なんのためのソーシャルメディアポリシーか

日本でもソーシャルメディアポリシーを策定する企業が増えてきましたね。マーケティングis.jpでも以下のページに整理しています。

この手のポリシーを策定する際の基本ルールとして、ネガティブリストとポジティブリストという考え方があります。ポジティブリストとは「原則として自由がない中で、してもよいことだけを定めたもの」、ネガティブリストとは「原則として自由な中で、してはいけないことだけを定めたもの」です。

一般論としては禁止事項だけを記したネガティブリストのほうが柔軟な運用ができます。サッカーにおける「キーパー以外は手を使ってはいけない」など、スポーツのルールなどはこの考え方ですね。

企業のソーシャルメディアポリシーに目を通すと、一見ネガティブリストなのですが、どうにも窮屈そうなのです。
ネガティブリストは「原則自由」なものなのに、「限定的な禁止事項」がほとんどすべてをカバーしているかのようで、自由に振る舞えない印象を受けます。

ソーシャルメディアポリシーの現状

だいたいどこの企業も以下の2点が中心となっています。

  • 従業員に常識とか節度を求める(就業規則等の既存ルールを継承することも多い)
  • 意見を述べるときは会社の公式見解ではないことを明示させる

前者については会社組織の一員である以上は当然のことですし、後者についても常識的な項目ではあるのですが、問題はこれらを定める意図にあります。

ぜひいくつかのポリシーを読んでみていただきたいのですが、積極的なコミュニケーションを求めているとは思えないんですよね。

社員に対しては責任を強く求め、ソーシャルメディア上のユーザーには「必ずしも当社の公式発表・見解をあらわすものではありません」とエクスキューズをする。

はたしてこれで社員は勤務先を公開してまで、自社製品のことを語るのでしょうか。ソーシャルメディア上で自社サービスについて疑問を書き込んでるユーザーに対して、能動的にサポートを行なうでしょうか。

なんのためのポリシーか

ポリシーとはなんなのかという話にも繋がってきますが、「そもそもの目的」が抜け落ちている(もしくはずれている)ように思えてなりません。
「ユーザーと対話したい」というのがソーシャルメディアポリシーの基本のはずなのに、リスクばかりに注目して、問題が起こらないようにと非常に慎重なものになってしまっています。これを外部に公開する意味はまったくありません。あえて言うなら「必ずしも当社の公式発表・見解をあらわすものではありません」と証拠を残したいだけに見えます。

問題を起こす社員はどんなポリシーやルールを定めても起こします。いま企業が大事にしなければならないのは、会社のポリシーがわからず二の足を踏んでいる社員に積極的にユーザーと関わってかまわないことを保証してあげることです。彼らの背中を押してあげることです。

理想的なソーシャルメディアポリシー

もし公開するのであれば、まずは自社が積極的にソーシャルメディア上のユーザーや顧客(見込み顧客含む)と対話を求めていることを明示すべきです。
すべてはそのためのルールに過ぎないのですから。

社員に対しては就業規則や法律などの極めて常識的な最低限のルールを遵守した上であれば、自由にユーザーと対話していいことを許可しましょう。ただしユーザーとの対話で得た改善案や不満点については必ず社内にフィードバックするようにし、また自分では回答できない場合は積極的に広報やコールセンターを案内するように伝えて、むしろ会社の代表として交流することを容認・支援したほうがいいと思っています。

またソーシャルメディア上のユーザーに対しては、「公式アカウント、または弊社社員のアカウントにどしどしご意見ください」と宣言すべきです。
と同時に会社の公式見解を述べる場所(公式アカウントやサイト上の専用ページ)を明示した上で、そこにユーザーからの意見を集約し、可視化して、ネット上で共有することを約束すべきです。

じっさいにソフトバンクモバイルでは孫社長に対して寄せられる要望とその対応状況を以下のページで可視化しています。これは非常に素晴らしい取り組みです。

ポリシーだけ決めても何も起こらない

ソーシャルメディアポリシーを定めただけでは何も起こりません。ポリシーとは「方針」に過ぎないのですから、その方針にそって実行するための仕組み(ルールやマニュアル)を用意して運用して初めて効果が生まれるのです。

そして体のいいクレーム対応のように表面的な言葉を重ねることに意味はありません。自分がユーザーの立場になって考えればわかるように、行動することだけが評価の対象なのです。行動こそが支持を得るということを自覚すべきです。

もちろん企業の実態としてリスクに目を向けてしまうのはわかります。ただそのリスクは文言ひとつで回避されるわけではないのですから、メリットを最大化することを意識すべきですよね。
そもそも居酒屋では普通に社員が個人的見解を述べているわけです。毎日のように。なのでソーシャルメディアでの振る舞いだけを厳しく取り締まることのはまったくナンセンスです(就業規則そのものを見直す必要はあるかもしれませんが)。

「人の口に戸は立てられない」からこそ、社員ひとりひとりの口と耳をしっかり会社として活用することを意識しましょう。これからの時代は作られたブランドはすべて崩壊していきます。企業はどんどん透明性を高めるべきで、そのほうが消費者とブランドとの結びつきを強くするのです。だからこそソーシャルメディアでの対話が重要なのだということを忘れてはなりません。

社員にとってもユーザーにとっても意味のあるソーシャルメディアポリシーが策定されるといいですね。

河野

当メディア編集長。コミュニケーション・デザイナー。企画屋。1997年、ニフティ入社。2001年にニフティ退職後、フリーターとして数年過ごし、2004年から2005年までオンライン書店ビーケーワンの専務取締役兼COOを務める。ECサイト初となるトラックバックを導入し、また「入荷お知らせメール」などを考案した。また、はてな社との協業による商品の人力検索サービス等をプロデュース。2005年から2007年までシックス・アパート株式会社のマーケティング担当執行役員を務める。2007年から2010年までブックオフオンライン株式会社取締役を務め、サービスの立ち上げ全般のサポートに加え、「オトナ買い」や「デマチメール」などの独自機能を考案した。その後、フリーランスに。2014年から株式会社クラシコムに勤務。現在に至る。「アクティブサポート」や「最愛戦略」の提唱者。個人として「攻城団」と「まんがseek」を企画運営。個人のサイトはsmashmedia

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