ソーシャルメディアはインターネットユーザーが増加したことと、ブログやSNSのように情報発信のハードルが下がったために生まれたメディアです。そこには大事なことも書いてあれば、どうでもいいことも書いてあります。また現実社会の友人もいれば、ネットでのみ繋がっているという多種多様な人間関係もあります。

個人レベルでは特定少数、あるいはそれに不特定少数を加えた程度の小さなネットワークが検索やリンクでアトランダムに繋がったものがソーシャルメディアとも言えます。小規模な雑談メディアネットワークがソーシャルメディアという見方もできます。

基本的にはインターネット上でのコミュニケーションは10年前から変わってないのですが、とくにソーシャルメディアをマーケティングに活用する際に注意すべきポイントとして整理してみました。

ソーシャルメディアの3D構造

じっさいにユーザーとして使ってきて、またマーケティングに活用してきて感じることとして、ソーシャルメディアの特徴・特性には「Direct」「Dynamic」「Diversity」といったものが挙げられます。

Direct 直接対話

最初は「Direct(直接対話)」です。
企業がひとり一人の消費者と直接繋がることができるようになったというのが従来のメディアとソーシャルメディアのもっとも大きなちがいです。この双方向性はインターネットの本質でもあるのですが、とくにソーシャルメディアではより相手が特定されるという点において対面でのコミュニケーションに近づいています。

誤解されるケースが多いのですが、直接対話できることはいいことばかりではありません。おそらくこの手の誤解は『Web進化論』に始まるWeb2.0ブーム以降、ひどくなってるのですが、直接返ってくるフィードバックは必ずしも期待するものばかりではないということです。

これまではどんなテレビCMを流そうが、マーケティングの担当者に声が届くことはまずありませんでした。コールセンターに苦情が届いていたとしても、それがレポートになり客観的なデータに整理されてしまうので、担当者の手元に届く頃には「そんな声も一部ではあるのか」という程度の認識しか持たなかったと思います。

しかしソーシャルメディア上では直接怒られます。ひどいときは人格まで否定されるわけです。あなたひとりの責任ではないのに。
広報にせよ、コールセンターにせよ、こういったマンツーマンでの対応経験がない人がソーシャルメディアマーケティングを担当するというのはぼくはかなりリスクだと感じています。失敗するとかしないとか以前に、担当者のストレスがすごいことになりそうなので。

また、みんなが話しかけられることを期待していないという事実を知っておかなければなりません。これは自分に置き換えればわかると思います。リアルな世界でも、ネットの世界でも、知らない人に話しかけられることを全員が望んでいないし、同じ人でもタイミングによっては拒絶したいときもあるでしょう。

もちろん製品やブランドのファンと繋がることもできるので、ものすごく喜ばれることもありますが、そうならないケースがあることを想定せずに始めてしまうのがもっとも危険です。
そもそも「万人に愛されることはムリ」というところをスタートにするべきです。アップルでもディズニーでもアンチはいるのですから、なにもあなたのブランドを批判する人がいたところで不思議なことではありません。

先日の記事(「ソーシャルメディアのコミュニケーションは衆人環視下で行なわれる」)の通り、衆人環視下でのコミュニケーションであることも忘れないようにしましょう。
同じ直接対話でも、そのやり取りが衆人環視のもとで行なわれるのが、メールや電話との大きなちがいです。ただしこれはいいことなのです。あなたが誠実かつ公平に対応している限り、その一部始終を見ていた他のユーザーの印象も変えられるわけですから。
ソーシャルメディア上での直接対話は相手のことを考えるだけでなく、その周囲にいる人たちのこともきちんと意識するようにしましょう。

そして企業がマーケティングにソーシャルメディアを取り入れる理由のひとつとして、サイレントクレームの把握ができることも指摘しておきます。
これまでも顧客は不満を自分の周辺の人には漏らしていたわけですが、それはリアルな世界のみで行なわれていたため、企業は把握することができませんでした。離反した人がアンケートに答えてくれることも少ないですしね。よく解約時にアンケートを求めるサービスがありますけど、早く縁を切りたいと思ってるユーザーがどこまで真剣に答えてくれると思っているでしょうか。

こうした企業に届かない顧客の不満がソーシャルメディア上に可視化されるのは、すごくいいことです。
すべての顧客が積極的に企業に意見を言ってくれるわけではありませんし、「使いづらいな」と思ったら何も言わずに去って行く人も少なくありません。こうした離反直前顧客に対して、たとえその一部に対してであっても企業側から直接対話(アクティブサポート)できるというのは可能性があると思いませんか?

これまでのように「困ったら電話してこい(メールしてこい)」という受け身の姿勢は、同時に上から目線でもあったわけですが、ソーシャルメディアによって本来のアフターケアができるようになったのです。

Dynamic 動的な関係

2点目は「Dynamic(動的な関係)」です。
ソーシャルメディアの傾向として、いつでもどこでも情報を更新できてしまう利点がある一方で、このリアルタイムな情報更新には欠点もあります。
ツイッターなどのリアルタイム性の高いソーシャルメディアでは、情報が細切れになるのでどうしても誤解が生まれやすくなるのです。こうした「同期性」は往々にして情報の正確性やわかりやすさとのトレードオフになります。

たしかにリアルタイムであるがゆえにタイムセールに使えることもありますし、メリットを活かしていけばいいのですが、プライバシーへの配慮しかり、リスクを理解した上で活用すべきです。

また、常に関係性が変化するという意味では、ソーシャルメディアのやり取りはこれまでのマーケティングで行なってきたコミュニケーションと比べても影響力が大きいと感じています。カッコいいテレビCMよりも、ブログにコメントを残すほうがブランドへの好意度は高まることが多く、これは店頭での接客に近いからなんでしょうね。

ただこれも逆効果になる(つまり嫌悪される)こともあるわけですから、すべてはひとつ一つの対応次第であることを認識しておく必要があります。
直接対話によって顧客の声を受け止めた後の行動が肝心です。それが見られているし、そこできちんと修正なり改善なりで対応するからこそ、関係性は良好なほうに変わるわけです。
お礼を言うだけならプログラム(bot)でもできるわけで、行動で示すことを忘れてはなりません。

企業の対応時間にも変化が起こるでしょう。いまでも一部の企業では24時間365日のサポート体制を敷いていますが、今後は消費者側からのニーズも高まってくると思います。少なくともそれが競合優位になっていくはずです。
現状ではそこまでリアルタイムな対応が求められているわけではありませんが、ソーシャルメディア上にアカウントを設けている以上、緊急時にそれが必要になるのは当然です。

障害発生時には企業が公開しているすべてのチャネルが緊急窓口になります。代表電話、コールセンター、営業マンもそうでしょうし、同様にソーシャルメディアのアカウントも窓口になるのです。
システムトラブル、リコール、そういった問題が起こった際にのんきなコメントをしたり、18時で「帰るなう」などとツイートしようものなら、顧客は一斉に離れていくでしょう。

ソーシャルメディアによって、あなたは味方を増やすことも、敵を増やすこともできます。そしてそれを決めるのは自分たちの行動であることを覚えておいてください。

Diversity 多様性

最後は「Diversity(多様性)」です。
今回挙げた3つのすべてが現実社会では当たり前のことです。それらがインターネットに持ち込まれたと言うよりも、ソーシャルメディアの登場以降、すでに境界線がなくなりつつあるのだと理解したほうがより現実に即しているでしょう。

多様性についてはいまさら言うまでもないことですが、多くの企業事例を見聞きする限り、油断するとモニタの向こうにいるひとり一人の人間を想像できなくなることがあるようです。
インターネットユーザーはひとくくりにできるほど単純ではありません。あなたの周りにいるすべての人に個性やちがいがあるように、インターネットにいる人もみんなちがうのです。それは当然で、あなたも含め、人はネットとリアルの両方の世界に属して生きているからです。

ひとり一人がちがう以上、マニュアル的な対応は通用しません。
毎回、相手にあわせましょう。コピペで返すコメントで顧客が感動するわけがありません。そもそもコピペはすぐにバレます。その結果、相手がどんな気持ちになるか、その周囲で見ている人がどう感じるかは想像するのも怖いことです。

同じようにコメントしても、人によって受け取り方はちがいます。フランクと感じるか、馴れ馴れしいと感じるかは相手次第なのです。同じ対応でも親近感を感じる人と無礼に感じる人がいることを覚えておきましょう。
「こう言っておけば大丈夫」というマニュアルが作れないのが接客の難しいところですが、まさにこれまでのマーケティングとは異なるスキルが求められているのです。

多様性はなにも消費者だけじゃありません。当然のように企業だって多様性があるわけですから、よその企業の事例をそのまま真似てもうまくいくはずがないのです。業種業態だけでなく、ブランドの位置づけや価格帯、そしてこれまでに気付いてきた顧客との関係性、さらには顧客のネット利用率含め、条件が異なる事例を参考にするのは無意味です。

代表的な事例は「デル(Dell)がツイッターでウン億円稼いだ」というもので、おそらく何度も耳にしていると思いますが、ほとんどの企業にとってこれはなんの参考にもならないでしょう。
デルのケースはこれまでに培ったブランド力、訴求力のある商品(アウトレット品)、圧倒的なフォロアー数という条件を満たした上での話であって、この条件を満たせる企業を探すほうが大変です。
(にも関わらず、こういった事例をエサに売り込むのは詐欺だと思います)

ネットマーケティングは数値的なレポートが取りやすいということで急速に普及してきましたが、ネットとリアルが融合し始めると、その優位点は失われつつあります。じっさい、ソーシャルメディアをマーケティングに活用しても定量的なレポートは意味をなさなくなってきています。
具体的にはツイッターのフォロアー数に繋がりの「深さ」は反映されていないように、少ないよりは多いほうがいいだろうとは言えるものの、これがKPIになることはまずありません。

他社事例を参考にするにしても自社用にカスタマイズしないとダメですし、オリジナルの企画を考えたとしても価値観の異なるユーザーひとり一人と個別対応をしなければならないし、ソーシャルメディアをマーケティングに活用するというのはけっして簡単なことではありません。それだけの覚悟が必要になります。

本当に繋がりたいのか?

ソーシャルメディアマーケティングが難しいのは、これはもうネットマーケティングの範疇ではなくなっているからです。
サポートや接客や、これまで求められてきたものとは大きく異なるスキルが必要ですし、直接的な効果も見えづらくなっています。リスティング広告のように販促目的でROIも簡単にはじき出せるものがネットマーケティングだと思っている企業にとっては、まったく次元のちがう話になってしまうでしょう。

だからこそ「本当に繋がりたいのか?」ということをいま一度しっかり考えてほしいのです。

広告や販促的発想で儲けようとしてもムリですし、一部の成功事例もそのまま流用できないし、考えることもやることも山のようにあります。
それでも本気で取り組む覚悟はあるのでしょうか。そしてその覚悟は予算や組織に現われていますか?
ソーシャルメディアで顧客とやり取りが始まると、かなりの頻度で社内調整が発生します。すぐに閉鎖することもできませんし、担当者が退職したあとも続けていかなければならないのです。そこまでの覚悟はありますか?

なにも顧客と繋がる手段はソーシャルメディアだけではありません。店舗を出店してもいいし、イベントを開催してもいいですし、メールや手紙だって直接対話は可能です。それでもソーシャルメディアを選ぶのはなぜでしょうか。

もちろんソーシャルメディアを取り入れるメリットはたくさんあります。比較的低コストでやれることもそのひとつですし、インターネット上に保存(アーカイブ)されるため企業の資産として対応履歴が残っていくことも他の手段にはない優位点です。

ただ、だからこそ生半可な覚悟で始めるには危険すぎるのです。やる以上は会社全体で世の中(顧客含む)と向き合うくらいの覚悟が必要です。
その覚悟があるならぼくは喜んでサポートしますし、きっとソーシャルメディア上にいる多くのユーザーも歓迎してくれるでしょう。

おまけ ― その他のD ―

この「ソーシャルメディアの3D構造」のネタは、セミナーで話す際に考えたのですが、周囲のみんなにもアイデアを出してもらいました。

他にもいろんなDの候補があったので、以下に紹介します。

  • Democracy「民主制」
  • Dangerous「危険な」
  • Dream「夢」
  • Depth「深さ」
  • Difficult「困難な」
  • Dialog / Dialogue「対話」
  • Discussion「議論」
  • DIY(Do It Yourself) 「自分でやる」
  • Dense「濃密」
  • Distant「距離のある」
  • Deletion「欠失」
  • Deconstruction「脱構築」
  • Discourse「会話」
  • Deep「奥行きがある」
  • Depart「規則から逸脱する」
  • Demand「要求」
  • Distribute「分け与える、広げる」
  • Digital「デジタル」

こういったキーワードで捉え直すと本質が見えやすくなるのでいいですね。ほかに思いついた方はぜひコメントで聞かせてください。

河野

当メディア編集長。コミュニケーション・デザイナー。企画屋。1997年、ニフティ入社。2001年にニフティ退職後、フリーターとして数年過ごし、2004年から2005年までオンライン書店ビーケーワンの専務取締役兼COOを務める。ECサイト初となるトラックバックを導入し、また「入荷お知らせメール」などを考案した。また、はてな社との協業による商品の人力検索サービス等をプロデュース。2005年から2007年までシックス・アパート株式会社のマーケティング担当執行役員を務める。2007年から2010年までブックオフオンライン株式会社取締役を務め、サービスの立ち上げ全般のサポートに加え、「オトナ買い」や「デマチメール」などの独自機能を考案した。その後、フリーランスに。2014年から株式会社クラシコムに勤務。現在に至る。「アクティブサポート」や「最愛戦略」の提唱者。個人として「攻城団」と「まんがseek」を企画運営。個人のサイトはsmashmedia

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