ソーシャルメディアマーケティングのトリセツ「YouTube編」

今回はYouTubeなどの動画共有サイトについてです。

YouTubeとはなにか

「YouTube(ユーチューブ)」は、インターネット上の動画共有サービスのことで、2005年に設立されました。

http://www.youtube.com/

設立のきっかけは創業者らが友人にパーティーのビデオを配るために考えた技術を使い、「みんなで簡単にビデオ映像を共有できれば」と思いついたことによると言われています。
2006年10月9日にGoogleが買収しましたが、創業して1年あまりのスピードとその買収金額(16億5000万ドル)の大きさも話題になりました。

YouTubeには現在、容量2GB・長さ15分59秒までの動画をアップロードすることができます。その動画に対して他の利用者は5段階評価やコメントを残したり、動画レスポンスと呼ばれる動画によるコメントを投稿することができます。
(なおDirector制度というものがあり、審査に合格すれば15分を超える動画のアップロードが可能になります)

日本での展開も初期から行なわれており、2007年6月には日本語版を提供開始、さらに2008年1月にはGoogleとNTTドコモの提携により、「FOMA 904iシリーズ」以降の端末でYouTubeの視聴が可能になりました。

他の動画共有サイトと同様、YouTubeも著作権問題の指摘は多いです。違法動画対策についてはいたちごっこが続いているのが実情ですが、PC・モバイル双方における圧倒的な認知度から折り合いをつけるコンテンツホルダーも出てきており、公式チャンネルを開設して自らアップロードする企業も登場しています。

YouTubeとマーケティング

YouTubeの特長は動画ファイルを簡単に共有できる点にあります。では、そのYouTubeをどうやってマーケティングに使えばいいのでしょうか。

YouTubeの活用例

YouTubeには一般ユーザーが投稿するペットのかわいい動画や、「魚を三枚におろす」など料理のハウツー動画なども多数投稿されています。
たとえばペットフードのメーカー、あるいは調理器具のメーカーやレストランがこうした動画をアップロードすることもマーケティングとして有効でしょう。

ぼくはYouTubeをマーケティングに活用する場合は「質より量」の考え方が大事だと思っています。そこそこの質でかまわないので、とにかく頻繁に動画をアップし続けることが成功の秘訣です。

事例をいくつか見ていきましょう。

バラク・オバマ大統領

近年ではアメリカのバラク・オバマ大統領がその選挙戦においてソーシャルメディアを活用したことが有名ですが、YouTubeも例に漏れず、多数の動画をアップロードしています。演説の内容、支持者との会食シーンなど選挙期間中だけで1800本の動画をアップしました。

オバマ大統領のチームはまさに品質より頻繁に支持者へメッセージを送ることを重視しており、事実、注目を集める動画もあればそうでないものもありましたが、公開した動画は合計で1億回以上再生されています。

http://jp.youtube.com/user/ChangeDotGov

彼は大統領になった現在も週1回の所信表明はYouTubeで公開しています。

日本でもとくにメディア側に意図的な編集をされかねない記者会見などは、こうした自己防衛としてのソーシャルメディア活用が(Ustreamなどの動画配信とあわせて)広がっていくでしょう。

ロッテ「Fit’s ダンスコンテスト」

これは日本での成功事例だと思います。
ロッテが発売するガム「Fit’s」のテレビCMで有名な歌とダンスをユーザーが踊って、その動画をYouTubeに投稿するコンテストです。

このコンテストの応募総数は2,466本、うち権利関係をクリアした1,732本の動画が公開されて、その総再生回数は2,100万回以上となったそうです。

テレビCMが起点とはいえ、動画の再生回数を審査に使っていたり(だから投稿者本人が積極的にクチコミする)、よく練られた企画だと思います。

http://www.youtube.com/user/LOTTE

すでに3回目に突入していることからも効果が出ているんでしょうね。

ブックオフオンライン倉庫探検隊

これは成功例ではないのですが、ぼくが手がけたので裏側含めて紹介します。
ブックオフオンラインでは2009年に「ブックオフオンライン倉庫探検隊」というコンテンツを自主制作して、毎週YouTubeとニコニコ動画にアップしていました。

ぼくがひたすら倉庫内を歩いて商品を紹介する動画なのですが、これを始めた目的は知名度向上に加えて、倉庫の規模感を見ていただくことでした。
ECサイトの場合、通常の店舗とちがい、なかなかお店の広さや大きさをイメージすることができません。ブックオフオンラインの倉庫には100万冊を越える商品があるのですが、言われてもよくわかりませんよね。そこでじっさいに倉庫内を歩き回ることでその広さを擬似的に体験していただき、さらに商品を紹介することで販売促進になればいいなと考えていました。

結果は惨憺たるもので、約半年の期間に30本の動画をアップして、合計で1万回強の再生回数しかありませんでした。YouTube自体は無料で利用できるものの、ただアップしただけでは見てもらえないということがはっきりわかる事例です。

http://www.youtube.com/user/bookoffonline

この取り組みについてはブックオフオンラインのスタッフブログにまとめてありますのでご覧ください。

http://www.bookoff-online.jp/blog/archives/4459

見てもらうには「感動」「衝撃」「エロ」「バカ」が必要

YouTubeには多数の動画がアップロードされているため、たんに動画を公開しただけでは誰にも見てもらえません。このあたりのジレンマはキャンペーンサイトを作っても誰も来ないという問題と同じです。

ぼくの経験上、こうした大量のコンテンツの中で目立ち、クチコミされるには「感動」「衝撃」「エロ」「バカ」のいずれかの要素が不可欠です。
そしていずれのケースも「振り切って」ないと意味がないということです。とことんバカをやる、音楽を入れるなどして徹底的に感動的に演出する、そのくらい作り込まないと多くの人に見てもらうことは難しいでしょう。

「感動」は注目されやすい

「フリー・ハグズ(Free Hugs Campaign)」というのをご存じですか。
2001年にアメリカのジェイソン・ハンターが始めた、街頭で見知らぬ人々とハグ(抱擁)をするという活動があるのですが(よくわかんないですよね、ぼくもよくわかりません)、この活動が日本で有名になったきっかけは2006年9月にYouTubeにアップされたこの動画です。

この動画は現在6,400万回以上も再生されています。またこれに影響された人たちがフリー・ハグズを紹介する動画を次々にアップロードしています。

「衝撃」は注目されやすい

この動画は一時期、YouTubeの有名事例としてあちこちで紹介されていたのでご存じかもしれませんが、ユニリーバが「Dove」のキャンペーンとして公開した「Evolution」という動画です。

この動画はごく普通の女性がメイクアップとフォトレタッチによって、ビルボードを飾る美しいモデルに変身する様子を描いたもので、非常にインパクトがありました。

「エロ」は注目されやすい

人間の性ですね。「ブックオフオンライン倉庫探検隊」でもアダルトビデオを紹介した動画の視聴回数が圧倒的に多かったです。このあたりは動画に付与するタグの影響がかなり大きくて、AV女優の名前をタグに入れていたせいもあります。

またこうした動画は関連したもの同士で紹介されるため、クチコミされなくてもサイト内の回遊でどんどん視聴回数が増える傾向にあります。

「バカ」は注目されやすい

これはミキサーのメーカー、Blendtec社が作っている動画コンテンツなのですが、自社製のミキサーでいろんなものを粉々にしています。iPadも粉々に粉砕しています。

これも「衝撃」に近いのですが、こうした動画は「これ見て。すごいよ」とクチコミされやすいので、かなりの視聴回数を期待できます。

http://www.willitblend.com/

バカをやるのはいちばん簡単そうですが、このくらいやらないとダメです。日本の企業でなかなかここまでやっている事例は聞かないですね。

YouTubeで参照できる視聴者データ

YouTubeでは再生回数以外にもいくつかの視聴者に関するデータを見ることができます。

自分がアップロードした動画ごとの再生回数はもちろん、再生回数も日々の推移だけでなく、どの国から見られているかもわかります。
ほかにも視聴者の男女比や年齢構成比、さらには動画への到達経路として検索や外部リンクなどどこから辿り着いたかまでわかるようになっています。

自分たちが想定している見込み顧客にきちんと届いているのかを確認するためにも、こうしたデータを活用するといいですね。

YouTubeのトリセツ

YouTubeをマーケティングに導入する際の注意点についてまとめます。

どうやって見てもらうかについては、おもしろい内容の動画コンテンツを作ることはもちろん、それを知らしめるためにはブログやメルマガを積極的に活用しましょう。場合によっては広告を使うこともアリだと思います。

動画は資産

YouTubeにアップロードした動画は、ブログと同様に資産になります。その後も半永久的に再生され続けます。
じっさいに先ほど紹介した「ブックオフオンライン倉庫探検隊」の動画も、2009年12月時点では1,568回だったのが、4,741回に増えていました。

だからこそ「何を」伝えるかはしっかり考えましょう。動画コンテンツはCMではありませんから、コンテンツの内容そのものを自社の事業領域に沿ったものにしないと次のアクションに繋がりません。

自社の商品を紹介するのか、自社が属する市場を紹介するのか、直接的であれ間接的であれ、マーケティングとして取り組む以上は必ず自社との結びつきを考えなければなりません。

うまくやれれば15秒や30秒しかないテレビCMよりも、よっぽど強くあなたの会社を印象づけることができます。

ただし16分近い動画をアップロードできるからといって、なんでもかんでも盛り込んではいけません。
取り上げるのは毎回ひとつだけ、時間もできれば3分や5分がいいでしょう。
どうしても必要な場合を除き、10分を超える動画は控えるべきです。多くの人は自分や知人、あるいは好きなタレントが出ていない限り、長い動画を見続けたりはしません。

そして今後も残り続けることを考えれば、一時的な話題作りのためにバカなことをやるのが本当にいいことなのかを熟慮したほうがいいでしょう。

見てもらうだけでは意味がない

公開した動画が誰にも見られないと意味がないのはその通りなのですが、見てもらうこともそもそもの目的ではありません。常に見てもらった後の行動まで視野に入れるようにしてください。

フリー・ハグズを成功だと言えるのは、個人で始めた活動が(その主旨はどうであれ)いまや渋谷の駅前でも見られるようになったことです。

またユニリーバのケースでも、あの衝撃的な映像を見て終わりではなく、キャンペーンサイトに誘導していて、しかもそれがテレビCMの効果を上回るほどだったことがマーケティングの成功です。

Blendtec社のケースも創設者自ら動画に投稿し、結果として会社を有名にさせたから成功なのです。ただしこのケースは製品の売上にどこまで貢献しているか(認知度がまったくない時に比べればもちろん増えてるでしょうが)疑問です。

もちろんオバマ大統領にいたっては選挙に勝てたから成功と言えるわけで、大量に動画をアップロードすることも、またそれがたくさん再生されることも、手段であって目的ではありません。

メントスガイザー

たとえばこのダイエット・コークにメントスを入れて噴出させる動画があります。

たしかにおもしろいし話題になりました。ぼくのところにも何人かからメールが届いたのを覚えています。
この実験(?)はもともとは非公式なものでしたが、YouTubeで有名になったことを受けて、メントスの発売元であるVan Melle社が「メントスガイザー(Mentos Geyser)」と命名しています。

メントスとダイエット・コークの売上も伸びたそうです。しかしそれは同じ実験をしようと思ってのことで、彼らはメントスを食べてもいないし、きっとリピーターにはならなかったでしょう。

このケースは元々はユーザーが勝手に作ったものであり、企業にしてみればタダで売上がアップしたわけですからラッキーだったことはまちがいありません。
しかしこうした動画コンテンツを自社で公開する場合は、それが本当にファンを生むのかについてよく考えるべきですね。

使用上の注意

はっきり言って、企業がマーケティング施策として動画コンテンツに取り組むのは簡単なことではありません。もちろんYouTubeは無料で利用できますし、撮影した動画を編集するのも数万円のソフトがあれば十分です。作って公開するだけなら自分たちでできるでしょう。

難しいのは前後の設計です。
動画を視聴するのは全体の中で考えれば一部、ただの経由地に過ぎません。どこからその動画に誘導するのか、そしてその動画を視聴した後にどんな行動を促すのか、ユーザーに期待する行動を俯瞰して設計する必要があります。

そして本当に動画でなければならないのかをいま一度考えてみるべきです。
伝える手段はほかにもあります。ブログでもテキストと写真で表現することはできます。動画でなければならない理由はありますか? もし動画のほうがより伝わるのであればどんどんやりましょう。

ニコニコ動画はどうなのか?

もちろん「ニコニコ動画」はじめ、他の動画共有サイトを利用することはいいことだと思います。せっかく作った動画コンテンツですから、全部にアップしたほうがよりたくさんの人に見てもらえると考えるのもまちがってないです。

ただし動画にコメントがついた場合にきちんと対応できるのかは考えておいてください。そのための体制はありますか?
あるいはニコニコ動画のように(愛情の裏返しであれ)投稿されるコメントの言葉が辛辣なものが多い場合に担当者が耐えられるのかも最初に考えておくべきポイントです。

ソーシャルメディアマーケティングはどうしても属人的な部分が残ります。とくに動画の場合は担当者自らが出演者となるケースも多いでしょう。
彼らの精神的負担を考えずに突き進むのは危険なことです。企業を代表してユーザーと向き合う担当者のストレスをできるだけ軽減できる環境を作ってください。

自社サイト内で公開している企業もある

動画を使ったマーケティングを実施する際に、なにもYouTubeにアップする必要はありません。自社サイトで公開している企業もたくさんあります。

任天堂ではWiiでゲームする様子を撮影した動画を公開しています。

http://wii.com/jp/wii-experience/

ほかにもテレビCMを自社サイトで公開する企業も多いですね。
おそらく出演者や使用している音楽等の権利関係で、自社サイトにアップしているのだと思いますが、とくにそういった理由がない限りはYouTubeを使えばいいと思います。サーバーを用意するコストもバカになりませんし。

もっともこうした紹介ムービーにやテレビCMは商品の補足説明という位置づけなので、マーケティングの目的からは少し離れますね。

あなたのトリセツを教えてください!

YouTubeのマーケティング活用について、どんな使い方があると思いますか? 思いつきでも実践例でもけっこうですので、あなたのアイデアをぜひお聞かせください。

河野

当メディア編集長。コミュニケーション・デザイナー。企画屋。1997年、ニフティ入社。2001年にニフティ退職後、フリーターとして数年過ごし、2004年から2005年までオンライン書店ビーケーワンの専務取締役兼COOを務める。ECサイト初となるトラックバックを導入し、また「入荷お知らせメール」などを考案した。また、はてな社との協業による商品の人力検索サービス等をプロデュース。2005年から2007年までシックス・アパート株式会社のマーケティング担当執行役員を務める。2007年から2010年までブックオフオンライン株式会社取締役を務め、サービスの立ち上げ全般のサポートに加え、「オトナ買い」や「デマチメール」などの独自機能を考案した。その後、フリーランスに。2014年から株式会社クラシコムに勤務。現在に至る。「アクティブサポート」や「最愛戦略」の提唱者。個人として「攻城団」と「まんがseek」を企画運営。個人のサイトはsmashmedia

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