企業サイトのメディア化と企業によるメディア運営

最近、また少し見聞きすることが増えた気がする「企業サイトのメディア化」なのですが、それについて書いてみます。

まず、企業サイトのメディア化と企業によるメディア構築はちょっと意味合いが違います。ここを混同している人が多いのですが、これは明確に違います。

例を挙げたほうがわかりやすいですね。
まず、「企業サイトのメディア化」での事例は、任天堂が有名です。

また、「企業によるメディア運営」については、日本コカ・コーラが運営している「コカ・コーラ パーク」が有名です。

お気づきの通り、この両者は企業サイトの中か外かという点で、大きな違いがあります。それは目的が違うからなのです。

企業サイトのメディア化

まず最初は「企業サイトのメディア化」についてです。

大手の企業サイトは月間100万人以上の来訪があります。
本田技研工業のウェブサイト(http://www.honda.co.jp/)は月間のユニークユーザーは150万人を超え、ページビューも6000万PVを超えているそうです。さすがにここまでの規模のウェブサイトを作るのは簡単なことではありませんが、これだけのユーザーを毎月呼び込めたらビジネスを優位に進めることができますね。

そう、まさに企業サイトをメディア化する目的は、

  1. 見込み顧客を集め、購買への最後の説得をすること
  2. 既存顧客との長期的な繋がりを維持すること

にあります。
細かく言えばひとつ目の目的は「集客」「販売促進」であり、ふたつ目のほうは「顧客維持」になります。「ブランディング」は両方に言えることですね。

なので、誰でも連れてくればいいというものではありません。自社の顧客、もしくは顧客になりそうな方が集まるように設計する必要があります。

ではどうすれば企業サイトをメディア化できるのでしょうか。

そのためにまずやるべきことは「カタログのウェブ化」からの脱却です。
まだそういうウェブサイトが多いのですが、紙のカタログをそのままウェブにしただけでは、意味がありません。みなさんもご存じの通り、紙のカタログはかなり見やすいです。書き込むこともできるし、電車の中でも、ベッドの上でも、どこでも見ることができます。

この紙のカタログ以上の価値を提供できない限り、スタートラインに立つことは無理です。
たとえばカタログには数点しか掲載できない製品の写真をより多く掲載するとか、上位機種との機能比較ができるようにするとか、ウェブならではの優位点を見極めて提供しなければなりません。

その上で、メディア化を考えるわけですが、まずテクニックとしてはSEOをきちんとやることです。あるいはベタですが、季節や時間帯にあわせてサイトのデザインを変えることで再訪問率をアップさせることもできるかもしれません。メルマガやRSS配信も有効な手段です。

こうした基本的なことをやりつつも、メディア化実現の本命は「コンテンツ作り」です。
その企業でしか提供できない情報やサービス、その企業サイトを訪問する理由になるようなコンテンツを考えます。このコンテンツはある程度の頻度で更新が可能でなければなりません。更新されないサイトは見に行きませんから。

任天堂は新しいゲームが出るたびに社長がインタビューしています。このようにフォーマット化、シリーズ化をして継続的にコンテンツを公開できるようにするのはいい方法です。

あるいは味の素の「レシピ大百科」というのもあります。レシピを公開し、そこで自社の調味料を宣伝するコンテンツです。

このコンテンツを考える部分がいちばん大変なのですが、企業サイトのメディア化というのは「これをやれば成功する」というマニュアルがないのです。その企業ごとに正解は違うと言い換えてもいいでしょう。

その企業が「伝えたいこと」、「伝えられること」があり、同時にお客さんが「聞きたいこと」があるわけで、それらを結びつけるコンテンツは企業の数だけあります。

でもここを考えることがいちばん楽しいとも言えます。
動画を公開してもいいですし、ユーザーコミュニティを作ってもいい、あるいはユーザーからの投稿を受け付けて、それを企業側が評価するようなコンテンツもいいかもしれません。

この部分の企画力と編集力はこれまでのウェブ担当者には求められていなかったスキルですが、今後は確実に必要になってきます。
ウェブサイトの運営予算を見直したほうがいいかもしれませんね。

企業によるメディア運営

それでは、もうひとつの「企業によるメディア運営」についてです。

こちらの目的はより簡単です。

  1. とにかく集客して、自社サイトへ誘引すること

これだけです。
もし付け加えるとすれば、

  1. 広告収入を稼ぐこと

です。

実際、「コカ・コーラ パーク」では、会員数が660万人、月間1.2億PVを媒体化して広告を受付けています。

ここで稼いだお金で、よそに出稿するというサイクルが回せれば理想的ですね。

ではなぜ企業がわざわざ自社サイト以外にメディアを立ち上げ、運営する必要があるのか、その理由について考えてみましょう。

この問題は「集客コスト」がポイントです。
ECサイトのケースがいちばんわかりやすいのですが、多くのECサイトでは売上のかなりの部分をリスティング広告(検索連動型広告)やアフィリエイト広告に依存しています。

リスティング広告を運用したことのある方ならわかると思いますが、この画期的な広告は小規模でやってる分には大変効率的なのですが、規模を大きくしていくと途端に効率が悪化します。具体的にはCPA(1件獲得するためにかかる費用)が急騰します。

またアフィリエイト広告は成果報酬型なので、売れなければ払わなくていいというメリットがある反面、売れれば売れるほど負担が増すので粗利率(限界利益)に影響が出ます。

つまりリスティング広告もアフィリエイト広告も商売の規模が大きくなると、必ずしも最適な(もっともコスト効率がいい)広告とは言えなくなるのです。
この、規模による効率低下はバナー広告でも、メール広告でも同様です。

そこで考えるのが、企業によるメディア運営です。
広告を出稿するのではなく、そのお金で出稿するメディアそのものを、自社で作ってしまおうという考え方です。
リスティング広告に1000万円投じている企業であれば、そのうちの100万円でも200万円でもメディア運営のためにまわすことで、それ以上の効果(集客数、売上)を狙います。

実例を見てみましょう。

たとえばこのサイトはイセ食品という卵の会社が運営しているメディアです。全国から卵かけご飯のレシピを投稿してもらい、それを掲載しています。
そしてこのサイトから自社製品である卵や卵かけご飯専用醤油の購入ができるようになっています。

このように自社のビジネスに近ければ近いほど物販と結びつけやすくなるので、向いているのは間違いありません。
ただし一般消費財、それこそコンビニに並んでいるような商品の場合は、テーマを気にせず、集客力だけを考えて立ち上げてしまうのも手です。

たとえばこのサイトはカメラメーカーのニコンが運営してるお菓子のメディアです。

残念ながら、2009年6月30日で閉鎖とあるので、自社のビジネスにうまく繋げることができなかったのかもしれません。
(その観点からもやはり自社のビジネス周辺のテーマで立ち上げることをオススメします)

さらにいえば、もうひとつ、

  1. 広告出稿先として適切な既存メディアがないから

という理由があります。
最近は行動ターゲティング広告なども出てきているので、ある程度のデモグラフィック、サイコグラフィックな分類で広告を表示することができるので、まったくリーチできないということはありませんが、エリア限定のメディアはまだ少ないですし、ローカルでニッチな顧客層を持つ企業の場合は考えられるケースです。

さて、このようにして立ち上げたメディアが100万PVになれば、そのサイトにバナーを貼って自社サイトに誘引することができますし、あるいは他社の広告を掲載して運営費をまかなうこともできます。
さらにそのサイトが200万PVになれば効果(や広告収入)も比例して増えます。このときの増加コストはサーバー代などがあるにせよ、広告を出稿することを考えればはるかに安いです。

メディア運営に関して言えば、広告出稿とは逆で規模が大きくなればなるほど、より効率的(安いコストで)まわすことができます。
もちろん現在の広告費のすべてをメディア運営費に充てるのはリスクも大きいので、まずは数十万円からでもいいので、検討する価値はあると思います。

リスティング広告やアフィリエイト広告は今後さらに競争が激しくなるので、コスト効率はどんどん悪化します。
それを考えても、企業が自ら集客力のあるメディア運営に乗り出すことが、広告コスト高騰の解決策になるかもしれません。

こちらについては過去に講演しているスライドがあるので、参考までに紹介しておきます。

まとめ

長々と書きましたが、「企業サイトのメディア化」と「企業によるメディア運営」の違いが伝わったでしょうか。
最終的な目的はどちらも売上アップなのですから、それを実現する方法論の差にすぎません。

まとめると、より多くの集客に加え、顧客と繋がり続けるための手段が「企業サイトのメディア化」であり、広告費の再配分、ひいては集客コスト低減のための手段が「企業によるメディア運営」なのです。

両方に「集客」が入っているのは、それだけ集客は難しく、と同時に最重要課題だからです。

最後に関連するリンクを紹介しておきます。

河野

当メディア編集長。コミュニケーション・デザイナー。企画屋。1997年、ニフティ入社。2001年にニフティ退職後、フリーターとして数年過ごし、2004年から2005年までオンライン書店ビーケーワンの専務取締役兼COOを務める。ECサイト初となるトラックバックを導入し、また「入荷お知らせメール」などを考案した。また、はてな社との協業による商品の人力検索サービス等をプロデュース。2005年から2007年までシックス・アパート株式会社のマーケティング担当執行役員を務める。2007年から2010年までブックオフオンライン株式会社取締役を務め、サービスの立ち上げ全般のサポートに加え、「オトナ買い」や「デマチメール」などの独自機能を考案した。その後、フリーランスに。2014年から株式会社クラシコムに勤務。現在に至る。「アクティブサポート」や「最愛戦略」の提唱者。個人として「攻城団」と「まんがseek」を企画運営。個人のサイトはsmashmedia

シェアする