日本の企業にもコミュニティマネージャーを

ソーシャルメディアが普及するにつれて「ソーシャルメディアコンサルタント」に代表される、また新しい肩書き(そしてなんだか怪しい肩書き)が増えてきましたが、個人的にこれはきちんと定着させたいと思う肩書きがあります。

それが「コミュニティマネージャー」です。

コミュニティマネージャーの役割

コミュニティマネージャーとは、オンライン・オフライン問わず(しかし世の流れ的にとりわけオンラインに比重を置きつつ)自社のブランドコミュニティを育成し、製品やサービスを理想的な方向に導いていく役割だとぼくは理解しています。

具体的には、以下のようなミッションがあります。

  • 自社製品・サービスの正しい情報をを魅力的に語り、ファンや仲間を増やす
  • 自社製品・サービスに関する誤解を解き、アンチファンや敵を減らす
  • 消費者の生の声を社内に伝え、またその進捗状況を社外に戻す連絡係となる
  • 社員と顧客、顧客と顧客といった個人(ノード)間の繋がり(リンク)を増やすために仲介者となる

なんとなくイメージが沸いたでしょうか。

流行り言葉を交えてもう少し説明を加えれば、ソーシャルメディア時代において、社員も顧客もひとりの個人として認識される中、そのソーシャルグラフを形成する、それも自社製品を中心とするポジティブなネットワークを構築することが、コミュニティマネージャーがやるべき仕事です。

名称に「マネージャー(Manager)」とありますが直訳的な「管理者」や「支配人」という意味合いではなく、せいぜい飲み会の「幹事」程度です。どちらかというと「コミュニティを管理する人」ではなく「コミュニティ(で何が起こっているのか)を把握する人」というイメージです。

上記はぼくの定義するコミュニティマネージャーですが、USでの定義についてイケダハヤトさんのブログで紹介されています。

米国では求人も多い「コミュニティ・マネージャ」職について調べてみました。

こちらでは資質や10箇条についても書かれているので、ぜひ一読をオススメします。基本的なところはぼくが最初に掲げたものと大差ありません。

いまなぜコミュニティマネージャーが求められるのか

企業の代表者として消費者のコミュニティに参加するためです。

消費者はすでにオンライン、オフラインの大小さまざまなコミュニティに参加しています。特に今後はオンライン上のコミュニティがますます増加するでしょう。
一昔前の「Web2.0」バブルの頃であれば、企業が自社サイト内にSNSを構築してユーザーを囲い込もう、などといったバカげた話がまかり通っていましたが、さすがにもう「消費者を囲い込める」などと思っている企業担当者はいません。

そもそもコミュニティは一箇所ではないのですから。
彼らは自分のブログを持ち、複数のSNSに参加し、さらにはツイッターのようなサービスも使って、消費者は自らが所属するコミュニティを自分で選択しています。
もちろんこれは可視化された一部に過ぎなくて、じっさいのオンラインコミュニケーションの大半はメールで行なわれています。ただその一部がどんどん大きくなっていることも事実なのです。

だからこそ企業はコミュニティに参加するメリットがありますし、とくに深く、長い付き合いを消費者に求める場合は(そのときの対象は「消費者」をより絞った「顧客」になるでしょう)インターネットのパワーを最大限活用することができます。
(放置する=参加しないリスクを指摘して脅迫するような意見もありますが、現時点のソーシャルメディアに対する取り組みは、自社に近づいてきてくれた消費者と良好な関係を築き、顧客となってもらいLTVを最大化するメリット重視の判断をオススメします)

そのためにも企業にはとりわけオンラインコミュニケーションに精通した人材、すなわちコミュニティマネージャーが必要とされます。
自社の製品やサービスについて正しく理解することはもちろんのこと、それを正確に伝える能力を持ち合わせ、さらにはユーザーが何を聞きたがっているのかを汲み取る能力も必須です。

コミュニティマネージャーはスーパーマンじゃない

多くのオンラインコミュニティでは文章だけでやり取りすることになります。いわゆるコミュニケーション能力(相手の質問の意図を理解し、正しく伝わるように説明する能力)が重要なのは他のどの職種でも変わりませんが、とりわけコミュニティマネージャーには文章のみで意思疎通を図るリテラルコミュニケーション(literal communication)能力が求められます。
また、ツイッターなら140文字という制限もありますし、ブログのコメントならやり取りにタイムラグが発生します。そういったサービスごとの制約や特徴を踏まえての適切な対応も要求されます。

そしてオンライン・オフライン問わずと最初に示したように、オンラインで盛り上がったコミュニティのほとんどはオフ会などオフラインでの面会に繋がります。
そういったオフラインの場でもきちんと企業の代表者として振る舞えることも必須スキルのひとつです。むしろユーザーが直接会うことを求めている気持ちを速やかに察知して、企業側からイベントの提案を行なえるのが理想的です。

こうして整理するとかなり大変な、スーパーマンのような職種に見えたかもしれませんが、ひとつひとつのスキルは広報やカスタマーサポートなど、これまでの他の職種で行なわれてきたものと変わりません。単にパーツ(スキル)の組み合わせがちがうだけです。

なお、上記の紹介記事では

コミュニティの構築・育成・管理は、特別なスキルを要します。強いて言うならカスタマーサポートに求められることと似ている、としばしば言われます。

とありますが、ぼくは少しちがうと思っています。サポートの場合は電話にせよメールにせよこちらに届いたものへのリアクションですし、多くの人は「教えてください」というスタンスで問い合わせてくるため、環境的にも精神的にも「ホーム」です。

それに反してコミュニティーマネージャーは極めて「アウェイ」な環境で、ユーザー対応をしなければなりません。話しかけるタイミングもこちらで考えて空気を読まなくてはなりませんし、聞かれていないことまでペラペラ案内していると反感を買います。このあたりは「アクティブサポート」の特徴と同じです。
一見同じようなスキルですし、じっさい共通する部分も多いのですが、ベクトルが逆であるためにより難易度が高くなっていることは認識しておくべきでしょう。

「コミュニティマネージャー養成講座」を準備中

さて、そんなコミュニティマネージャーが各企業にいたら素敵だと思いませんか。きっと企業と消費者のズレや誤解が減るでしょうし、安売り競争に参加しなくてもきちんと収益を確保できるようになるかもしれません。
ぼくはコミュニティマネージャーは企業が開く新しいチャネルになれると思ってますし、広告でも広報でもない新しい情報提供や関係構築が進むことで、企業と消費者の新しい関係が作れるんじゃないかと思っています。

マーケティングis.jpではコミュニティマネージャーを本気で育成していこうと考えています。この講座では、ぼく自身がこれまでに得た経験(サポートや広報の経験、ソーシャルメディアでの経験、オンラインコミュニティの立ち上げや運営に関する経験)を伝えていきます。

具体的なカリキュラムの作成などについては、以下のフォーラムでみなさんに公開しつつ意見を求めながら詰めていこうと思っています。

現在は有料での開催を考えています(費用は未定)。もしかすると土壇場でビビって無料にするかもしれないけど、ちゃんとしたクオリティのものを提供するためにも双方に利害があるほうがいいだろうと思っています(金もらってんだからちゃんと教えろというプレッシャーと、金払ったんだからちゃんと学ぼうというプレッシャーの両方がちょうどいい緊張感と真剣さを生むかなと)。

知識だけなら本を読めば頭に入ります。でもスキルは身につきません。
知識をスキルに昇華するために必要なのが実体験なのですが、より効率的に行なうならばノウハウと呼ばれる経験則を理解することです。これは文字通り経験者にしか伝えられません。だからこそ「コミュニティマネージャー養成講座」では、ぼくも含めてネットコミュニティ、オンラインコミュニケーションの経験者を招いてしっかり伝えていければと考えています。

興味がある、参加したい、教えられる経験がある、なんでもけっこうですのでぜひコメントをお寄せください。

河野

当メディア編集長。コミュニケーション・デザイナー。企画屋。1997年、ニフティ入社。2001年にニフティ退職後、フリーターとして数年過ごし、2004年から2005年までオンライン書店ビーケーワンの専務取締役兼COOを務める。ECサイト初となるトラックバックを導入し、また「入荷お知らせメール」などを考案した。また、はてな社との協業による商品の人力検索サービス等をプロデュース。2005年から2007年までシックス・アパート株式会社のマーケティング担当執行役員を務める。2007年から2010年までブックオフオンライン株式会社取締役を務め、サービスの立ち上げ全般のサポートに加え、「オトナ買い」や「デマチメール」などの独自機能を考案した。その後、フリーランスに。2014年から株式会社クラシコムに勤務。現在に至る。「アクティブサポート」や「最愛戦略」の提唱者。個人として「攻城団」と「まんがseek」を企画運営。個人のサイトはsmashmedia

シェアする