消費者が本当にほしいもの
セオドア・レビットの有名な格言として「ドリルを買おうとしている人は、ドリルが欲しいのではなく、穴を開けたいのだ」というものがあります。
(正確に言えば、これはレオ・マックギブナという人が語った言葉としてレビットの著書『マーケティング発想法』で引用されました)
本当にほしいものはドリルではなく穴
ホームセンターのレジで現象として見えるのは「ドリルをレジに持ってきた人」ですが、ドリルコレクターでもない限り、べつにドリルがほしいわけではなくて、ドリルはそれを使う必要があるから買っているわけです。
つまり「穴を開けたい」のが顧客ニーズであって、現象ではなくその奥にある理由にきちんと目を向けろという話です。
ドリル以外が売れるかもしれない
さて、ドリルを買う理由が穴を開けることだとすれば、商品棚に並べるドリルの種類も考えなければなりません。ほしい穴のサイズさえ開けられれば、先端がアタッチメントになっていて32種類のサイズの穴があけられるドリルセットなんていらないですしね。
そしてそれを解決するのはなにもドリルに限った話じゃありません。穴さえ開けられればいいのですから。
もっといえば、穴を開ける必要さえないかもしれません。その目的が棚を作ることなら、突っ張りポールでも強力な粘着シールでもいいかもしれません。
ドリルが売れているからといって、小売店がドリルを大量に仕入れて並べたり、メーカーが一気に増産するのは短絡的すぎます。もちろんそれをただうらやましく見ているのももったいない話です。
現象の本質、消費者の行動の本当の理由を突き止めて、それに応えましょう。彼らの問題解決を提案することができればドリルじゃなくても売れるのです。
売れないことからも想像できる
売れたことからだけではなく、売れなくなったことからもいろんな想像ができます。
たとえばあなたが薬局を経営していて、トイレットペーパーが売れなくなったとします。それは近所にできたスーパーでもっと安いトイレットペーパーが売ってるのかもしれません。もしかすると近所でウォシュレットの導入が進んでいるからかもしれません。
競合店の出店やセール、インターネットに代表されるテクノロジーの進化、企業の安定は誰も保証してくれません。事実はいつもひとつです。目の前の現象に惑わされず、その理由や原因をきちんと突き止めましょう。
そのために各種リサーチを利用するのもいいと思います。と同時に自分の心を徹底的に分析して、いわゆる肌感覚を徹底的に研ぎ澄ませていくこともマーケターとしては必要なことです。
そもそもなんのための穴だったの?
そもそもなぜ穴を開けたいのでしょうか。
たとえば、なぜサラリーマンが電車内でポケモンをやっているのでしょうか?
それはただの暇つぶしかもしれませんし、友だちと繋がりたいからかもしれません。もしかすると子どもに頼まれてモンスターを集めているのかもしれません。
こうしてそもそもの理由まで遡って考えると、代替性のない商品がいかに少ないかがわかりますよね。
暇つぶしが目的なら他のゲームでもいいですし、文庫やiPodでもかまいません。友だちと繋がるためならケータイでもいいでしょう。親子の関係作りなら、メール交換でもいいわけです。
ぼくらはついつい近場で競合を見つけては一喜一憂しがちです。最近聞いたひどいケースになると「うちの店だけが苦戦しているんじゃない。他の店の売り上げも落ちているからしょうがない」と口にする人もいました。
もちろん景気によっての変動はありますが、もう少し意識を広げてみるといままで思ってなかった競合に顧客が流れているのかもしれません。
「ドリルを買う」という行動から「穴を開けたい」という意思を読み取り、その先にある彼らの本当の問題を理解し、その解決法を提案できる企業が支持されるのは当然のことです。
あなたは消費者が本当にほしいものを理解していますか?