花火と花畑

今回のテーマはこれ。

一瞬の花火もきれいなんだけど、毎年咲く花畑もきれいだよね。素人が花火上げるのは危険だから専門家に頼まなくちゃいけないけど、花畑ならぼくらでも作れる。地道にがんばりさえすれば。Mon Oct 11 03:45:51 via Echofon

ご想像の通り、ここでの「花火」はテレビCMなどの広告であり、「花畑」はCRMや自社メディア運営などの企業自身が手がけるマーケティング活動を指しています。

花火を上げないと人は来ないのか

厳しい現実として、よほどの有名企業(つまり過去のブランド資産がある企業)でない限り、新商品や新サービスを出したところで見向きもされません。気付いてもらうためにはなんらかのマーケティング施策が必要になりますし、現状その中心は(そして今後も)広告となるでしょう。

「注目を買う」という商取引がある意味「広告」のひとつの真実で、規模はともかく花火を上げることは施策として正しいことです。テレビCMしかり、ソーシャルメディア上のキャンペーンしかり、ある程度の規模で集客のための花火を上げなければ始まりません。

ただし花火は一過性のものであることを意識して設計しなければ、瞬間的に人はたくさん来るかもしれませんが、売上に繋がることも、またそれが持続することもないでしょう。
まさにコミュニケーションデザインの領域ですが、誰を連れてきて、何を見せる(伝える)のかをしっかりと準備しておかなければお金の無駄遣いになります。

広告業界は二元論で語りたがる人が多いので、やれ「マス広告は終わった」という声や、反対に「ネット広告では届く規模が小さすぎる」といった声をよく聞きます。しかしそれを語っている人の所属企業を見れば、だいたいは自社のビジネスに有利なポジショントークに過ぎません。

別のメディア、別のメニューなのですからちがうのは当然です。そもそもマス広告というのもひとくくりにできませんよね。テレビもラジオもちがいますし、新聞や雑誌も別物です。
ネット広告も同じです。Yahoo!のトップページは規模だけなら十分にマス広告並みですし、地方誌やマイナーな雑誌を上回る規模のネットメディアはたくさんあります。
大事なことは全部を候補として見ることです。届けられる層のちがい、コストや表現力のちがいを踏まえた上で、それぞれの効果を考えて選べばいいだけですよね。

なお新商品の場合は顧客になりうる人たちが自分たちのイメージとあっているかを確認する必要があるため、小さな広告をいくつか出稿することをオススメします。よくあるのが発売と同時に大量出稿するパターンですが、あれは非常にリスクが高いです。

あらかじめ広告予算を確保していると思いますが、最初に使い切るのではなく数ヶ月かけて実験をして、効果の高そうなところに集中させるようにしましょう。当然クリエイティブやメッセージの修正も行なう必要があります。
マーケットインの考え方はなにも製品開発のプロセスだけではありません。むしろその後の認知拡大・販売促進という市場との対話フェーズにおいても重要です。

どこで花火を上げるかは大きな賭けです。リスクを最小化するために、各メニューの特性を理解し、実験をしつつ選定しましょう。

花火大会と花畑の開放、どちらが長期的な収益に貢献するのか

新規顧客を獲得するために、花火は必要です。しかし花火はかなりの費用がかかります。収益性を考えれば広告費の比率をどこまで下げられるかがポイントになってくるので、毎月のように花火を上げ続けるのはかなり難しいです。
そもそも予算の範囲内でしか権限が与えられていないマーケティング担当者にしてみれば、その予算で効果を最大化するのが自らの仕事ですしね。

そこで花畑を作ることも検討しましょう。
花火の場合はお金だけ出せば業者や職人がすべてやってくれますが、花畑の場合は自分たちで汗をかく必要があります。土を耕し、種をまき、毎日水をあげて育てなければ花は咲きませんし、咲いた後も世話をしなければすぐに枯れてしまいます。しかしその効果は毎年持続します。

ソーシャルメディアマーケティングなどはその代表例ですが、企業が自分たちでコミュニケーションの場を作り、そこで信頼関係を築いていく(育てていく)ほうが、結果的にコストが安くなることは多々あります。

たとえばちょっと極端な例になりますが、社運をかけてテレビCMに1億円使うよりも、毎月100万の予算をかけて100ヶ月間ブログを続けるほうがトータルの集客数が多くなることもあるのです。ここでのブログは一例で、自分たちで運営可能なメディアと考えてください。
(またじっさいにはテレビCMに数千万、残りの予算で自社メディア運営をオススメします)

広告費の再配分

これは「広告費の再配分」と考えると良いと思います。
テレビCMから折り込みチラシ、さらにYahoo!のブランドパネル(トップページの広告枠)からリスティング広告まで、広告メニューをフラットに考えたように、自社メディアの運営もその選択肢に加えて考えましょう。
もちろん広告と比べると効果が現われるのが遅くなるので、検証は数ヶ月単位で行なわなければなりません。

ネーミングライツのようなものもすぐに効果が出ませんが、中長期的にブランド認知度を高めることに繋がる可能性があります。

広告出稿は社内の人件費をほとんど使いませんし、多くのキャンペーン施策も同様です。広告代理店やPR会社に丸投げしてしまえば、あとは彼らがやってくれます。
このように間接費にしてしまうことでコストコントロールがしやすくなるのは事実ですが、ここでの問題はノウハウが社内に蓄積されないことです。とくに顧客とのコミュニケーション領域において、そのノウハウが社内にないのは致命的です。しかしそれが珍しい話じゃないのがいまの現状です。

少しずつでも自分たちに取り戻していきませんか。消費者と繋がる、顧客と繋がるいちばん大事な部分を他人任せにしていいはずがありません。プロに協力してもらうことを否定はしません。ただしそれはプロがプロフェッショナルとして、あなたの企業の成功にコミットしてくれた場合においてのみです。
発注した段階で売上が立ったと安心している連中があなたの会社の成功をどこまで考えてくれていると思いますか。

顧客獲得、販売促進、プロのノウハウを借りたほうがいいケースはたくさんあります。花火の話だけじゃなく、花畑を作る上でも造園の経験がある人に教えを請うことはスピードアップの面でも、成功率の面でも有益です。
ただしそれは相手があなたの会社の一員として動くだけの決意と覚悟を持った場合に限った話であることを忘れてはなりません。

大事な予算です。それをどう使うかを考えるのは代理店の営業ではなく、あなたです。
これまでのやり方を改め、花火一辺倒だった予算の仕分けをして、再配分を考える時期にきているのではないでしょうか。

そして経営者のみなさんには、マーケティング予算を一元管理する体制にすることをオススメします。もはや広告や広報の枠組みは消滅してきています。宣伝も販促も、すべてがフラットかつボーダレスになってきているので、その全体最適を実行できる組織にしてください。

考えようによっては、企業の創意工夫でいくらでも逆転可能ないい時代になってきていると思いますよ。

河野

当メディア編集長。コミュニケーション・デザイナー。企画屋。1997年、ニフティ入社。2001年にニフティ退職後、フリーターとして数年過ごし、2004年から2005年までオンライン書店ビーケーワンの専務取締役兼COOを務める。ECサイト初となるトラックバックを導入し、また「入荷お知らせメール」などを考案した。また、はてな社との協業による商品の人力検索サービス等をプロデュース。2005年から2007年までシックス・アパート株式会社のマーケティング担当執行役員を務める。2007年から2010年までブックオフオンライン株式会社取締役を務め、サービスの立ち上げ全般のサポートに加え、「オトナ買い」や「デマチメール」などの独自機能を考案した。その後、フリーランスに。2014年から株式会社クラシコムに勤務。現在に至る。「アクティブサポート」や「最愛戦略」の提唱者。個人として「攻城団」と「まんがseek」を企画運営。個人のサイトはsmashmedia

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