ソーシャルメディア時代のデプスインタビュー
企業のマーケティング活動において顧客や消費者(生活者)の理解が大切だと言われて、既に何年も経ちます。顧客・消費者理解を得るための手法は様々ですが、今回は私が年間250名ほど実施しているデプスインタビューを取り上げたいと思います。
デプスインタビューとはなにか?
デプスインタビューとは市場調査における定性調査のひとつとして分類され、対象者(顧客・消費者など)とインタビュアーが顔を合わせ、基本1対1で対話をしていき、対象者の感情や対象者本人が普段、自覚していない意識までを汲み取るものです。デプスインタビューよって行動の動機やその行動の根底にある人の考え方や価値観も含め理解します。
なぜ、デプスインタビューが必要なのか?
顧客・消費者の深層部分に眠る「なぜ?」の理解
マスマーケティング時代であれば、大衆を大きな括りの中で分類し、簡単なアンケートでも消費者を捉えられたのが、今ではそうはいかなくなってきました。それは成長社会から成熟社会に移行するなか、人々の価値観は多様化、複雑化してきているからです。これらの環境下の中、顧客や消費者を理解するためには、表面化にある「何を」(What)だけでなく、深層部分である「なぜ」(Why)を知る必要があります。それらは単なるアンケート形式の回答では知ることが難しく、対面形式で1時間以上の対話、つまりじっくりと相手の話が聴け、繰り返しインタラクションできるデプスインタビューは有効な手段なのです。
インサイトの発見
インサイト(Insight)とは直訳すれば「洞察」です。消費者側のインサイト(コンシュマーインサイト)とは「消費者の行動の原理や、行動の背景にある意識構造を見通した結果得られる、購買行動の核心やツボ」(『アカウントプランニング思考』編著小林保彦、から引用)をさします。この消費者インサイトを企業側にあるブランドインサイトと照らし合わせ見つけ出された共感点を広告やマーケティングに反映して双方のコミュニケーションを円滑にしていくことが現在重要視されていますが、まさしく相手の心を理解するこのデプスインタビューの過程から「インサイト」は導かれることが多いのです。
可視化されてきた顧客や消費者の声
デプスインタビューは恐らく数十年前から存在していたと思います。いつから始まったかは定かではありませんが、当初は現在ほど顧客や消費者の声を理解する手法がなかったことでしょう。ここで考えてみたいのは顧客・消費者理解からみたソーシャルメディアの存在です。
ソーシャルメディアの台頭で随分と顧客や消費者の声は可視化されてきました。
特に気軽につぶやけるツイッターの存在はそれを加速したように思います。また企業側は従来と比べて簡単に顧客や消費者の声を集めることができます。例えばGoogleアラートを使えばそれらを定期的にチェックすることができますし、ツイッターの検索で例えば自社のサービス名を入力すれば様々な声が聴こえてくるでしょう。さらには河野武さんが提唱するアクティブサポートを企業側が採用したなら、顧客、消費者と企業との共生関係は強化されると思います。
顧客の声が可視化された現在もデプスインタビューは必要なのか?
ソーシャルメディアで顧客や消費者の声が可視化でき、アクティブサポートのように企業からアクションできるなら、「デプスインタビューなんぞ必要なのか?」という声も聞こえてきそうです。
確かに顧客や消費者も自分の考えや感情を表現する能力(リテラシー)も高まっており、そういった意味では、ほとんどの意見は可視化されてきていると言っても過言ではないでしょう。特にそこに書かれている不満は事実であり、その不満を解消していくだけでも企業と彼らの関係は格段と良くなると予測できます。ただ、それでもデプスインタビューは必要。それどころか、こういう時代だからこそ、ますます重要視されると私は考えています。
ソーシャルメディア時代に必要とされるデプスインタビュー
ソーシャルメディアで顧客や消費者の直接の声が可視化されたことは、言い換えればそれだけ企業側が彼らの声に触れる機会を増やしたことを意味します。
また、今までであれば、クローズされた中での一部の人の発言と捉えられたものが、これだけネット社会がソーシャル化、一般化していくと、そこで書かれた言葉はイコール顧客の声、消費者の声として捉えられるでしょう。
このように考えていくと、今まで顧客や消費者の理解に力を入れてこなかった企業までもがこの可視化でその存在を軽視することはできなくなり、その理解に力をいれてくると予測できます。それは「嫌なことを言われたくない」というネガティブなものではなく、「どうしたら我々は顧客や消費者の期待に応えられるのだろうか」という顧客中心のマーケティング本来の姿に戻っていく、きっかけになっていくように思えるのです。
となると、可視化されている事実に対してその表面だけを捉え満足するのではなく、「なぜ、そのような言動をしているのか?」「彼らは普段どのように考えているのか?」など深く理解していくことがさらに重要視されるはずです。
そういった観点からも相手の心を理解する「デプスインタビュー」はますます必要とされていくというのが、私の勝手な持論です。どちらにしても「相手を理解していこう」という姿はコミュニケーションにおいて最も重要な行動であると私は考えているので、顧客や消費者の前まで出向き対話をする行動そのものが、顧客や消費者理解には大事だと感じています。
河野コメント
ぼくもソーシャルメディア時代だからこそ、その背景を探る「デプスインタビュー」は重要だと思っています。その理由は、ブログやツイッターによって消費者の不満はかなり顕在化してきていますが、ではそれをどう改善すればいいのかについては、まだまだ可視化されていないからです(一部の自称評論家が改善案を提示していますが、それはあまり意味がないです)。
と同時に、(デプスインタビューに限らず)マーケティングリサーチの領域は担当者のスキルが結果を大きく左右しますので、仮説検証型にせよ、問題発見型にせよ、パートナー選びは慎重にすべきです。「いい耳」を持った人を指名しましょう。
またデプスインタビューも万能ではありませんから、当然メリット・デメリットがあります。このへんも堂森さんに書いていただく予定なのでご期待ください。
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