイートする割合よりも、特に内容を決めず、担当者がその時々で思ったことなどをツイートしている割合の方が高い。」という結果だったそうです。

「なんでもあり、その時思ったこと感じたこと」をツイートしているという回答は、情報発信やサポートも交えつつ独り言をつぶやいているのか、それとも担当者の個人アカウントのように使われてしまっているのかわかりませんが、どちらにしても、担当者の個人アカウントのようなツイートしかしない企業アカウントは雨後の筍のように増えているように感じます(実際にツイナビで企業アカウントととして紹介されているアカウントをいくつか見てみると、企業アカウントという名の個人アカウントが簡単にみつかります)。

なぜソーシャルメディアマーケティングなのか?

企業がツイッターを有効に使う方法についてはネット上に情報が沢山ありますので今回は触れませんが、多くの企業がわざわざ運用の手間をかけたり、社名を出した公式アカウントで担当者の私的なツイートをさせたりまでして、ツイッターを使いたがる心理は何とも興味深いものがあります。

もちろん、無料がゆえに深く考えずに始めてしまう、成功事例を見聞きして踊られされてしまうなどのさまざまなキッカケが考えられると思いますが、企業側の心理として「顧客に好かれたい」という欲求があるがゆえに、そのようにソーシャルメディアを使いはじめてしまうのではないでしょうか。

先ほども引用しました「Twitter運用/管理についてのアンケート」によると、59%もの企業が「施策の効果に満足している」と答えています。

雑談や独り言がメイン用途のアカウントが多数あるはずなのに「施策の効果」が(二択だから、というのはあると思いますが)『満足』と答えている企業が半数以上もあることは少し不思議な結果だと思いませんか?

顧客と直接の対話をしたり、繋がる実感を得られることによって欲求が満たされ「施策に満足」を感じてしまっている企業(担当者)もあるのではないでしょうか。

中には、リプライ数やRT(リツイート)数を社内レポートする企業もあると聞きます。
もちろん、そういったレポートをしていること自体は良いことだと思いますが、はたしてそのような担当者や企業は、多くの顧客(といっても大抵の場合は数人から数十人程度なのですが)がリプライやRTをしてくれることに酔ってしまってはいないのでしょうか。

酔っ払わないソーシャルメディア活用を

誤解しないでいただきたいのですが、顧客と繋がったり対話することは素晴らしいものですし、それを否定するものではありません。

現実に商品を購入したり、お店に来店してくれている顧客はフォロワーの何百倍・何万倍もいるにも関らず、顧客のごく一部であるフォロワーからのリプライやRTに対して過剰な満足感を得てしまったり、ツイッター利用の成果を過剰に素晴らしいものと捉えてしまう企業や担当者がいるのも事実だと思います。

わざわざ自社のアカウントをフォローしてくれたり、つぶやきに対してリプライやRTをしてくれる顧客は、間違いなく大切にすべき相手ですが、ソーシャルメディアでは顧客の声がリプライやRTなどという形で可視化されていることで、企業や担当者(の欲求を満たすがゆえ)に過剰な印象を与えることがあります。

過剰な捉え方をしないコツは「チャネルの違いに惑わされない」ということで、例えば小売店なのであればツイッターでリプライされたことも店舗に来店された顧客からの言葉も同じ重み付け(つまりどちらも同じように大切にして、どちらかに偏重はしない)で捉えれば良いのではないでしょうか。

企業と顧客とがソーシャルメディアで繋がれることは本当に素晴らしいことですが、それに酔ってしまって冷静さを失ってしまうような企業や担当者にならないように気をつけたいものですね。

河野コメント

じっさいに企業アカウントの「中の人」と話をすると、「リアクションがあって楽しい」という声をよく聞きます。そりゃそうだろうよと思いながらも、それではダメなんですよね。

企業がこれまでに採ってきたコミュニケーションに比べると、たしかにソーシャルメディアマーケティングは双方向性を実感する機会が多いですし、ことCRM的観点から言えば重要視していくべきチャネルだと思いますが、顧客のごく一部しかここにはいないということも理解しておくべきでしょう。

「簡単に始められるけど、簡単に始めちゃいけない」ということを自覚しておきたいですね。そして舞い上がらない程度の冷静さは常に持ち合わせていたいものです。

フジイユウジ

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