コミュニケーション能力よりもコミュニケーション欲求が重要

昨今、就職の場面でも「コミュニケーション能力」がよく話題になります。個人的にはこんな曖昧なもので合否を判断されたくないなと思うのですが、みなさんはどんなふうに定義していますか?

ぼくは(少なくともビジネスにおいては)「相手の気持ちを正確に感じ取るチカラと、自分の気持ちを正確に伝えるチカラの両方」を「コミュニケーション能力」と呼んでいます。これは言い換えると想像力と表現力です。相手の感情や本音をどうやって感じ取って、さらに自分の気持ちをどうやって伝えるかという、双方向なスキルだと捉えています。

もともとマーケティングという仕事や役割には広報やリサーチに代表されるように、このコミュニケーション能力が必要とされてきたわけですが、ソーシャルメディアの登場以降、より対面的・対話的な消費者とのやり取りが増えてきたため、これまで以上に重要視されるようになっているのが現状です。

ソーシャルメディアマーケティング担当者に求められる資質

企業がブログやツイッターなどのソーシャルメディアを活用する場合、最初の課題となるのは担当者の人選でしょう。またこの課題は最初だけでなく、担当者の異動や退職によっても出てくるので、常に抱え続ける課題でもあります。

たしかに予算確保も課題ですが、たとえば数ヶ月だけ実験的にやるのであれば広告出稿と大差ないので、それほど大きな問題にはなりません(稟議書に書く目的や効果については難しい部分もありますが)。
むしろ広告は制作から出稿管理までそのほとんどを代理店に丸投げしてきたのに対し、ソーシャルメディアマーケティングは自分たちが中心になってやらざるを得ませんから、そこに誰をあてればいいのかという人的リソース管理の問題は広告と比較しても大きくなります。ゴーストライターと契約しても、会社を代表して返答できるわけないですしね。

コミュニケーション能力のある人を探せ?

そこでどうしても議題に上がるのは「誰がやるか?」「誰ならできるか?」「誰が適任か?」という人選についてです。ぼく自身、そういう相談を受けることがあります。

この手の会議は「コミュニケーション能力のある人を社内で探せ」という方向で結論が出ることが多いです。
たとえばプライベートでブログを書いてるとか、普段の社内での言動が社交的だとか、広報業務の経験者だとか、PR会社から転職してきたとか……等々。

ぼくはそんなのはどうでもいいと思っています。本当にどうでもいいと思います。大事なことなので2回言いました。

もちろんブログを書いてる人のほうがいいとは思いますし、広報の経験がある人のほうがいいとは思います。ただしそれを選考理由にするのはまちがっています。

たしかに振る舞い方は大事ですが、これは覚えればすむ話です。
そうではなくて、自社の商品なりサービスなりを本当に愛していて、それをひとりでも多くの人に伝えたいと願っている人を担当にすべきです。
誰だって最初は初めてなんですし、経験なんてたいした問題じゃありません。

能力(スキル)はあとからいくらでも身につけることができますが(より正確に言えば、教えることができます)、みんなに伝えたいという欲求(意欲)だけは本人の問題なので周囲がどうすることもできません。
ここを軽視しないことが成功率を高めることに繋がります。

重要なのはコミュニケーション欲求

なのでソーシャルメディアを活用しようとする企業は「消費者に会社のことを紹介したい」、「世の中に製品の良さを伝えたい」と思っている社員を担当にすべきです。それこそが唯一の選考基準です。

部署は関係ありません。営業の新人でもいいですし、開発の社員でもいいです。フォローする体制さえ作れれば、アルバイトスタッフだってかまいません。いちばんやりたい人が、適任者なのです。
だから多くの場合において、提案者(言い出しっぺ)がやるというのは悪いことではありません。

疲弊する前に交代できる体制を

そしてその人が義務感で発言するようになったら、交代時期です。
人のモチベーションが持続するのはせいぜい数ヶ月が限度で、ましてや消費者との直接対話は担当者にかかるストレスがとても大きいので、定期的に休息が必要です。投げやりな対応をしてしまう前に担当をはずしてあげることが大切です。そうしなければ本人は退職するしか逃げ道がないからです。

ストレスがかかる職種は他にもありますが、これまでに会社として試行錯誤してきたのであれば、その経験をぜひ活かしてあげてください。場合によっては担当者の人格攻撃にまで発展しかねないのがソーシャルメディアでの応対です。そのストレスはときには社長並みになってしまうので、組織としてサポートするようにしてください。

と同時に中小企業ではどうしても組織的にサポートするのが難しいため、担当者がひとりで耐えなければならないことも多いと思います。そのあたりはぼくも考えていて、マーケティングis.jp上に担当者同士のネットワークを作るなどして、社外に仕組みを用意していければいいなと考えています。

また、交代させるにしてもそうそう簡単に後任候補が現われるか心配になるかもしれませんが、この手の意欲溢れる人材は、ある程度の規模の組織ならどんどん出てきます。ぼくがニフティにいた頃、コールセンターには100人以上のスタッフがいて、やっぱり数ヶ月ごとに「もっと良くしたい!」という熱い人が出てきてました。

もっとも人数が少ない会社の場合、コミュニケーション欲求を持った人がひとりでもいるのかって話ではありますが、いなければ社長がやればいいのです。最低ひとり(社長)はいるので心配いりません。

能力(スキル)よりも欲求(意欲)

コミュニケーション能力が不要だとは言いません。当然必要ですし、重要です。こういったスキルが今後ますます重宝されるであろうことも否定しません。マーケティングに属人性が強まれば強まるほど、個々人のこういった資質やスキルは無視できないものになっていきます。

ただ同時にそれは条件に過ぎないのです。より重要なのは「多くの人に伝えたい」というコミュニケーション欲求であることを忘れないでください。

ソーシャルメディアマーケティングは担当者によってどうしても効果に差が出ます。これは属人性が高い以上しょうがないのですが、だからこそ人選はしっかりすべきですし、後任への引き継ぎ含め、組織として対応レベルをどう安定させるかを考えなければなりません。

ソーシャルメディア上での直接的なコミュニケーションに対して意欲のある人の能力を開花させてあげる、あるいは組織としてフォローしてあげる、そういう体制で始めるのが成功への近道なのです。

河野

当メディア編集長。コミュニケーション・デザイナー。企画屋。1997年、ニフティ入社。2001年にニフティ退職後、フリーターとして数年過ごし、2004年から2005年までオンライン書店ビーケーワンの専務取締役兼COOを務める。ECサイト初となるトラックバックを導入し、また「入荷お知らせメール」などを考案した。また、はてな社との協業による商品の人力検索サービス等をプロデュース。2005年から2007年までシックス・アパート株式会社のマーケティング担当執行役員を務める。2007年から2010年までブックオフオンライン株式会社取締役を務め、サービスの立ち上げ全般のサポートに加え、「オトナ買い」や「デマチメール」などの独自機能を考案した。その後、フリーランスに。2014年から株式会社クラシコムに勤務。現在に至る。「アクティブサポート」や「最愛戦略」の提唱者。個人として「攻城団」と「まんがseek」を企画運営。個人のサイトはsmashmedia

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