ペイパーポスト問題からマーケティングを考える

今回は(議論はまだ尽くされてないのだけど)ようやく問題がはっきりしてきた一連のペイパーポストの件について、整理します。

今回の問題

まず「ペイパーポストは今のところ違法ではない」ということを最初に言っておきます。ペイパーポストの問題は「違法じゃないけど倫理的に問題があるのでは」という点に集約されています。
また、消費者を欺くという点では、昨年末のマクドナルドとトレンダーズが実施したサクラのほうがよほど罪深いように思いますが、これもなかなか法では裁けないグレーゾーンなんですよね(どげんかせんといかん)。

Googleは今回、自社のガイドラインを自ら違反したということで公式ブログにお詫び文を掲載し、Google.co.jpのページランクを引き下げました。
その理由として「今回問題となった google.co.jp への有料リンクは、ブロガー達に対価を払うことにより紹介記事を書いてもらういわゆる Pay Per Post ネットワークからのものでした」としています。
繰り返しになりますが、(今回のプロモーションを担当した)サイバー・バズ社が違法なことをやったわけではない点は押さえておきたいところです。

余談ですが、Googleの日本法人はこれまでもiGoogleなどのプロモーション活動にペイパーポストを実施しています。
だから担当者も今回のような騒動になるとは思ってなかったのかもしれません。今回はたまたま米国法人まで届いたために謝罪することになったわけですが、そうでなければ今後も繰り返したでしょうし、逆に言うとブログやTwitterによって問題を露見させることができたというのはすごいことなのだと思います。

CyberBuzzはペイパーポストなのか

ということで違法ではないものの、Googleのガイドラインには違反しており、Googleの定義によればサイバー・バズ社が提供している「CyberBuzz」というサービスはペイパーポストであると公言されたわけですが、一方のサイバー・バズ社は自らのサービスを「ペイパーポストではない」と発表しています。

このあたりから「じゃあペイパーポストってなんなんだ」という議論が起こり始めます。ぼくが主催するメーリングリスト「マーケティングclip ML」でもサイバー・バズ社が発表した2月10日以降に活発な意見交換が始まりました(現在メーリングリストは閉鎖)。

さらにサイバー・バズ社が規約をこっそり書き換えたために問題がより深刻化します。あちこちにキャッシュされてますからバレて当然です。
もっともこれはペイパーポストの議論とはまったく別問題なのですが、公表された事実の隠蔽などできない(ウソがつけない)ネット社会において、それを企業に教育・啓蒙すべきネットに軸足を置く代理店が、自ら「こっそりなかったことにした」という行動を取ったことに非難の声が高まりました。
ちなみに、ぼくはこの件が今回の一連の騒動の中で(ペイパーポストよりも)いちばん罪深いと思っています。

WOMマーケティング協議会設立準備会

サイバー・バズ社の発表では、最後に「弊社はWOMマーケティング協議会設立準備会にも参画しており、今後ともWOMマーケティング市場の健全な発展に向けて鋭意努めてまいります」とあり、たしかに同社の宮崎社長はWOMマーケティング協議会設立準備会の世話人を務めています。

こうしたこともあり、WOMマーケティング協議会設立準備会に対してコメントを求める声が増えていきます。
WOMマーケティング協議会設立準備会は「市場の健全な育成と情報共有、啓発を目的とする業界団体の設立を目指して発足」したと謳っており、組織としてコメントを発表してほしいとぼくも思ったのですが、世話人の方々によれば「協議会はまだ設立されてないので代表者がいない」と明確なコメントはありませんでした。

そもそも「CyberBuzz」というサービスは(サイバー・バズ社は否定したけど)ペイパーポストなのかどうか、そのあたりの見解についても「ペイパーポストの定義は曖昧で難しい」と奥歯に物が挟まったような物言いばかりでした。
ただ「個人的」と前置きをしながらも、多くの世話人の方々が自らの意見を表明されたことは素晴らしいと思っています。

ペイパーポストの定義

ペイパーポストの定義は簡単です。そのまま「記事の投稿に対して、報酬を払う」ことがペイパーポストなのです。それだけ。
そこにクライアント名の開示がどうとか、関係ないのです。クライアント名を開示することが大事じゃないということではなく、それはペイパーポストの定義には関係ないし、そもそも開示しないことはステルスマーケティングなので、倫理面から批判の対象になります。

またペイパーポストを「雑誌の記事広告と同じ」と説明する方が多いのですが、これは正しくありません。雑誌の記事広告では発売前に(つまり、その内容が世間に公開される前に)広告主による事前確認があります。
広告である以上、広告主はお金を払う対価として「掲載枠の保証」と「メッセージのコントロール」を手にすることができます。自分が掲載したいところに、自分が把握している内容を表示することが、広告たり得る条件なのです。

(予想される反論に備えて)少しだけ補足をすると、たとえばテレビCMには「スポット」と「タイム」があり、いわゆる番組スポンサー枠であるタイムCMではない、スポットCMのほうは広告費を安くする代わりに空き枠に流すという契約ができるので、掲載枠が必ずしも指定できるわけではないのですが、それでもCMそのものは自分たちで納品したものであり、「何が流れるかわからない」ということはあり得ません。

雑誌の記事広告に限らず、広告である以上はそこに掲載される情報を広告主が事後確認するというのはあり得ないのですが、この手の知識をよく知らない方が多いのも、混乱を招く原因になっているような気がします。薬事法についても無理解な代理店が多いですしね。
外野の戯れ言ですが、WOMマーケティング協議会設立準備会はもっと旧来のメディアや広告代理店の関係者を招き入れて、最低限の約束事について学ぶべきだと思います。

広告と広報の混在化

じつはペイパーポストの問題については2007年頃から指摘されてました。米国ではブログメディア『TechCrunch』で度々取り上げられ、日本でもぼくがWOM勉強会(http://womma.jp/)という勉強会を主催して、いかに害があるものかを訴えてきました。

その問題点は『TechCrunch』のMichael Arringtonが語る、

われわれの「金目当てで書かせるためのサービス」問題に関する態度は明白だ。これはブロゴスフィアのサイズと影響力の増大にともなって必然的に起きる現象ではあるが、ブログのエコシステム全体の信頼性を傷つけるものであり、読者を欺く行為である。
PayPerPost ウィルス拡散中

がすべてを言い尽くしています。ぼくのスタンスもまったく同じです。いまから2年前になりますが、セミナーでも話しています。

当時から2年経ち、ぼくらの周りにはますますネットが普及しています。
人々が繋がり、情報がアーカイブされ、一つひとつのコンテンツが時間や場所を簡単に越えて広がる世界では、企業のマーケティングのカタチも変わってきています。

たとえば、ぼくはここ数年のインターネットの一般化と日常化によって、企業の「広告」と「広報」の区分が難しくなってきていると感じています。
さきほどの「記事広告と同じじゃない」という点もそうですが、広告でも広報でもない、微妙な位置づけの関係性(情報伝達チャネル)が生まれてきていて、そういう意味では、ペイパーポストは「ネット時代の不幸な産物」と言えなくもありません。

掲載内容がコントロールできないという点では、明らかにペイパーポストは「広報」寄りの位置づけのサービスなのですが、掲載本数を保証し、それを商品(サービス)として販売しているのは「広告」代理店です。
実際、サイバー・バズ社の事業内容も「広告代理事業/クチコミメディア事業」となっています。

このあたりにも混乱の原因が潜んでいます。広報的なサービスを広告的に味付けをして、広告代理店が販売する、またそれにお金を払っている企業も、広報部ではなくて宣伝部が契約していて、こうした土地勘のなさが不幸な産物であるペイパーポストを、より不幸にしているのかもしれません。

ペイパーポストだけが悪なのか

では、ペイパーポストだけが悪なのか。ぼくはそうではないと思っています。
ペイパーポストの問題の本質は「消費者を欺くこと」であり、報酬が金銭であろうがなかろうが関係ありません。

また、多くのケースではペイパーポストだけが単独で行なわれてなくて、ブロガーイベントやサンプル貸与(モニター)や物品提供(プレゼント)などが組み合わせて実施されるので、ペイパーポストだけをやり玉に挙げるのは違うと思っています。

ここできちんと本質論をしておかないと「掲載料はダメだけど、交通費の名目ならオッケー」とか「現金はダメだけど、物品提供はオッケー」とか、上っ面のチェックシートで是非を判断する人が増えてしまうので危険です。

ところで、個人的にはまったく賛同できないのですが、ペイパーポストは悪ではないという意見もあります。

一部のブロガーは「きっかけがペイパーポストであれ、良質な記事(コンテンツ)が生まれることもある」のでペイパーポストには価値があり、(Googleは悪と言ってるけど)悪ではないと主張しています。たしかにそれは確率論的にはあり得ることだし、Googleのガイドラインがすべてではないので、独自判断をすることはいいことです。
だけど同時にその何百倍、何万倍ものゴミが生み出されていることも事実で、「なんか書いたら500円もらえるみたい」という軽薄な人が多数登録している、いまのペイパーポストの現状を考えると、良記事が量産されることは期待できません。それに、ただのきっかけに過ぎないのであれば、わざわざペイパーポストのようなリスクの高い手段を採る必要もないわけですよね。

この意見に限らず、よくある「提灯記事にダマされるほうが悪い」という意見にしてもそうなのだけど、この手の書き手や読み手に高いリテラシーを要求するのは良くないことです。10年前ならともかく、いまのネットには世界中の「普通の」人たちが参加しているので、ネットのベテランユーザーが自分たちの基準でルール作り、ガイドライン作りをするのは避けるべきです。

誰のためのマーケティングか

ぼくも営業を受けたことがあるのですが、これまでペイパーポストを扱っている代理店は「SEOに効果がある」と売り込んでいました。さすがに今後はそのセールストークは使えないわけですが、実際Googleが有料リンク(ペイドリンク)に対して厳しい措置を執ることは、2007年末にはわかっていたことです。

それにも関わらず今回の騒動に至るまで黙殺してきたわけです。
クライアントへのリスクを説明するどころか、適当にごまかして売ってきた彼らのビジネスのあり方こそ倫理観が問われるべきです。

ブログが普及し、検索結果を経由しての閲覧も含めれば、相当数のネットユーザーがブログを目にするようになったいま、ブロガーと繋がりたいという企業側の気持ちはよくわかります。でもお金ではクチコミは買えないし、そんなものを営業してくる代理店とは付き合うべきではありません。

痛い目を見るのは彼らではなく、クライアントであるあなたの会社なのです。
大事に育ててきたブランドが傷つくのはあなたの会社です。周囲から倫理が問われるのもあなたの会社です。

今回のペイパーポストの問題で、結果的にそれを取り扱う代理店のモラルの低さが露見したことはいいことだと思います。
こっそり規約を書き換えちゃう会社や、社長自らステルスマーケティングをやってる会社など、危険な会社がいくつかはっきりしました。もっともまだまだ氷山の一角に過ぎませんけど。
この手の代理店とは付き合わないことをオススメします。

マーケティングはあなたの会社が、あなたの顧客と、繋がり続けるための大事な手段であり考え方です。
「わからないから代理店に任せる」ではなく、わからないなら「わかるまで手を出さない」くらいの気持ちでいてください。そしてわかるための努力をしましょう。

少し検索すればそのへんの代理店よりもよほど詳しいブロガーがいます。彼らはセミナーを開いたりはしないけど、情報を常に追いかけて、クリップし、コメントしています。連絡先が公開されていれば、直接質問するのもいいでしょう。真剣に相談すれば、彼らはきっとチカラになってくれます。

MarkeZineにあるすべての記事が参考になるかはわかりませんが、ぼくももうちょっとがんばって、みなさんの役に立つ記事を書こうと思います。

この原稿はMarkeZineの記事として2009/3/3に掲載されました。

[追記]
本記事で取り上げた、WOMマーケティング協議会設立準備会とぼくは無関係ですし、いまのところ今後も関わるつもりはありません。

また今回の騒動については、以下に経緯を整理しました。

河野

当メディア編集長。コミュニケーション・デザイナー。企画屋。1997年、ニフティ入社。2001年にニフティ退職後、フリーターとして数年過ごし、2004年から2005年までオンライン書店ビーケーワンの専務取締役兼COOを務める。ECサイト初となるトラックバックを導入し、また「入荷お知らせメール」などを考案した。また、はてな社との協業による商品の人力検索サービス等をプロデュース。2005年から2007年までシックス・アパート株式会社のマーケティング担当執行役員を務める。2007年から2010年までブックオフオンライン株式会社取締役を務め、サービスの立ち上げ全般のサポートに加え、「オトナ買い」や「デマチメール」などの独自機能を考案した。その後、フリーランスに。2014年から株式会社クラシコムに勤務。現在に至る。「アクティブサポート」や「最愛戦略」の提唱者。個人として「攻城団」と「まんがseek」を企画運営。個人のサイトはsmashmedia

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