機能提案よりも用途提案

高度経済成長時代における「競合他社よりもいい製品」は、「高機能」を表わしていましたが、すでに世の中には高機能な商品が溢れ、消費者が機能に対しては十分満足しています。むしろ細かな機能差を理解できなくなっているのが現状でしょう。

具体的な例を挙げてみましょう。
あなたは空気清浄機のテレビCMでよく見る、シャープの「プラズマクラスター」とパナソニックの「ナノイー」ってどうちがうかわかりますか?

どちらも空気中に微細なイオンを放出し、浮遊ウイルスを分解・除去することで除菌するらしいのですが、よくわからないですよね。
けっきょくのところ、それが何に使えるのか、他社の製品とどうちがうのか、この商品を買えばぼくらの生活はどう便利になるのか――、具体的な利用シーンがイメージできないとなんとも判断がつかないのが消費者の本音でしょう。

大事なのは用途提案

以前、「ジャパネットたかた」の高田社長は「カンブリア宮殿」に主演された際にこのように話されてました。

「デジタルカメラの場合、800万画素でも1,000万画素でも変わらないんです。手ぶれ防止もどこのメーカーでもついている。カタログにある赤ちゃんの顔、花嫁の顔のほうが大事で、こういうのを取りたいなあというイメージが大事なんです。メーカーの常識とお客様の目線は違うんです」
(著者による発言要約)

このようにデジカメを販売する際には利用シーンを前面に押し出してアピールしたらとても売れたそうです。
高田社長はこうした試みをほかにも多数されています。ICレコーダーを販売する際には(従来の取材録音や自分用のメモに使うのではなく)、働きに出ているお母さんが学校から帰った息子に「おやつは冷蔵庫に入ってるよ」とボイスメモを残すという、親子の対話に使えるという利用シーンをアピールしたり、とにかく機能ではなく用途を提案するのです。それも特殊なものじゃなく、身近な用途を。

じっさいカメラの画素数が決定的な要因になるのは、絞り込んだふたつか三つからひとつを選ぶときくらいです。手ぶれ防止にしても、夜景モードにしても、いまどきどこのメーカーの製品にも同じような機能があります(そのわりに名称が異なるのでさらに混乱するのですが)。

スペック表が大事ではないとは思いません。とくにインターネットでは「価格.com」などの比較サイトが充実していますし、スペックでの商品比較は日常的に行なわれるようになってきていますから、企業は積極的にスペックを細かく公開するべきです。

ただしスペックでは「ほしくならない」のです。

スペックでは「ほしくならない」

食料品や消耗品など生きていくための必需品を除けば、人は何気ない生活の中で他者からの外部刺激を受けて商品がほしくなります。だからこそ企業はこれだけたくさんの広告を出稿し、あらゆる方面から刺激を与え続けているわけですが、モノを買いたくなる最初のきっかけは圧倒的に右脳への刺激です。

よく言われるように右脳はイメージ脳とも言われ、芸術性や情緒をつかさどり、もう一方の左脳は言語脳とも言われ、論理性や理性をつかさどっています。
最近では脳とマーケティングの関係を「ニューロマーケティング」という名前で研究されていますし、本も何冊か出版されているので興味のある方はぜひ。

さて、カメラの例に戻れば、じっさいに比較し検討する段階では左脳が働くものの、その前になぜ彼がカメラを買おうとしているのか、その動機を掘り下げる必要があります。
子供が生まれるからなのか、友人の結婚式が近いからか、新婚旅行に行くからか、あるいはいま使っているカメラが壊れたからか、何か理由があるはずですね。

たとえば子供が生まれるからというのが理由だとしましょう。
でも「子供が生まれるからカメラを買う」というのは誰が決めたものでもありません。学校でも習わないし、そうしなければならない論理的な理由はありません。

きっと「子供の写真を残したい」という気持ちになったから「カメラを買う」という購買行動に繋がっていて、ではなぜ残したいと思ったのかといえば、育児雑誌で赤ちゃんの写真の撮り方について特集されていてその写真がとてもかわいかったからとか、友人宅でじっさいに子供の写真を撮っているところを見て自分も真似たくなったとか、共感や同調といったじつに非論理的、きわめて情緒的な理由から始まっているのです。
(このような需要喚起こそが広告の役割のひとつです)

提供できる「価値」はなんなのか

繰り返しになりますが、スペックが大事ではないと言っているわけではありません。スペックはとても重要です。どんなに魅力的なテレビCMを流しても、商品が三流なら売れるはずがないからです。

ここで伝えたいのはスペックありきの開発や、スペックばかり訴求する広告ではもうダメだということです。

スペックは消費者が勝手に調べてくれる

「カメラを買う」と決めた消費者は情報を自ら集めます。カタログを並べたり、メーカーのサイトや比較サイトを利用して、競合他社の製品ともどんどん比較します。スペックに関しては誰でもアクセスできる場所に情報を置いておきさえすればいいのです。あとは消費者が勝手に調べてくれます。

だからこそ企業は自分たちの商品が提供できる「価値」をきちんと見つめて(当然、それは開発前に行なわれるべきです)、どういった人の問題を解決できるかを整理しなければなりません。

運動会で走る子どもをきれいに撮れるカメラもあれば、グランドキャニオンのような壮大な風景をきれいに撮れるカメラもあります。
「なんでもできます」は「どれも中途半端」と言っているのと同じです。

「この商品で大丈夫」という安心感を与えるためには、価値をできるだけ具体的に伝える必要があります。「運動会の写真をママでも撮れる」と謳って、その簡単さをアピールするのもいいでしょう。新婚旅行で風景写真を撮る人には「パノラマ写真が撮れる」ことがアピールになるかもしれません。

消費者の右脳に訴えて、「ほしい」と思ってもらえるような訴求をしましょう。もちろん比較されて負けたら意味がありませんので、いちばん強みが発揮できるところを打ち出していきましょう。
言い換えれば、これはスペックを具体的な利用シーンに変換しているだけです。その良さがもっとも発揮できるのはどういうシチュエーションか、どんな人に向いているのかということを情緒的に語っているに過ぎないのです。

この両方がぴたっと揃っていることが大事で、使われない高機能に価値はないし、とってつけた利用イメージも消費者が競合比較した途端にメッキがはがれてしまいます。

具体的な利用シーンを伝えるテレビCM

冒頭の空気清浄機で言えば、サンヨーの「ウイルスウォッシャー」シリーズはいかに花粉症に効くかをアピールしていて、ぼくは自分が花粉症に悩まされていることもあって、すごくいいなと思いました。

http://jp.sanyo.com/vw/index.html

このように消費者は機能の多さではなく、自分にあっているかどうか、もっと言うと「この商品は自分のために作られたものなのか」を考えて判断していることを覚えておいてください。

もちろんこうした用途提案の重要性はみなさんわかった上で取り組んでいます。

たとえばシャープもパナソニックも利用シーンを切り取って、用途提案をしています。

http://www.sharp.co.jp/products/cm/tv/cm100612/tv176.html

http://panasonic.jp/nanoe/#/cm

「室内干しでもカビ除菌ができること」は平日は勤めに出ていて週末にしか洗濯できない単身者や共働きの夫婦にとっては非常に魅力的でしょうし(梅雨時ならさらに魅力的)、「ペットの脱臭ができること」について訴求することでイヌやネコを飼っている家庭は興味を持つでしょう。

ただ、このあたりは洗濯乾燥機や消臭スプレーがメインの市場ですし、動物にとって匂いがなくなることが必ずしも良いことではないので、ぼくは切り口としてはベストではないと考えています。
むしろ赤ちゃんのいる部屋に置いて呼吸器系の病気を防ぐとか、空気清浄機としての王道から外れない用途提案のほうがいいのではないかと感じました。
(もしかしたらそんなCMもあったのかもしれません)

いずれにせよ、これだけ情報が溢れている世の中では、消費者は自分に関わりのない情報など見向きもしません。

また、成熟した市場では機能差を出すことは難しく、けっきょくは細かいスペックの差を大げさに宣伝するだけなのですから、消費者に理解されないのも当然です。
だからこそ用途提案をすべきです。これを買えば何が解決するのか、どんな価値を提供できるのかを真摯に、そして徹底的に消費者に伝えなければなりません。

機能提案で売れるのは一部の画期的な商品だけです。そうでなければ自社の商品が提供できる価値と向き合って、ベストな利用シーンを見つけてください。そこに当てはまる人があなたの見込み顧客です。その方々に対して用途提案をしていきましょう。

消費者が聞きたいのは細かいスペックではないのです。それを忘れないでください。

河野

当メディア編集長。コミュニケーション・デザイナー。企画屋。1997年、ニフティ入社。2001年にニフティ退職後、フリーターとして数年過ごし、2004年から2005年までオンライン書店ビーケーワンの専務取締役兼COOを務める。ECサイト初となるトラックバックを導入し、また「入荷お知らせメール」などを考案した。また、はてな社との協業による商品の人力検索サービス等をプロデュース。2005年から2007年までシックス・アパート株式会社のマーケティング担当執行役員を務める。2007年から2010年までブックオフオンライン株式会社取締役を務め、サービスの立ち上げ全般のサポートに加え、「オトナ買い」や「デマチメール」などの独自機能を考案した。その後、フリーランスに。2014年から株式会社クラシコムに勤務。現在に至る。「アクティブサポート」や「最愛戦略」の提唱者。個人として「攻城団」と「まんがseek」を企画運営。個人のサイトはsmashmedia

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6件のフィードバック

  1. 男性はスペック重視。女性は自分が使ってるイメージを想像して決める、ってとこあると思います。女性の視点・感性を取り入れる努力が必要だと思います。

    • ありがとうございます。男女のちがいもありますよね。ただ単純に性別差と言うよりは性別による傾向はありつつも「男性脳」「女性脳」みたいな感じで、男だけど女性脳的な人もけっこういるし、逆もしかりなのかなと。

      「迷ったらいちばんいいやつ」とか、そういう決め方もありますので、スペックが参考にされないというのではないのですが、利用イメージを伝えることは大事ですよね。

  2. コピーライター養成講座を受講しているのですが、そこで講師(有名コピーライター)が「そのコピーをPOPとして商品の横に付けてみて、そのPOPを見た後、商品への認識が変わっていなければいいコピーとは言えないと思います。」と言っていたのを思い出しました。利用イメージはやっぱり大切ですよね。

    • コメントありがとうございます。認識を変えなきゃいけないんですか?
      POP(コピー)を見たことで、より具体的に自分が使ってるイメージを喚起するってことなのでしょうか?
      だとすればたしかにそうですね。その瞬間、ただの商品じゃなくなるというか。

      • その講義では、「自分が普段思ってもみなかったことだけど、確かにそういう使い方やシーンもあるんだろうな」と思わせることをコピーとして書きましょうという話でした。おそらくそのコピーが目に入った瞬間、その意外性から具体的にイメージが浮かんでくるようになるのだと思います。野暮ったい説明ですみません。

        • 補足コメントありがとうございます。まさに用途提案ですね。
          朝ビオレとか、風呂上がりのポカリスエットとか、「あーたしかにその場面で」というようなネーミングやコピー、広告を作っていきたいですね。

@kulkulkulala へ返信するコメントをキャンセル