売れないときのチェックリスト「ACPUR」

商品が思ったように売れない、店を開いたけどお客さんが来ない、マーケティングが解決すべき課題は山のようにあるわけですが、まず最初にすべきは問題の特定です。

今回はそういう相談を受けた際に、ぼくがいつも最初に考えている手法を紹介します。

マーケティングのボトルネック分析手法「ACPUR」

基本的には「AIDMA」や「4P」といった観点で見直すのがいちばんです。モノが売れるにはさまざまな理由がありますが、モノが売れない理由はそれほど多くはないので、慎重に分析すれば必ず課題は見つかります。

消費者の購買行動プロセス(AIDMAAISASやそれに類するもの)のどこかがボトルネックになっているわけですから、それを特定し改善すればよいのです。

ぼくが意識しているのは次のようなポイントです。

A Attention 認知は足りているか?
C Channel ほしいときに買えるか?
P Price(Pricing) 価格の妥当性はあるか?
U Uniqueness 商品に独自性はあるか?
R Reputation 購入者の評価は満足いくものか?

英語は苦手なのですが、こういうのは頭文字で整理するのが常なのでやってみました。「ACPUR(アクプー)」というのはちょっと言いづらいですね。

語呂や語感はさておき、ひとつずつ説明します。

Attention(認知は足りているか?)

AIDMAにもAISASにも出てくるので、いまさらな項目ではありますが「知らない商品が売れるはずがない」のもまた常識ですので、最初に確認すべきポイントです。
どんなにいい商品、どんなに素晴らしいサービスでも、知らなければ買いようがないのです。きちんと認知されていますか?

アテンション・エコノミー(Attention Economy)」という言葉がありますが、これだけ世の中に情報が溢れてしまうと、知ってもらうというのは簡単なことではありません。
また単に情報量の増大だけではなく、消費者の情報源となるメディアも多様化しているため、見込み顧客が見向きもしていないメディアに広告を掲載したところでまったく反応がありません(例:女子高生向けの商品を新聞広告に出す)。

現在でも缶コーヒーやシャンプーなどのコモディティ系の商材、あるいは映画やケータイゲームなどのエンターテインメント産業ではテレビCM等を使ったマスマーケティングは有効ですが、少しでも専門性や趣味性の高い商材になるとマス広告では効率が悪くなってしまいます。

そうした商材では「商品認知」よりも「商品理解」が重要になるため、これには単なる商品名の認知ではなく、正しい情報伝達を心がける必要があります(このあたりはそもそも訴求すべき「Uniqueness」があるのかという話になりますので後述します)。
まずは消費者に商品の存在を知ってもらうことです。購買行動はいつでも「Attention」から始まるのです。

その商品の「Attention」は十分にありますか?

Channel(ほしいときに買えるか?)

消費者がほしいと思ったときにすぐ買えるか、彼らの望む場所・手段・支払方法などが満たされているのかをチェックしましょう。

リアルであれば真っ先に店舗の立地や店内の商品陳列を考えるわけですが、購入チャネルはインターネットの登場で大きく変化しています。ネット専門店もあれば、ネットとリアルの両方を併存している企業も増えています。
しかしECなり通販なりをやっていることが知られていなければやってないのと同じです。ここのチェックはECサイトを用意したからオーケーではなく、それがきちんと伝わることが条件です。

開店時間も大事です。15時で閉まる銀行、19時で閉まる書店にサラリーマンが行くことはかなり難しいです。
コンビニやECがこれだけ支持されるのも24時間365日というのが大きいわけですから、ほしいときに買えるというのがいかに重要かがわかるでしょう。

支払方法、決済手段も大きなポイントです。ECの場合によくある話ですが、多くの消費者はまだまだカード決済が不安です。またカードを所持していない人も少なくありません。そういった方のために代引きを用意していますか?
カードを持ってない人のために銀行振込を用意するのもいいでしょう。しかし問題の本質は「商品が届くかどうかわからないのに、先に支払うのがイヤ」という消費者心理であることを考えれば代引きを用意しない通販は考えられません。
反対に10万円を超えるのにカードで購入できないとか、100万円を超えるのにローンで払えないというのもありえませんよね。

消費者がほしいときに躊躇なく購入できる「Channel」は用意されていますか?

Price(価格の妥当性はあるか?)

これはコストパフォーマンスと言い換えることもできますが、その商品の価格が提供する価値に見合っているのかということです。
100円の商品にはそれに見合った価値があり、1万円の商品もまた同じです。高いから売れないのではなく、その高い価格に見合ってないから売れないのです。10円だから売れるわけでもありませんしね。

是非はさておき、現代のマーケティングでは価格戦略がかなり大きな比重を占めています。中途半端な機能差よりも、低価格であることのほうが売れます。
もともと「Price」は4Pのひとつですが、こうしたマーケティングミックス(4P)がジェローム・マッカーシーによって提唱された1960年と比べると、「Price」の存在感が際だつようになりました。

当然、価格は安いほど良いのですが、企業としてもビジネスである以上、利益を確保しなければなりません。そこで価格戦略を考える際はコスト削減を考えるとともに、どこまで値上げできるかの適正価格を見極めることが肝心です。

その商品の「Price」は適性ですか?

Uniqueness(商品に独自性はあるか?)

似たような商品、どこかで見たようなサービスが日々世の中に投入される現代において、独自性は大きな武器になります。

ひと言で説明できるシンプルさ、一度聞いたら忘れない変わったネーミング、独特なパッケージデザイン、その商品には差別化要因はありますか?

ただしあくまでも商品そのものの特長を出していかなければなりません。
よくあるのがテレビCMを見ていても、それがなんの商品のCMかを覚えてないということです。カメラのCMなのは覚えてるものの、どこのメーカーのどの商品かはまるで覚えていないことはありませんか?
かつてもエリマキトカゲやウーパールーパーを使ったCMがありましたが、なんのCMだったか覚えていますか?
けっきょくのところそれは「Uniqueness」ではないのです。

せっかく広告を投下しても、競合商品が売れているなんてことがないように商品そのものの強みをしっかり打ち出していかなければなりません。そしてそれをコピーやタグラインに反映するようにしましょう。

全部が秀でている必要はありません。どこかひとつでもいいので、圧倒的な差別化を図りましょう。
シンプルで強い特長は話題にしやすいという利点にもなります。

その商品には「指名買い」されるほどの「Uniqueness」がありますか?

Reputation(購入者の評価は満足いくものか?)

最後は「Reputation」です。購入者の評判が悪い商品なら、それ以上売れるはずもありません。「売れない」理由を探すなら、まずは購入者の声に耳を傾けましょう。「売れない」といってもさすがにひとりも顧客がいないというわけではないでしょうし。
(発売前なら「売れない」悩みがあるわけもないですし)

もし購入者の感想がネガティブなのものであれば、それこそが「売れない原因」かもしれません。もちろんひとりの声に左右されるのは危険ですから、きちんと裏取りは必要です。
購入者に対してアンケートを実施するのもいいですし、電話をかけて聞いてもいいでしょう。デプスインタビューもオススメします。なぜ不満なのかを冷静に分析しましょう。

当然、これらのネガティブな評判がソーシャルメディアで共有される点も無視できませんし、ブログやツイッターの声が参考にならないわけではありませんが、それが本当に顧客全体を代表しているのか、そもそもその購入者は自社の商品が価値を提供できる人だったのかを確認するのが先です。
そもそも対象外だった方の不満に振り回されてはいけません。

とくに心配なのは「サービス」です。接客態度、梱包の状態……購入者にしかわからないことはたくさんありますが、そこに不満はありませんか? 購入者が不満であればリピートされないだけでなく、他者への推薦も起こりません。リピートとクチコミはCPOを下げ、利益率を高めるには絶対条件です。
顧客の声のすべてが正しいわけではありませんが、顧客の声の中にヒントが隠れていることも事実です。「Reputation」に耳を傾け、正しく聞き分けましょう。

購入者の「Reputation」にはどんな不満がありますか?

AIDMA等とACPURとの関連性

ここで提示した「ACPUR」と従来のメソッドとの関連性はざっと以下の通りです。

おおよそすべての購買行動プロセスを包含していることがわかると思います。

AIDMAAISASは新規顧客・初期購入のモデル化に過ぎないので、これだけでマーケティングを考えるのは不十分です。購入後の満足や、他者への推薦、再購入なども考えなければ正確なモデル化はできません。
ただし、そもそも完全なモデル化なんてムリだと考えれば、こうしたシンプルなモデルを複数使い分けることでおおよその全体像は捉えられるはずです。

「売れない」問題の解決は、多くのマーケターにとって最大にして、もっとも日常的な課題だと思います。これをスムースに解決できれば企業は救われるはずです。
そもそも知られていないのか、ほしいけど買えないのか、価格が高すぎるのか、商品に特長がないのか、購入者の評判が悪いのか、こうしたポイントを重点的に分析することで原因の特定が素早くできるようになりますし、解決策も出しやすくなります。

「ACPUR」が完璧ではありませんし、これですべての問題が解決するわけでもありませんが、このようなチェックリストが手元にあれば、初手・初動が早くなるはずです。
ボトルネック分析の際のひとつのチェックリストとして参考にしていただければ幸いです。そしてみなさんがこれを改善されたら(きっとその余地はたくさんあるはずなので)ぜひ教えてください。

河野

当メディア編集長。コミュニケーション・デザイナー。企画屋。1997年、ニフティ入社。2001年にニフティ退職後、フリーターとして数年過ごし、2004年から2005年までオンライン書店ビーケーワンの専務取締役兼COOを務める。ECサイト初となるトラックバックを導入し、また「入荷お知らせメール」などを考案した。また、はてな社との協業による商品の人力検索サービス等をプロデュース。2005年から2007年までシックス・アパート株式会社のマーケティング担当執行役員を務める。2007年から2010年までブックオフオンライン株式会社取締役を務め、サービスの立ち上げ全般のサポートに加え、「オトナ買い」や「デマチメール」などの独自機能を考案した。その後、フリーランスに。2014年から株式会社クラシコムに勤務。現在に至る。「アクティブサポート」や「最愛戦略」の提唱者。個人として「攻城団」と「まんがseek」を企画運営。個人のサイトはsmashmedia

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