ソーシャルメディアマーケティングのトリセツ「フォーラム編」

「ソーシャルメディアマーケティングのトリセツ」も今回で最終回です。
最後はフォーラムや電子掲示板(BBS)です。

フォーラムとはなにか

フォーラム(Forum)は掲示板とほぼ同じです。いくつかの掲示板が集まったものをフォーラムと呼ぶことが多いですね。

もともとは古代ローマの集会場や公共広場の呼称を表わす言葉ですが、いまではインターネットコミュニティの名称としても使われています。
日本ではNIFTY-Serveが「フォーラム」という電子掲示板サービスを提供していたので、パソコン通信時代から利用されてる方なら馴染みのある言葉かもしれません。

フォーラムや掲示板はパソコン通信時代――つまり1990年代――からあったようにインターネットの初期からありました。
インターネット上のサービスの多くはコミュニティを志向したものが多いのですが、フォーラムはとりわけその傾向が強く、用途としては情報交換や問題解決などを目的とした「情報交換型コミュニティ」と趣味の会話を楽しむ「社交型コミュニティ」があります。
多くのユーザーが集って、情報や意見を交換する掲示板的なスペースがフォーラムです。

2chもフォーラムのひとつですし、「教えて!goo」などの質問コミュニティもフォーラムと考えられます。

http://2ch.net

http://oshiete.goo.ne.jp/

余談ですが、メーリングリストなどもこうしたコミュニティのひとつと考えることができますね。

なお、今回の記事ではユーザーが企業に改善要望を伝える「アイデア投稿サイト」もフォーラムに含んでいます。

フォーラムとマーケティング

ソーシャルメディアマーケティングについて語られる場合、とくに最近ではツイッターやFacebookといったサービスばかりが取り上げられますが、ぼくはフォーラムのようなシンプルなサービス、言うなれば「枯れたサービス」を企業はもっと有効活用すべきだと考えています。

またブログはコミュニティの形態としてはフォーラムに非常に近いですが、いちばんのちがいはブログの場合は読者はコメントしか許されていないことに対して、フォーラムは誰でもトピックを作れることです。
そのため人が集まれば多様なテーマのトピックが投稿され、さまざまなレベルの情報交換が期待できます。

一時期、企業運営のSNSがもてはやされたことがありましたが、ぼくはSNSの運営はユーザー側の登録ハードルが高すぎるので難しいと思います。
機能は絞られますが、もっと簡単に登録できるシンプルなフォーラムで十分です。

フォーラムの活用例

企業がフォーラムをマーケティングに利用する場合、特定テーマのコミュニティを形成して集客(と販促)を目的とするケースと、サポートやアイデア募集などユーザーとの対話を目的とするケースがあります。

集客目的のフォーラム

たとえばAmazonには商品ごとにフォーラムが用意されていて、自由に会話できるようになっています。

http://www.amazon.co.jp/gp/forum/cd/forum.html/ref=cm_cd_dp_ef_sap?cdForum=Fx3L5QFDR09TGD1

ECサイトがこうしたフォーラムを運営する目的は集客に貢献できるからです。またその集客もここでの会話を楽しみにしたリピーターよりも、ページ数を増やすことによるSEOを目的としたケースが多いです。
じっさいAmazonのフォーラムも会話の大半は誹謗中傷ともとれるものが多いのですが、それをあえて消さないのは商品ページへの導線を増やすためだと思います。
もう少ししっかり運営したほうがいいと思うんですけどね。

オンラインゲームにもフォーラムが設置されることが多いです。

http://www.gamecity.ne.jp/nol/nbol_jp_bbs/BBSMain.do

この目的は一緒にゲームをプレイする仲間を作りやすくすることで解約率を下げるためです。
オンラインゲームの場合はひとりでやるよりも多人数で遊んだほうがおもしろいですし、上級者に助けてもらったほうが導入が楽ですから、こうしたコミュニティによって「難しいからやめる」人を減らすことができます。またこうしてバーチャルの人間関係ができてしまえば自分だけ解約することに心理的抵抗が生まれるため、ユーザーの滞在期間が延びる(=LTVが高くなる)ことが期待できます。
この手のフォーラムは常連が幅をきかせる状況になりやすいため、初心者を受け入れるような適切な運営が必要でしょうね。

ほかにも特定のテーマのフォーラムを運営することで、自社の商品を受け入れてもらいやすくなるケースがあります。
『グランズウェル』で紹介されていたP&G社の「BeingGirl」などがそうです。

http://www.beinggirl.com/

生理用品は広告などの一般的なマーケティングでは売りにくい商品です。そこでP&Gは少女が自分たちの身近な話ができるフォーラムを設置し、彼女たちの会話に参加できる環境として2001年に作ったのがこのフォーラムです。
じっさいにこのコミュニティを通じて無料サンプルを配布したり、ブランドメッセージを伝えたりすることができるようになったそうです。

日本でも2007年からやっているのですが、どのくらいの効果があるのかはわかりません。

http://www.beinggirl.jp/vip/girltalk.php

いくつかフォーラムをのぞいた感じではそれほど盛り上がってはいないようです。デザインが世界共通なので、もう少し日本向けにローカライズすればいいんでしょうけどね。

「BeingGirl」は非常に先進的な例ですが、ぼくはこうした自社のビジネス領域に隣接したテーマのメディアやコミュニティを企業自ら運営することは有効だと考えています。

こうした企業によるメディア運営については過去に書いた記事がありますので、紹介しておきます。

ユーザーとの対話目的のフォーラム

まずはサポート目的のものから見てみましょう。
Googleでは問題解決用のフォーラムをサービスごとに提供しています。

http://www.google.com/support/forum

こうしたフォーラムを設置することでユーザーが過去のやり取りを見て自分で問題を解決できたり、ユーザー同士で助け合うことが期待できます。
おそらくこれだけの規模で実現できていれば、フォーラムを運営するコスト以上にサポートに関するコストが節約できているはずです。

じっさいコールセンターに寄せられる問い合わせはパスワード再発行や商品の配達状況など個人にひも付く一部の問い合わせを除けば、かなりの部分は共通したサービスの使い方などに関するものです。現在もFAQ(よくある質問)のページにまとめている企業も多いと思いますが、より広範囲をカバーするためにもフォーラムの設置は有効でしょう。

またアイデア投稿サイトとしては、デル(Dell)の「Ideastorm」やスターバックス(Starbucks)の「MyStarbucksIdea」が有名です。

http://www.ideastorm.com/

http://mystarbucksidea.force.com/ideaHome

これらは製品に対するユーザーからの要望を自由に投稿することができるフォーラムです。
投稿されたアイデアには他のユーザーが賛成の投票することができ、また企業側がそのアイデアの採用可否を伝えたりします。

日本でもサイボウズLiveには「IDEABOX」というフォーラムが用意されています。


(ログインが必要です)

ユーザー専用のフォーラムなのですが、機能要望に関する提案に対してコメントを残したり賛同する場合に投票できたりといった基本機能はもちろんのこと、運営者からのコメントは区別されて見やすくなっています。このシステムをASPで提供すればいいのにと思うくらいよくできています。

こうしたフォーラムを提供することによって企業はより多くのユーザーの声を集めることができます。とくに製品やサービスの改善の場合、広く市場調査をするよりも、現在のユーザーの声に耳を傾けたほうがはるかに有益な意見が聞けるわけで、じつに理にかなったサービスです。

フォーラムのトリセツ

企業がフォーラムをマーケティングに導入するメリットは上記の活用例で紹介した通りですが、集客を目的としてメディア化していくのは難易度が高いため(最初はブログから始めることをオススメします)、ここではサポートやアイデア投稿についての注意点についてまとめます。

公開サポート

通常のサポートは電話やメールなど1対1で行なわれますが、フォーラム上でサポートを行なうことで、他のユーザーが同じ質問をする前に問題を解決できるようになります。
検索フォームを用意したり、過去の検索数やアクセス数をもとにFAQ(よくある質問)として優先的に表示するのも有効です。その結果、サポートコストの低減に繋がりますし、ユーザーにとっても問い合わせる前に解決するため時間短縮のメリットがあります。

また「公開サポート」ではユーザー間での解決も期待できます。
相互扶助によるサポートは2chやほかのコミュニティサイトでも行なわれてきたことですが、そうした場を企業が自ら用意することで、他のユーザーが答えてくれる質問は任せつつ、社員にしか答えられない質問を優先的に回答することで問題解決の全体的なスピードアップを図ることもできます。

そしてこのようなコミュニティ内の活動を見ることで、企業に対してロイヤリティの高いユーザーを発見することができます。
たとえ購入額は小さくても、他のユーザーに対して献身的に対応してくれるユーザーは企業にとって大事な顧客です。RFM分析などではけっして見つからない本当の優良顧客を見つけるきっかけになるのです。
当然そうしたユーザーにはテストに参加していただいたり、企画段階から意見を求めるなど、一歩踏み込んだ関係を築いていけばよいでしょう。

さらにこうして情報を共有することで、そのユーザー固有の問題なのかどうかの特定も早くなります。
コールセンター(コンタクトセンター)には日々いろんな不具合に関する情報が寄せられます。サポート担当者はそれが誰にでも起こる問題なのか、固有の問題なのかを切り分けたり、さらにはどのような場合に起こるのかを判断しなければならないのですが、多くのユーザーが集まっていることで情報の提供をお願いしたり、再現性について確認することができます。

「公開サポート」を始めるための準備はそれほど大変ではありませんので、おそらくすぐにでも始められるでしょう。メールで対応しているチームがいれば、新たに習得するスキルもほとんどありません。
唯一、公開された場所での対応になるため、個人情報の扱いに関するルールなどがメールサポートとのちがいですね。

アイデア投稿

サポート同様、これまでも企業はユーザーからのアイデアを募集してきていますし、じっさいにハガキやメール、ときには電話を通じてさまざまな要望が届いています。

募集だけならアンケートフォームの設置もいいでしょう。じっさいブックオフオンラインでは通常のサポートへの問い合わせとは別に、一方的な提案を送ることができるいわゆる目安箱を設置していますが、半年間で2万件を超える声が集まりました。

https://regist11.smp.ne.jp/regist/is?SMPFORM=ofn-latbq-651b190782b21aa1eaa0162e484e578c

しかしぼくは(対応できる余裕と体制があるなら)公開した場で募集したほうがいいと思います。
こうしたやり取りをあえて公開された場で行なうのは「ほかのみんなはどう思うのか?」を明らかにするためです。

製品作りには数多くの取捨選択があり、何かを優先すれば別の何かが犠牲になる、いわゆるトレードオフもたくさんあります。
機能を増やせば重くなることがわかっている場合に、それでも機能を増やすべきなのかという問題はいつも難問です。そんなときはユーザーに聞くのがいちばんです。もちろんコミュニティに参加しているユーザーにどの程度の偏りがあるのかを把握しなければなりませんが、判断材料としてこれ以上に良質なデータはないでしょう。

また思わぬアイデアが寄せられたり、社内では簡単に切り捨てられていたアイデアが意外と支持されることがあったりもするでしょう。
大事なことは製品開発、製品改善プロセスにユーザー自身にかかわってもらうことです。そうすることでより強い愛着が生まれ、顧客満足度を高めることができます。

システムについて

公開サポート、アイデア投稿、いずれのケースでも基本的にはシンプルなシステムで運営できます。

ちなみに「Ideastorm」や「MyStarbucksIdea」は米salesforce.com社の「Salesforce CRM」の機能のひとつ「Salesforce CRM Ideas」を使っているそうです。この機能はオバマ米大統領のサイト「Change.gov」でも利用されていました。日本でも「電子経済産業省アイディアボックス」などで利用された実績があります。

http://www.salesforce.com/jp/crm/products.jsp

フォーラムだけに絞ればもっとシンプルな「UserVoice」というのもあります。もちろん投票もできます。

https://uservoice.com/

あるいはこうしたASP(SaaS)を使わずにオリジナルで構築する場合は「bbPress」などのソフトウェアを改造するのがいいでしょう。

http://bbpress.org/

ECサイトのようにすでに会員情報が登録されている場合は同じアカウントでログインできたほうがいいのでログイン部分を改造しなければなりませんが、必要な機能は掲示板(投稿とコメント)と投票くらいなので新規に開発してもそれほど予算はかからないでしょう。

使用上の注意

企業がフォーラムを運営する場合、そこに参加することはもちろんですが、その際に必ず自分が社員であることを名乗ってください。

Googleのヘルプフォーラムには以下のような案内がありました。

このフォーラムには Google 社員も参加します。Google 社員の投稿にはユーザー名の横に「Google 社員」というラベルが表示されます。また、このフォーラムへ活発に参加し、大きな貢献をしてくださるメンバーには、「上位の投稿者」というラベルが表示されます。

フォーラムに社員が参加することが宣言されていて、しかもちゃんと社員の投稿であることをラベルを表示して明らかにしており、じつに素晴らしいです。
こういう透明性の約束されたコミュニケーションがいま本当に求められています。

そしてきちんと答える(応える)ことです。
ユーザーの投稿を放置しないことはもちろん、とくにアイデア投稿の場合は投稿されたひとつ一つのアイデアに対して会社としての検討結果を伝えることです。
なんでもかんでもユーザーの言いなりになる必要はありません。できないことを正直に理由を添えて伝えればいいのです。それが対話なのですから。
企業側にきちんと聞く姿勢がない限り、ユーザーは進んで投稿などしてくれません。

しかし出しゃばりすぎるのもよくありません。
ユーザー同士のやり取りが盛り上がっている場合は水を差さないことも重要です。もちろんまちがった情報が話されていれば即座に訂正すればいいのですが、あるアイデアに対してユーザー間で共感しあったり賛否が分かれているような場合はしばらく待つべきです。そして多くのユーザーの声が出るのを見てから企業としてのコメントを発言しましょう。

もうひとつは個人情報の取り扱いについてです。
スタッフによる個人情報の取り扱いも注意が必要ですが、ユーザー自身が誤って自分の名前や住所を投稿してしまうことも考えられるため、投稿に対する監視と迅速な対処(この場合は削除)は必要です。
24時間体制で監視できない場合は、夜間については公開を保留したり、投稿フォームに警告文を載せるなりして注意喚起しましょう。

最後に

ソーシャルメディアは社交場であり、だからこそ企業はこれまでのように一方的に情報を流すだけではなく、顧客やユーザーと会話を通じて情報を伝えていかなければなりません。
ときには彼らの協力を仰ぐのもいいでしょう。

大事なことはユーザーの声が企業が成長するための燃料になり、ユーザーとの関係性がこれからの企業にとっての財産になるということです。

ソーシャルメディアマーケティング戦略は、すなわちコミュニケーション戦略です。顧客の声を聞き、彼らが欲する情報を、必要なタイミングに伝えることを常に意識してください。
いろんなサービスがありますが、サービスありきで考えるのではなく、届ける相手ありきで考えてください。必ずしもソーシャルメディアを使う必要はないのですから、最初の問いかけは「今回のマーケティングにソーシャルメディアを使うべきか」です。

使うとなれば、このトリセツを参考にユーザー間のコミュニケーションの邪魔をしないようにしながら、その会話に参加してください。ブログやツイッターで会話のネタを提供するのもいいですし、フォーラムのように会話の場を提供するのもいいでしょう。

いまの消費者、とりわけソーシャルメディアに積極的に参加するような情報リテラシーの高い消費者は企業に完璧を求めていません。そのかわり透明性や誠実さを求めています。言い換えれば、人間関係で求められる基準に近づいているのです。
だからこそ担当者ひとり一人が真摯に向き合わなければならないですし、それさえできればソーシャルメディアはあなたの味方になるでしょう。

あなたのトリセツを教えてください!

フォーラムのマーケティング活用について、どんな使い方があると思いますか? 思いつきでも実践例でもけっこうですので、あなたのアイデアをぜひお聞かせください。

河野

当メディア編集長。コミュニケーション・デザイナー。企画屋。1997年、ニフティ入社。2001年にニフティ退職後、フリーターとして数年過ごし、2004年から2005年までオンライン書店ビーケーワンの専務取締役兼COOを務める。ECサイト初となるトラックバックを導入し、また「入荷お知らせメール」などを考案した。また、はてな社との協業による商品の人力検索サービス等をプロデュース。2005年から2007年までシックス・アパート株式会社のマーケティング担当執行役員を務める。2007年から2010年までブックオフオンライン株式会社取締役を務め、サービスの立ち上げ全般のサポートに加え、「オトナ買い」や「デマチメール」などの独自機能を考案した。その後、フリーランスに。2014年から株式会社クラシコムに勤務。現在に至る。「アクティブサポート」や「最愛戦略」の提唱者。個人として「攻城団」と「まんがseek」を企画運営。個人のサイトはsmashmedia

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2件のフィードバック

  1. 個人的にはこの記事を参考にもう少し掘り下げてみたいです。枯れたサービスの積極的な有効活用もそうですし、特に対話目的のフォーラム利用は興味があります。本当の優良顧客の発見という意味合いもよくわかります。ただ管理面で『投稿に対する監視と迅速な対処(この場合は削除)は必要』とあるように、この点が運営側の課題でしょうか?あと対話したくなるようなユーザーへの投げかけも課題でしょうが、それでもやってみる価値は高いと思います。

    • ぜひ掘り下げてくださいw
      日本では少ないのですが、サポート系のフォーラムは海外ではよく見ますね。
      ちょうどMacBook Airで「InDesign」が動くのかを探してたんですが、引っかかったのはAdobeが運営しているフォーラムのやり取りでした。

      Adobe Forums: InDesign on MacBook Air or on 2 GB RAM… http://forums.adobe.com/message/3236832?tstart=0

      こんなふうに購入検討者にとっても有益なので、効果は大きいと思います。

      課題はECでもなければ個人情報が書き込まれる可能性も少ないので、それこそツイッターよりも担当者は楽だと思います。分単位のレスポンスを求められるわけでもないですし、ちゃんと確認してから答えられますからね。

      小売りもそうですが、むしろメーカーのほうがやるメリットが大きいかもしれませんね。
      こういうのをしっかりやるほうが、ツイッターやFacebookに手を出すよりもよっぽどROIが高いと思います。

@t_doumori へ返信するコメントをキャンセル