【米国レポート】職種・役職としてのコミュニティマネージャーとその普及状況

以前も紹介したコミュニティマネージャーについて、USの状況をヒアリングしたところ、大変詳細なレポートをいただいたので、みなさんに共有させていただきます。

本レポートは「米国ロサンゼルスを拠点に、日本の企業様の革新を支援することを使命にしている会社」であるダイナ・サーチ(Dyna-Search, Inc.)によるもので、同社代表の石塚しのぶ氏は『ザッポスの奇跡』の著者としても知られています。

それではレポートをご覧ください。

コミュニティ・マネージャーという職業について

コミュニティ・マネジャーは、今、アメリカで最も注目される「新しい職種」のひとつです。アメリカでは、ソーシャル・メディア関連職に特化した求人サイトやヘッドハンター業が数多く誕生していますが、最近、米国企業では、業界、業種、規模を問わず、ソーシャル・メディア関連の役職が次々と設けられており、「需要が供給を上回る(求人の方が、実際にその役職を満たせる人の数より多い)」という事態まで起こっていると言われています。

そもそも、「コミュニティ・マネジャー」という言葉の意味は、「コミュニティ(共同体)」を「マネージ(管理する)」というものですから、社外(顧客、パートナー)と社内(社員、従業員)のいずれも「コミュニティ(共同体)」であると考えられますし、オンラインとオフラインの両方を含むものです。しかし、今日の時代的背景から、昨今では、企業の役職として「コミュニティ・マネジャー」という時、多くの場合「オンライン・コミュニティ・マネジャー」を意味するようになってきています。また、一般に、特定の企業やブランドが主導的に立ち上げた「プライベート・コミュニティ(閉鎖型コミュニティ)」のみを指すのではなく、フェイスブックやツイッターやその他のウェブ上のプラットフォームに存在するすべてのコミュニティ(オープン型コミュニティ)を包括します。

歴史的に見ると、コミュニティ・マネジャーの仕事は、IT企業やウェブ関連の新しいタイプの企業ではじめに導入されましたが、今では、かなり旧体制的な大企業(フォーチュン500級の企業)でも導入されてきているようです。しかし、新しい職種であるため、職務、権限や責任範囲などについては、企業によってばらつきがあり、「これ」といった絶対的な定義はまだ存在しないようです。また、「コミュニティ・マネジャー」の役職についている人の職歴や資格、経験も様々です。「コミュニティ・マネジャー」は、従来型の職種のように、特定の学位をとったからその資格があるというわけではなく、また、経験の面においても、これといって決め手となる必要条件があるわけではありません。

コミュニティ・マネジャーの年収

さらに、コミュニティ・マネジャーを「戦略系」職種としてとらえるか、または「実務系」職種としてとらえるかについても、企業によって大きなばらつきがあります。コミュニティ・マネジャーが「戦略系」職種としてとらえられている場合、細かい話でいえば肩書きにも違いがあり、「ソーシャル・メディア・ディレクター」という肩書きをもちながら、その傘の中でコミュニティ・マネジャーの職務を満たすという場合もあります。このように、「戦略系」職種の場合、責任範囲も広く、また、与えられている権限も大きく、年収も10万ドルを超える場合も珍しくありません。

実際のところ、現在、多くの米国企業で、コミュニティ・マネジャーは「半戦略・半実務」系の仕事として捉えられているようです。それは、例えばソーシャル・メディア関連の職種に特化した求人などを見ると、「コミュニティ・マネジャー」という肩書きのついているものの多くが、「日々のコミュニティ活動の企画、管理、運営」というところに焦点を置いていることに反映されています。しかし、その中にも、コミュニティの「ライフサイクル」や「ライフステージ」を考えて、長期的な視野でコミュニティを進化させていくためにはどうしたらいいかという企画や方策を立案する、という側面もあり、これが、コミュニティ・マネジャーが「半戦略」系の仕事であるという所以です。ちなみに、このタイプの「コミュニティ・マネジャー」の平均的年収は6万ドルから8万ドルといわれています。

「コミュニティ・マネジャー」が、まったく「実務系」職種として捉えられている企業の場合、これらの職種がもつ職務や責任範囲、権限は非常に狭く、「コーポレート・ブログ」や、会社のフェイスブック・アカウントやツイッター・アカウントのライターとして活動しているといった程度です。これらのポジションには、正社員ではなく、パートタイム人員や、あるいはフリーランスの人が雇われている場合も多くあります。特に経験や資格を問わないため、四年制大学を卒業したての「デジタル・ネイティブ世代」が、年収3万ドルから5万ドルといった条件で雇われている場合が多く見られます。

このように、「コミュニティ・マネジャー」を「戦略系職種」として見るか「実務系職種」として見るかが企業によって異なるため、仮にコミュニティ・マネジャー自身が高い能力レベルやモチベーションを備えていても、企業によっては、コミュニティ活動の企画・管理・運営にあたる上でコミュニティ・マネジャーに十分な権限やリソースが与えられていないといった歪も出てきています。また、「コミュニティ・マネジメント」や「コミュニティ・マネジャー」をれっきとした企業活動の一環や役職として確立していくためには、「コミュニティ活動の成果」や「コミュニティ活動が事業活動に与えるメリット」を目に見える形で経営側に報告していく必要がありますが、「コミュニティ・マネジャー」がその方法を捻出できないという問題も起こっています。言い換えれば、企業組織内で成功する(認められる)「コミュニティ・マネジャー」は、「コミュニティ活動の成果」をステークホルダー(経営側、社内関連部門、顧客、パートナー、株主など)にアピールできるコミュニティ・マネジャーだということです。

もちろん、「コミュニティ活動の成果」をいかに捉えるかは、その企業の経営側が、コミュニティ活動のメリットを長期的なものとして見ることができるか否かによっても変わってくると思います。「コミュニティ活動」が、売上の増加や利益の向上といった短期的指標に与える直接的な影響を立証することはほぼ不可能(あるいは不適切)であることから、コミュニティの活動成果を測るものとして、いろいろな測定指標が模索、提案されてきています。

コミュニティ・マネージャーの現状

以下に、アメリカのソーシャル・メディア・エキスパートやコンサルタント、あるいは、企業で実際にコミュニティ活動に携わっている現職のコミュニティ・マネジャーたちの複数の見解をもとに、アメリカの企業がコミュニティ活動に期待していること、また、アメリカの企業において考えられているところの、コミュニティ・マネジャーの役割や責任範囲についてまとめてみました。

まず、アメリカの企業がコミュニティ活動に期待していること(コミュニティの意義)について以下に述べます。

アメリカの企業がコミュニティ活動に期待していること(コミュニティの意義)

  • 顧客エンゲージメント:顧客が企業とつながる「場」を提供する。
  • 顧客の声の収集:自社が提供する商品やサービスについて、顧客からのフィードバックを収集し、新規商品/サービスの開発や既存商品/サービスの改善につなげる。
  • 顧客とのコラボレーション:企業が顧客の協力を得、双方のメリットにつながる新しいアイデアや、問題に対する解決策を編み出す「場」を提供する。
  • エバンジェリズム:エバンジェリスト(ファン)を見つけ、つながりを深める。また、新たなファンの育成に努める。
  • ロイヤルティ向上:顧客との意思疎通をよくすることで、ロイヤルティを高める。

次に、コミュニティ・マネジャーの責任範囲(戦略系)について、以下のようにまとめてみました。

コミュニティ・マネジャーの責任範囲(戦略系)

  • プラットフォーム・マネジメント:コミュニティを管理・運営するところの「システム」を管理する。コミュニティの目的を踏まえて、それを実現するのに必要なソフトや機能の定義、選択、あるいはアップグレードなどがこれに含まれる。
  • プロジェクト・マネジメント:コミュニティの企画・管理・運営をひとつのプロジェクトとして捉え、プライオリティやスケジュールを管理する。また、成果を文書化する。
  • プロダクト・マネジメント:コミュニティを「プロダクト」として管理する。例えば、複数のコミュニティが存在する場合、それらのコミュニティを一環して、顧客(ユーザー)のエクスペリエンスが一貫性を保つように努める。また、どのコミュニティに参加すべきかを判断する。
  • カスタマー・マネジメント:オンライン/オフラインに関わらず、顧客を増やすアウトリーチ活動、各種イベント、インセンティブの企画・運営。また、問題の特定と解決策の提案。
  • プロフェッショナル・デベロップメント:会社のソーシャル・メディアおよびコミュニティ活動の「顔」として、業界イベントに出席したり、ネットワーキングを行ったりする。また、ソーシャル・メディアおよびコミュニティ活動のベスト・プラクティスについて学んだり、ソーシャル・ツールのトレンドに常に目を光らせ、自社への導入メリットを検討する。
  • ブランド・マネジメント:自社のブランド・メッセージが正しく伝達されるように活動する。また、ブランドに関するフィードバックを収集し、それを社内に伝達する。ブランドに関するネガティブ・センティメント(苦情・悪評)をキャッチし、早期に対処することによって、リスク管理に努める。
  • スタッフ・デベロップメント:社内のコミュニティ活動に携わる人材を募集、採用し、育てる。
  • ビジネス・プランニング:コミュニティ活動におけるゴール設定や予算策定。また、自社の事業目的に沿ったコミュニティ活動の戦略企画。
  • コミュニティ・マネジメント:コミュニティ内の活動を企画・管理・運営する。これには、会話のモニタリング、ファシリテーション、ユーザーによる参加の促進、コミュニティ内の行動規範の定義と取り締まり、インセンティブ企画などが含まれる。
  • コンテント・プランニング:コミュニティ内のコンテントについて、市場・顧客調査に基づき、ユーザー(顧客)の興味をひくようなコンテントを企画・制作する。
  • 社内アドボカシー:世の中のソーシャル化の状況について、社内での啓蒙活動を行う。ソーシャル・ツールに関して認識を高めたり、トレーニングを行うだけでなく、社内の部門間の情報共有を促進するため、橋渡し役として活動する。

また、コミュニティの目的やフォーカスによって、コミュニティ・マネジャーに、以下のような専門分野に関する知識、経験、あるいは理解が要求されることがあります。

コミュニティ・マネジャーに求められるスキル

  • マーケティング/ブランディング
  • PR
  • 顧客サービス/テクニカル・サポート
  • 商品開発/品質管理
  • セールス/ビジネス開発

ただし、河野さんの記事『日本の企業にもコミュニティマネジャーを』にも述べられているように、コミュニティ・マネジャーはスーパーマンではないので、コミュニティ・マネジャーが現実に上記の分野すべてに関する経験や知識を持ち合わせているケースは少ないと思います。そのコミュニティが上記機能のいずれかに特化している場合、あるいは、それにフォーカスがおかれている場合には、その特定分野における経験や知識をもった人がコミュニティ・マネジャーに選ばれるということはあるでしょう。しかし、多くの場合、現実的には、コミュニティ・マネジャーが、上記のような機能分野と密接なつながり(コミュニケーション・チャネル、協業体制)をもって、顧客の声をフィードバックしていく、顧客の声に対応する、あるいは、改善策を実行するなどの行動を円滑に行っていくことが求められていると思います。

冒頭で述べたように、コミュニティ・マネジャーはまだ新しい職種であるため、今後、様々な試行錯誤を経て、より標準化された定義が確立されたり、あるいは、確固とした「スキル・セット」が定義されたりしていくと考えられます。しかし、「職業」や「専門分野」として定着していくにはまだしばらく時間がかかるものと思われます。

以上、近年のアメリカでコミュニティ・マネジャーについて交わされているあらゆる意見や論議をまとめてみましたが、少しでもお役に立てていただければ幸いと存じます。

河野コメント

USの現状についてよくわかるレポートに感謝します。
まだまだ新しい職種であることもあって、役割や権限もマネジメント寄りなのか、あるいは単にツイッターに投稿するだけの作業者なのかによって年収も倍以上に変わってきます。これは当然といえば当然なのですが、企業にとっても採用を考える際にきちんとどこまでの権限とミッションを与えるのかを整理する必要がありますね。

また、レポートの難しさについてはソーシャルメディアマーケティング全般に関わる課題ですが、これについても単にフォロアー数やコミュニティの参加人数だけじゃない定性的な分析含めて確立していかなければなりません。

個人的には自分が感じていた「コミュニティマネージャー像」がほぼずれていないことが確認できたので、あとは日本向けのアレンジを考えて「コミュニティマネージャー養成講座」を企画していければと思っています。

マーケティングis.jp編集部

マーケティングis.jpの編集部用アカウントです。

シェアする

4件のフィードバック

  1. なるほど、これならほぼずれていない感じがします。

    補足するなら、コミュニティの種類についての言及が欲しいところです。例えば、僕はアメリカでは某コミュニティ系サービスのマネージメントに従事していました。OpenOffice.orgは、Sunがコミュニティマネージャーを雇っていました。この種類の、「コミュニティサービスそれ自体を運営している」または「コミュニティが製品、サービス開発に直接関わる」場合は、上記で言えば「半戦略系」CMが必要になります。こっちはチームマネージメント色が強くなります。

    一方で、既存の製品に直接コミュニティは関わらないけど、その周辺にコミュニティ(=ファン、ユーザーの集まり)を作って盛り上げていこうとする場合は、上記の「実務系」業務が中心になります。こっちはマーケティング色が強くなります。ソーシャルメディアマネージャーという言葉を使う事も多いです。

    いずれにしても重要なのは、「コミュニティは何かを生産する主体である」ということと、「コミュニティマネージャーはそれを支援する立場である」ということです。この場合の「生産」は広くとらえていただいて構いません。実際にソースコードやドキュメントを生産するのもあれば、「ブログで記事を書く」「口コミになるツイートをする」というのも生産行為になると考えてください。ぶっちゃけ、それが達成出来るなら、CM職は何でもやるべきです。僕は2007年からTwitterを使ってサービスを広げていたし、自分でチラシを作って配っていたこともあります。

  2. (続き)
    河野さんは「スーパーマンではない」と言っていますが、コミュニティ側からすれば、スーパーマンであることが求められるし、そうであるできだと思います。業務領域で言えば、営業、マーケ、ユーザーサポート、テクニカルライティング、場合によっては技術といったものが求められます。HTML、CSSは理解している事というリクワイアメントは多いし、オンライン技術を使うようなら、ウェブに関する概要だけでも必要になります。今はトレンドとしてはスマートフォンへの理解が求められるようです。ただし、ひとつひとつのスキルについては、それほど高いものを必要としません。別にソースコードを書く必要もないし、マーケティングのプロである事もありません。

    ところが、それが故にこの役職の確立は難しいのではないかと思っています。上にあるように定義が難しいし、実際の求人広告もpassionateとかmotivativeといった言葉が並び、「根性職」みたいなとことがあります。僕は時々「ホテルのコンシェルジュのようなもの」と説明していますが、これが当を得ているかどうかはなんとも言えません。

    とりあえず、意見としてはこんなところです。

    • 補足ありがとうございます。とても参考になります。

      ぼくはスーパーマンでなくてもいいと思いますが、それを理由にコミュニティから届く声を遮断してはいけないと思っています。自分で解決、回答できないことはいくらでもありますので、その際に責任を持って行動できれば本人がスーパーマンである必要はないと考えます。
      もっともご指摘の通り、広く浅くでもいいので必要となるであろう技術や知識をなんとなくわかっていることは、より望ましいと思いますし、じっさいに活躍できる(結果を出せる)コミュニティマネージャーはある種の器用貧乏的な人材であろうとも思います(自分を振り返ってみても)。

      コンシェルジュはとても近いと思うのですが、日本ではコンシェルジュ自体がまだまだ認知されていないので、たいして理解の促進ができないんですよね。残念なことに。

      • 僕がこの点で参考になったのが、LinkedInにある「Online Community Managers」というグループです。ここでは日々議論が行われているし、多くの求人が投稿されます。

コメントを残す