4Pの時代は終わった、のかもしれない

マーケティングミックス」とか「マーケティングの4P」とか、入門書には必ず出てくるわけですが、この考え方はいまでも通用するものの、位置づけが変わってきたのも事実です。

ちなみに「4P」とは、Product・Price・Place・Promotionの4つのことでマーケティング戦略を考える切り口を整理したものです。

現代マーケティングでは、マーケティングミックスにおける「P」について、ふたつの傾向があると思っています。
ひとつは「バランスが崩れた」こと、そしてもうひとつは「Pが増えた」ことです。

とくにコンビニやスーパーで扱われているような商品にはこの傾向が強いです。

現代のP

本来の「4P」はそれぞれ全部重要で比較的等価に扱われていましたが、現代ではすべて無視できないものの、重要度や影響度のバランスが変わってきたのも事実です。

Priceが強すぎ

ひとつの特徴は価格戦略(Price)が占める割合がかなり大きくなってしまったことです。

経済がグローバル化していることもあり、同じような商品が短期間で模倣され、また値崩れしやすくなりました。
流通業界ではプライベートブランド(PB商品)をどんどん出しており、コモディティ系の商品は機能的な有意差はほとんどなく、「そこそこよくできた商品」が溢れかえっています。
(そういえばPB商品も「P」で始まりますね)

またECがどんどん市民権を得ているため、販売チャネルの開拓に苦心するよりも自分でネットショップを立ち上げたほうがビジネスの拡大に貢献しやすくなってきています。じっさいそこで売れることを証明してしまえば、コンビニ等で扱ってもらうことも簡単になりますしね。

さらには無印良品やユニクロに代表されるように、簡素なパッケージが「余計なコストをかけていない」とポジティブに受け止められていることも無視できません。過剰包装、過剰梱包のコストが製品価格に含まれていることを消費者は気付いていますから、シンプルであることが良心的や誠意といったイメージの醸成、低価格であることの説得力に繋がっています。

こうした状況下では自然と価格競争にならざるを得ず、消費者心理としても「どれでも大差はないのだから、いちばん安いのでいいか」と価格だけが選択要因になりがちです。

圧倒的に優れた製品ならともかく、多少の差別化要因では低価格に勝てません。じっさい少々の性能差であれば店頭(あるいはネット)で比較する際に価格に勝てません。
莫大な開発費、大量の広告宣伝にコストをかけるよりも、価格を下げたり、量販店のポイント還元(これは実質値下げです)の報奨金にまわしたほうが売れてしまうのが現状です。

「いま売れています」が最強のコピー

プロモーション戦略(Promotion)の役割が相対的に下がっているのは、コピーライターの糸井重里氏のこの印象的な発言にも見て取れます。

糸井さんの10年前の「よいしょ!」で
私が象徴的に憶えているのは、
当時、糸井さんが「広告は終わったんだよ」って
はっきりおっしゃったことです。
「だって、『いま売れてます』が
 いちばん効くコピーなんだから、
 この先の広告にはなにもないよ」って。
そのころ、広告の世界の、いちばん中心にいた人が
そんなふうにおっしゃったので、
私は強烈に憶えているんです。
(発言者は任天堂・岩田社長)

商品が溢れてしまうと、よほど思い入れのある場合でもない限り、消費者はじっくりと調べることはしません。誰かの推薦、店頭に掲示してあるランキング、そして「いま売れています」というPOPを見て、選んでしまいます。そんな経験はしばしばありませんか?
(もっともこれらの商品が「本当に」売れているかは別ですけどね)

競合他社よりもいい商品を作ろうと躍起になればなるほど、またその競争が激化すればするほど、差別化要因は小さなものになり、その説明が難しくなります。当然、消費者はすべてを読んでくれませんし、「だいたい同じ」としか見てくれません。

また広告そのものが溢れているため、商品名を連呼するようなよほどインパクトのある広告を大量投下しない限り、いまの広告慣れした消費者に印象づけることはできません。

もちろん個人的には「安いだけ」で売れていくことがいいことだとは思いませんし、マーケティングの役割はこういう混乱期にこそ、その本来の使命である「正しくメッセージを伝え、理解してもらい、共感してもらう」ことを実践しなければならないと思っています。
ただ、それには正しい現状認識が必要ですし、価格(Price)が強くなりすぎてしまっている状況は踏まえておくべきです。

たくさんの「P」

「Price」が強くなる一方で、新しい「P」もたくさん出てきています。

「Purple Cow」、そして「Popularity」

たとえばセス・ゴーディン氏の『「紫の牛」を売れ!』(原題:『PURPLE COW』)には「4P」含め、こういった「P」が増えたと書かれています。

  • Product(製品)
  • Price(価格設定)
  • Place(流通チャネル)
  • Promotion(プロモーション)
  • Positioning(位置づけ)
  • Publicity(宣伝)
  • Packaging(パッケージ)
  • Pass-along(広告)
  • Permission(許可・承認)

これらに加えて「Purple Cow(絶対目立つ非凡さ)」が重要だと説いているわけですが、この本が書かれた2003年と比べると、ぼくはさらに「P」は増え続けていると感じています。

「いま売れています」が最強のコピーであることを考えれば、大衆性や流行・人気を示す「Popularity」は絶対に入ってくるでしょう。
(店頭の「POP」も「P」ですね)

あるいはソーシャルメディアマーケティングのような属人的なマーケティング手法が登場していることから「People」も重要な要素だと思います。
同様に、消費者自身が企業のマーケティングに賛同し関わることを考えれば、参加や関与を表わす「Participation」なども候補になるでしょう。

ほかにも消費者の共感を得るための企業側の経営理念「Philosophy」もこれまで以上に大事になってくると思います。

まとめると次のようなものが増えているとぼくは考えています。

  • Popularity(大衆性や流行・人気)
  • People(人間性)
  • Participation(参加・関与)
  • Philosophy(経営理念)

これからのマーケティングの役割

このような前提でマーケティングに何ができるのかを考えましょう。

まず自分たちが提供できる価値と同時に、譲れないのは何かを整理することです。それが伝えるべきメッセージになります。
「安い商品を提供するために地球環境をいくらでも破壊します」という企業が支持されるかはさておき、おそらく多くの企業はこの逆で「地球環境に配慮しつつ、できるだけ安い製品を供給します」という考えでしょう。もしそうならば、それを伝えなければなりません。ちょっと割高になっている理由を堂々と自らの企業理念とともに伝えることで、共感してもらうのです。

伝える際に大事なのは「企業の人間性」です。これからの企業はただの営利団体としてだけでは存在するのが難しくなっていきます。世の中に受け入れてもらうためには、どうやって共存するかを消費者に理解・納得してもらうことが必要で、そのためには人間同士の対話に勝るものはないのです。

またそうした対話こそが参加を促し、大きなムーブメントに繋がっていきます。個人のレベルではそれはブランド支持になりますし、それがさらに他者への推薦(クチコミ)に発展し、流行を生み出します。あくまでも可能性の話ですが。

こうした消費者とのコネクションを築いていくことがこれからのマーケティングでは重要課題になっていくでしょうし、そこで支持を得て顧客との長期的な関係を構築することがマーケティングの役割(Part)になると見ています。

最後に、今回挙げた「P」のリストを再掲します。

  • Product(製品)
  • Price(価格設定)
  • Place(流通チャネル)
  • Promotion(プロモーション)
  • Positioning(位置づけ)
  • Publicity(宣伝)
  • Packaging(パッケージ)
  • Pass-along(広告)
  • Permission(許可・承認)
  • Purple Cow(絶対目立つ非凡さ)
  • Popularity(大衆性や流行・人気)
  • People(人間性)
  • Participation(参加・関与)
  • Philosophy(経営理念)

ほかにどんな「P」が考えられるか、ぜひコメントで聞かせてください。

[追記]
元のタイトル「4Pの時代は終わった」ではあまりに煽りすぎで本意を伝えきれてないと感じたので、タイトルを修正しました。

河野

当メディア編集長。コミュニケーション・デザイナー。企画屋。1997年、ニフティ入社。2001年にニフティ退職後、フリーターとして数年過ごし、2004年から2005年までオンライン書店ビーケーワンの専務取締役兼COOを務める。ECサイト初となるトラックバックを導入し、また「入荷お知らせメール」などを考案した。また、はてな社との協業による商品の人力検索サービス等をプロデュース。2005年から2007年までシックス・アパート株式会社のマーケティング担当執行役員を務める。2007年から2010年までブックオフオンライン株式会社取締役を務め、サービスの立ち上げ全般のサポートに加え、「オトナ買い」や「デマチメール」などの独自機能を考案した。その後、フリーランスに。2014年から株式会社クラシコムに勤務。現在に至る。「アクティブサポート」や「最愛戦略」の提唱者。個人として「攻城団」と「まんがseek」を企画運営。個人のサイトはsmashmedia

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