マーケティングの現在地
マーケティングを見直すというか考え直す上で、
- ドラッカー「マーケティングの究極の目標は、セリングを不要にすることだ。」(1974年)
- セス・ゴーディン「マーケティングの大半は、実はスパムだ。」(1999年)
というふたつの発言は無視できないと思っていて、じゃあその間になにがあったのかというと、当然のことながらネットなんて関係なくて、カラーテレビの普及と広告宣伝費の増加なんですよね。
(アメリカの事情に詳しくないので、ここから日本国内の話にすり替えています)
参考)
1975年(昭和50年) – NHKのカラーテレビ受信契約数が2000万件を突破
1976年(昭和51年) – カラーテレビの普及率は94%に達する
経済成長の後押しもあって、需要が供給を大きく上回っている時代においては、広告宣伝による刺激がどんどん消費を加速させますし、企業は他社よりも多く、より派手に消費者の意識を捉えようとしてきました。じっさい日本の広告費も倍増しています。
まさに「土足マーケティング」が行われたのです。
セス・ゴーディンがスパムと断じているマーケティングはおおむねこうした「マスマーケティング」のことで、ゆえに彼はパーミションの重要性、パーソナライズの有効性を説いたわけですけど、世の中は残念ながら彼が思う方向には進まず、より一層スパム化が進んだのはぼくらが実感しているとおりです。
マーケティングにおける「効率」
ここで問題になるのが「効率」です。
マーケティングにおける効率には、少なくともふたつの捉え方があります。
ひとつは少ない手間(コスト)で最大の効果をあげるというものです。
つまり100人に買ってもらうことを目的とした場合、何人に声をかければいいのか(同時に何人まで声をかけられるか)という考え方をする派閥です。仮に1万人に声をかければ100人が買ってくれるという実績があったとすると、「じゃあ2万人に声をかけりゃ売上は倍になるよね」と解釈します。
名簿の質よりも量を重視するため、買えるなら喜んで買います。チェックボックスをデフォルトでオンにするのは彼らです。
「売上が増えれば、当然利益も増える」というスタンスで、何回空振りしようがバットを振りつづければそのうち当たるので、スイングの回数をとにかく増やすことが「効率的」だと考えています。
(この思想におけるグルは楽天でしょう)
もうひとつは、「買うべきではない人には売らない」という信念で商売をして、ロスを最小化することです。理由は明白で、まちがった人に売ってしまうと、その後の対応(クレームや返金など)が生じるため、結果的に利益が減るからです。
ゆえに、仮に1万人に声をかければ100人が買ってくれるという実績があったとすると、購入しなかった9900人に目がいってしまいます。そして1万人を5000人、3000人、1000人と減らすための抽出条件を考えはじめます。彼らにとって100人に声をかけて100人が買ってくれることが「効率的」であり、その精度を高めることができれば、似たような人にアプローチすることで購入者を増やすことも可能だと考えます。
どっちが正しいというような話ではないのですが、相容れない考え方だと思います。
加えていえば、前者の考え方はマーケティングのスパム化を推進するものです。
そして現時点においては前者のほうが圧倒的に優勢で、セス・ゴーディンがヨーヨーダイン社で手がけたメールマーケティングはダイレクトマーケティングの負の側面ばかりが継承、そして強調されて、残念ながらインターネットにおけるスパムの最大勢力になっています。
つまり、セス・ゴーディンが「(マス)マーケティングの大半は、実はスパムだ。(ゆえにパーミッションを得て、企業は消費者と良好で持続可能な関係を築かなければならない)」と喝破した1999年よりも状況は悪化しており、いまとなっては「あらゆるマーケティングのほとんどすべてはスパムだ。」という残念きわまりない事態になっています。
そこらじゅうが土足で踏み荒らされているのです。
現代のマーケティングはドラッカーが説いたように「セリングを不要にすること」に成功していないばかりか、むしろマーケティングはより悪質なセリングという印象を与えています。
テクノロジーがスパムを抑制し、消費者を保護するために使われず、より安価に高速に広範囲にスパムを届けるために使われている現状を踏まえれば、「ビッグデータ」もスパム増産の燃料にしかならないでしょう。
ここで軌道修正をしなければ、マーケティングはほんとうに嫌われ者になるでしょうね。