インターネット化する世界、ソーシャル化する消費者(2)

前回の続きです。

世の中にインターネットが浸透し、消費者同士が繋がり始めた世界で、ぼくたちの消費行動はどのように変わったのでしょうか。

消費者間の情報共有

ぼくたち消費者同士が繋がると何が起こるのか。いままさに現実として起こってることは情報共有です。

インターネットはもともと時間や空間の制約を取り払う性質を持っています。それがケータイの普及やノートパソコンの普及によって、いつでも、どこからでもアクセスできるようになると、さらにコミュニケーションが活性化します。
そして会話が増え、情報共有が進むわけですが、そんなソーシャル化した消費者の特徴にはどんなものがあるのでしょうか。

ソーシャル化した消費者の特徴

まず最初に指摘しておきたいのは、インターネット化やソーシャル化によってぼくたちが革新したとかそういう大層な話ではないということです。
いま起こっているのは、元来ぼくたち自身が持っていた特徴が強調されているだけです。なので過去との連続性はあるということをまずは認識しておきたいです。

またそうした特徴はインターネットの利用頻度に応じて差が出るため、それこそケータイでメールするだけの人と、毎日パソコンでいろんなサイトを利用している人を比較すれば異なる部分は出てきます。

ただ、こんなにもぼくたちはおしゃべり好きだったのかというくらいコミュニケーションの総量が増えているのは特筆すべきことでしょう。ブログやツイッターなどでヒトリゴトも増えましたし、そこから始まる雑談が増えてます。
メールやSNSの登場により、会話量が増えただけじゃなく、時間が経過した後にその話の続きが再開することも珍しくありません。しかもそれがメールではなくブログのようなオープンな場で行なわれれば、第三者が会話に加わることもあります。

24時間365日、インターネット上のあちこちで会話が行なわれ、それが可視化され、記録される――具体的には商品やサービスに対して感想を語るハードルが下がりました。本の感想、映画の感想、レストランの感想、いろんなレビューが投稿されるようになっています。利用者、経験者への質疑応答も盛んに行なわれています。

そうした状況下で、全般的な傾向として言えるのは「選択的消費傾向が強い」ということです。具体的には以下のような傾向があります。

  • 自分が好きなものを消費する
  • 好きな時に好きな場所で消費する
  • とことん調べてから消費する

みなさんにも自覚できるところがあるのではないでしょうか。

まず最初の「自分が好きなものを消費する」というのは、言い換えれば「消費の分散化」や「趣味嗜好の多様化」です。いまではクルマやケータイのカラーリングは3色程度ではダメで、何十種類と用意した中から選ぶようにしなければなりません。
「憧れの人と同じものを持ちたい」と思う一方で、「身近な人とはかぶりたくない」というのがいまの消費者心理です。これは誰が何を持っているか、最近何を買ったかという情報が共有されてしまうがゆえに、「かぶる」ことの不安と不満が増大しています。

次に「好きな時に好きな場所で消費する」ですが、これはインターネット化の影響を強く受けていることです。モノを買うという行為が、24時間どこでもできるようになったということです。
いまでは就寝前や移動時間までもが消費活動時間となっています。電車の中で気になってた本を買い、風呂の中で明日の映画のチケットを予約する――さまざまな情報がインターネットを通じて入ってくるので、とくに趣味性の高い商品は衝動買いも増えています。
「欲しいと思ったときにその場で買う」ということが現実のものになってくると、需要を喚起するだけでなく、「すぐに購入できる場所」という受け皿としてのECサイトの重要性がますます増してくるでしょう。

その一方で値段の張るもの、実用性の高いものは失敗したくないので「とことん調べてから消費する」ようになっています。
消費者同士が繋がることで、同じ商品をより安く買える店、価格に見合わない悪い商品があることを知ってしまったわけですから、当然どのメーカーのどの商品を買うか、またそれをどこで買うかを熟考するのは当然です。

ソーシャル化する消費者との付き合い方

そんなソーシャル化した消費者に対して、企業はどのように付き合えばいいのでしょうか。

これだけ多くの情報が消費者間で交換され、共有されるようになると、企業としてはそこに自社の情報を流したいと考えるのは当然のことです。
ただしクチコミというものはそんなに簡単に起こせるものではありませんから、きちんとした現状分析と企画立案が必要になります。

昔からクチコミは存在する

ぼくは『そんなんじゃクチコミしないよ。』という本を書いていますが、クチコミの存在は認めています。それこそクチコミは「口裂け女」のような都市伝説から、近所のうまいラーメン屋までさまざまな形でぼくたちのまわりで生まれています。

そしていまはその伝達手段にインターネット(主にメール、ブログ、SNS)が加わりました。じっさい、ソーシャル化した消費者による情報交換の大半はクチコミと言い換えてもいいくらいです。

クチコミを考える際に、インフルエンサーと呼ばれるごく少数の人間を介して、不特定多数に情報を届けようとするのはかなり確度が低いです(ほぼ不可能と思ったほうがいいです)。
そうではなくて、ひとり一人の身近にいるであろう数人にどうすれば伝わるかを考えるのです。この「数人」がインターネット化、そしてソーシャル化によって少し増えているのが見逃せないポイントです。

実家で暮らす両親や兄弟、地元に住んでいる同級生、かつては彼らに情報を伝えるのはお盆や正月の帰省時で、あとはせいぜい年に数回、電話をするくらいでした。
それがいまはメールやブログで近況を報告したり、お得な情報を伝えたりすることができるようになりました。この伝えるコストが下がったことで、やり取りの回数も増えたというのがいま起こっていることです。

それに加えて、いまだ会ったこともないインターネット上の友だちとのやり取りも増えています。
伝える相手が増え、回数も増えることによってクチコミの総量は増えています。この傾向は今後も継続するでしょう。

ソーシャル化する消費者と付き合う3つのポイント

ソーシャル化する消費者と付き合うには、以下の3つのポイントが重要です。これさえ守れば、企業の成功は約束されます。

  • 彼/彼女と直接話す
  • 彼/彼女が友人知人に紹介しやすくする
  • 彼/彼女のフォローをし続ける

本来これらはネットもリアルも関係ない話ですが、ネットをうまく使えば可能性が広がるというのも事実です。
ひとつずつ説明します。

彼/彼女と直接話す

大原則はこの直接対話です。
ひとりでも多くの人に直接伝えることを意識してください。伝える手段としてインターネットを使うのはかまいません。そこで浮いたコストや時間を使って、より多くの人に広告では伝わらない熱量を伝えましょう。熱量のある情報のほうが誰かに言いたくなりますしね。
経由する人が少ないほど、情報は正しく伝わるのは万国共通の真理です。誤解なく理解していただくために、説明を尽くしましょう。

また、競合商品との比較はほっといても消費者が勝手にしてくれます。あなたが望む望まないに関わらず。だからこそ自分たちの会社は、さらにはその商品が何を提供できるのかをしっかり伝える必要があります。
特長がない平均的な商品でも値段に見合ってれば、選ぶ人はいます。

伝える手段、機会を増やすことも重要です。
たとえば企業ブログやツイッターを始める、メールマガジンを発行する、あるいはイベントを企画する。ぼくはブロガーイベントは好きじゃありませんが、過去の製品のユーザーを集めたイベントならとても効果的だと思います。別にブログに書いてもらえなくてもいいのです。クチコミはメールでも電話でも行なわれてますし、翌日の会社でも行なわれるのですから。

自社メディアの例として、ぼくは任天堂の「社長が訊く」シリーズが大好きです。

いま使っている広告費の一部をこういうコミュニケーション費用にまわせば、もっと広がりが生まれるはずです。

彼/彼女が友人知人に紹介しやすくする

SMO(ソーシャルメディア最適化)と呼ばれることもありますが、「友だちにメールする」ボタンを設置したり、動画や画像を簡単にブログに貼り付けられるようにしたりすることも効果的です。
かつてはメールする機能はまったく使われませんでした。ぼくがかつて運営していたサイトも100万PV規模だったのに月に数回しか利用されなかったのを覚えています。ただしインターネットの利用者が当時の10倍になれば、利用率が同じ1%でも紹介者も10倍になるわけで、できるだけ設置することをオススメします。

いまならツイッターに投稿するボタンやFacebookの「いいね!」ボタン、「はてなブックマーク」や「mixiチェック」のボタンなども提供したいですね。

また昔から行なわれている手法ですが、サンプル提供はいまでも有効です。イベントや店頭で配布するだけじゃなく、インターネット上で配布することもできます。送付コストはかかるものの、インターネットなら本当に欲している人に絞って配布することができます。

「わかりやすいコンセプト」というのも誰かに伝える際には重視すべきポイントです。「無料ゲームがたくさんある」、「体脂肪が気になる方に」といったコンセプトが明確な商品やサービスはクチコミしやすいですよね。

そしてネーミングもますます重要になっています。メールやブログに書いたり、検索する時に忘れないことを考えれば、短く覚えやすいのはもちろんのこと、さらには検索結果などでノイズの少ないネーミングを考えなければなりません。
芸人のオリエンタルラジオは検索しても1件もヒットしない造語を狙ってつけたそうですが(そうすれば知名度と検索結果が比例することになる)、これからのマーケティングではそのくらい徹底しなければなりません。

彼/彼女のフォローをし続ける

最後は商売の原点とも言える話で、「売ったら終わりじゃなく、そこがスタート」であるのを忘れないことです。これがいちばん大事なポイントです。

消費者との関係作りは買っていただいてからが本番です。ましてや消費者がソーシャル化して、その向こう側に情報が波及していくことを考えれば、いままで以上に重視すべきですし、継続的な情報提供がいかに重要かがわかっていただけると思います。

そもそも長期的で持続的な関係作りは地道な作業の繰り返しです。
たとえばブログで感想を書いてくれた方にお礼のコメントを残したり、ひとり一人の顧客と真正面から向き合って、「ちゃんと読んで(聞いて)、ちゃんと応える」ことをやり続ける覚悟が必要です。
あるいは利用者の感想を踏まえて、FAQを更新していくということもいいでしょう。消費者が声を発することで企業側が変わっていく、自分の声が活かされることを行動で示すのです。

企業と消費者だけじゃなく、利用者同士の繋がりをより強固にすることも有効です。なにもイベントを開催しなくてもいいのです(開催できるならしたほうがもっといいです)。オンラインコミュニティを運営することで全国の利用者を繋げることだってできます。もちろん場の提供にとどまらず、企業もそこに参加しましょう。
彼らから寄せられる商品の使い方や改善案をボトムアップで取り入れましょう。その商品やサービスを使い続けてくださっている利用者の声には必ずヒントが隠れています。

企業が消費者と一緒になって商品作りをしている代表例として、無印良品の「モノづくりコミュニティー」があります。この会員制サイトではユーザーのアンケートや試作品のモニターを募り、新しい、でも本当に必要とされる商品を共同開発しています。もちろん良ければ製品化して店舗でも販売されます。

もうひとつは「ほぼ日手帳」です。毎年利用者の声を反映して改良していることもすごいのですが、なによりも販売ページにネガティブ情報も隠さず掲載しているところが素晴らしいです。


消費者の満足や不満は事前期待とのギャップで生まれます。それを考えればネガティブな情報も事前に提示したほうが結果的に満足度は上がりますし、クレームも減るのです。

知りたいのはホントノコト

インターネット化が進み、消費者同士が繋がり、ソーシャル化が進むと企業がつくウソはすべてバレます。あなたが考えるよりもずっと簡単にバレるのです。
広告で語られることがウソとは思ってないものの、それがいい面だけを取り上げていて、マイナスの面を覆い隠していることをすでに消費者は気付いています。

利用者や購入者が正直な感想をインターネットで公開し、それが簡単に共有されるのです。「使ってみなけりゃわからない欠点」は使う前、購入する前に周知の事実となっています。

ソーシャル化する消費者と付き合うために、企業が自覚するべきは、たったひとつのことです。

いまの消費者が知りたいのは、イイコトでもワルイコトでもなく、ホントノコト。

これを忘れずに誠実で公平に付き合うことを心がけてください。ソーシャル化の波に逆らわず、この波を味方につけて消費者との長い付き合いを実現しましょう。

河野

当メディア編集長。コミュニケーション・デザイナー。企画屋。1997年、ニフティ入社。2001年にニフティ退職後、フリーターとして数年過ごし、2004年から2005年までオンライン書店ビーケーワンの専務取締役兼COOを務める。ECサイト初となるトラックバックを導入し、また「入荷お知らせメール」などを考案した。また、はてな社との協業による商品の人力検索サービス等をプロデュース。2005年から2007年までシックス・アパート株式会社のマーケティング担当執行役員を務める。2007年から2010年までブックオフオンライン株式会社取締役を務め、サービスの立ち上げ全般のサポートに加え、「オトナ買い」や「デマチメール」などの独自機能を考案した。その後、フリーランスに。2014年から株式会社クラシコムに勤務。現在に至る。「アクティブサポート」や「最愛戦略」の提唱者。個人として「攻城団」と「まんがseek」を企画運営。個人のサイトはsmashmedia

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