マーケティングの設計は顧客目線で帰納的に考える

昨日紹介した「ACPUR」の話を出すまでもなく、マーケティングにおいて「知ってもらうこと(認知)」は最初にして最大の課題です。

ただし「知らしめること」そのものが目的ではなく、店舗に来ていただく、そして商品を買っていただくことが目的である以上、知ってもらうことは取っかかりにすぎません。
また、だからこそ「誰に知ってもらうか」を考えなければコストの無駄遣いになってしまいます。

届けたい相手目線で考える

よくあるたとえ話ですが、コンタクトレンズのチラシを配布する際に、誰でもかまわず配るのと、メガネをかけた人だけに配るのとではその成功率に差が出るのは当然です。
本当に必要とする人はどこにいるのか、何をもって彼らを見分けられるのか、どうすれば情報を届けられるのか――、顧客になり得る人を具体的にイメージして、逆算して(帰納的に)メディアプランニングコミュニケーションデザインをしなければなりません。

そこで今日のひと言はこれです。

ソーシャルメディアありき、ツイッターありきで考えるのではなく、届けたい相手目線で考える。大事なのはどこに行けば対話ができるのかを考え抜くことであり、その観点では実店舗を出すことも、イベントを開催することも同じだということを理解しておかなければならない。手段を選ぶのは最後。Fri Jul 02 09:18:28 via CoTweet

昨今、ブログ・SNS・セカンドライフ・ツイッターと特定のサービスやプラットフォームを使うことを前提にした「○○マーケティング」、またそれらの総称としての「ソーシャルメディアマーケティング」という言葉が氾濫していますが、本来このようなツールありきのマーケティングを語ることは無意味なはずです。「新聞マーケティング」や「FAXマーケティング」なんて言いませんからね。

あくまでも最終的な手段として、ツイッターが選ばれるならいいのですが、どうもそうじゃないケースのほうが多そうです。
テレビを見ない人、新聞を読まない人、それがあなたがアプローチしたい人で、彼らにもっとも効率的かつ効果的に情報を届けられるのがツイッターであるならば、あるいは既存顧客の大半(それもロイヤルカスタマーと呼ばれる優良顧客)がツイッターを使っているのであれば、迷うことなくコミュニケーション・チャネルとして選ぶべきです。
しかし本当にそうなっているでしょうか?

本当にツイッターでなければならないのか?

ここでソーシャルメディアマーケティングの代名詞とも言える、ツイッターを例にもう少し考えてみましょう。

さまざまな企業がツイッターのアカウントを取得し、マーケティングへの活用を試みていますが、はたしてそれはツイッターでなければならなかったのでしょうか。
ぼくが知る限り、多くの企業では代理店が提案するままにツイッターをマーケティングに利用してますし、また同じくらい多くの企業では自ら代理店にツイッターを絡めた提案を要求しているそうです。
いずれの場合もツイッターなら提案が通る(社内の稟議を通しやすい)というだけで、予算消化が念頭にあっても、マーケティングの成功が念頭にあるとは思えません。

そうした企業はほぼまちがいなくツイッターというツールを活用しきれていません。目的も必然性もないのですから当然でしょう。RSSを自動で流し込んでみたり、あるいはときどき思い出したように「会議なう」などとツイートしてみたりするのが関の山です。

積極的に活用しているという企業もいるでしょう。毎日何十回とツイートしたり、頻繁にユーザーとリプライをして「キズナ」や「エンゲージメント」を築いていると主張される企業もいるかもしれません。
しかしツイッターユーザーと仲良くなることにどれほどの意味があるのでしょうか。彼らは自社の製品を買ってくれるのでしょうか。それは誰彼かまわずコンタクトレンズのチラシを配ってるのと同じではありませんか?

コミュニケーションはあくまでも手段であって、目的ではないはずです。ビジネスである以上、コミュニケーションが目的になることはないのです。

日本中のすべての人と深いコミュニケーションを実現したいと言うのは簡単です。しかし人にも予算にも時間にも制限がある以上、選択は必要ですし、優先順位をつける必要もあります。
ツイッターユーザーと仲良くなることが自社のビジネスにおいて、それほど大事なことなのでしょうか。

実験は実験として、意志を持ってやるべき

もちろん実験的にやるのはいいことだと思います。ぼく自身、新しいメディアやサービスが出てくるたびに実験を繰り返してきました。ツールの特性を知ること自体は悪いことではありません。

なぜなら存在を知ってるだけではいざというときに活用できないからです。
いつ、どんなときに使えるのかはじっさいに使ってみて、その本質を理解することが必須ですし、そうして初めて手持ちのカードとして使える状態になるのです。
(そういう意味ではセミナーに出てわかったつもりになってる人たちよりも、よっぽどちゃんとしてるのですが、だからこそもったいないんですよね)

ぼくがいつも意識しているのは「そこにどんな人がいるか」を理解するということです。実験の目的の大半はこれに尽きます。これさえ理解できれば実験としては十分です。

もちろんサービス固有の特性、ツイッターであればリツイート(RT)による情報の拡散などを体験を通じて理解することも大事ですが、そこにいるユーザーが自社の顧客になり得る人でなければ、特性なんてどうでもいいのです。

かつてはサービスの勢いを気にしたこともありました。その時々で流行しているサービスを使えば、メディアに取材される確率は飛躍的に上がります。ブログやツイッターが出てきたときはそれを使うだけで記事になったものです。ぼくもそれを狙って企画を考え、プレスリリースを配信したこともありましたし、目論見通り取材を受けたこともあります。
しかし経済系の新聞やビジネス誌に紹介されたところで、ビジネス的にはなにも貢献しません。せいぜいベンチャーキャピタルや代理店から電話がかかってくるだけです。それを思えば、早く始めることがそれほどの優位性を持っているとも思えません。小さく実験していれば十分です。
タイミングを重視することとスピードを重視することは別物です。使うべきタイミングを見極めることが大事です。

実験は個人でもできます。なにも最初から企業の公式アカウントを取得する必要はありません。目的はユーザー層の把握なのですから、自分で使ってみて、どんな人たちがそこにいるのかを見ればいいのです。企業として参入するのはそれからでも遅くありません。

そのメディアを見る人、そのサービスを使う人を理解せずに、マーケティングの手段として選択できるはずがないのです。
ひとつ一つをきちんと把握して、手持ちのカードを増やしていきましょう。

迷ったら、いまの顧客を見る

「手段を選ぶのは最後」と書いたように、手持ちのカードからどれを使うかを選ぶのは最後です。

またその際にどれを選べばいいかに迷ったら、いまの顧客を知ることです。

いまの顧客は新聞を読んでいますか? 読んでるとすればそれはどの新聞ですか? どんな雑誌を読んでますか? パソコンは持っていますか? ケータイは使っていますか? どんなサイトを見て、どんなサービスを利用しているのでしょうか。よく見るテレビ、よく行く場所、よく利用する交通手段など、彼らの生活を知ることです。

どんな商品でも発売して最初の顧客は「たまたま知って」購入することが大半です。認知度もありませんし、クチコミもないのですから当然ですね。
しかしマーケティングの精度を高めるには偶然性を下げ、必然性を高めなければなりません。手当たり次第で告知手段を選んでいては、いつまで経っても偶然性に頼ったマーケティングから脱することができません。

いまの顧客に似た人はどこにいるのでしょうか。彼らと同じ趣味の人たちにはどうすればアプローチできるのでしょうか。
知ってもらう人が具体的にイメージできて、そこに伝わる手段(カード)を選ぶのが、もっとも成功率が高いやり方です。

マーケティングにおいて認知は重要ですし、お金もかかります。だからこそ必然性を高めるために、顧客目線で帰納的に考えなければならないということがわかっていただけたかと思います。
手段ありき、ツールありきのマーケティングはいますぐやめましょう。

河野

当メディア編集長。コミュニケーション・デザイナー。企画屋。1997年、ニフティ入社。2001年にニフティ退職後、フリーターとして数年過ごし、2004年から2005年までオンライン書店ビーケーワンの専務取締役兼COOを務める。ECサイト初となるトラックバックを導入し、また「入荷お知らせメール」などを考案した。また、はてな社との協業による商品の人力検索サービス等をプロデュース。2005年から2007年までシックス・アパート株式会社のマーケティング担当執行役員を務める。2007年から2010年までブックオフオンライン株式会社取締役を務め、サービスの立ち上げ全般のサポートに加え、「オトナ買い」や「デマチメール」などの独自機能を考案した。その後、フリーランスに。2014年から株式会社クラシコムに勤務。現在に至る。「アクティブサポート」や「最愛戦略」の提唱者。個人として「攻城団」と「まんがseek」を企画運営。個人のサイトはsmashmedia

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