商業的な意味でのインターネットの歴史はまだ20年程度に過ぎないわけですが、パソコン通信から始まるインターネットのおおまかな歴史と、ぼくらの環境の変化について、少し整理しておきましょう。

ネットは特別(別世界)

その昔、1990年代前半はネットは限られた人が使う特別な世界でした。最大手のパソコン通信サービスだったNIFTY-Serve(ニフティサーブ)のユーザーも理工系の大学生や、メーカー勤務のサラリーマンが中心でした(ぼくのように文系の学生や主婦もいるにはいましたけどね)。
あとは出版業界は比較的参入が早かったです(原稿やデータのやり取りにも使えるので)。

そもそも昔は一般家庭において電話回線にデータを流すこと自体がNGだったのでパソコン通信というサービスそのものが存在しえなかったのですが、1982年の公衆電気通信法の改正、さらには1985年のNTT誕生(日本電信電話公社の民営化)に伴い電気通信事業法などが改正されたことで、環境としては可能になりました。

最初に本格的なパソコン通信サービスを開始したのはアスキーです(小規模なもの=草の根BBSは全国各地にありました)。名前は「ASCIInet(アスキーネット)」といいました。その後、NEC系のPC-VAN(現・BIGLOBE)、富士通系のNIFTY-Serve([email protected])が誕生しました。

当時のパソコンのOSはまだWindows3.1とかMacは漢字Talkの時代で、電話回線と接続するのもモデムを使用していました(もっと前だと音響カプラを使っていたそうですが、さすがにカプラは使ったことないです)。

しかもその頃は電話料金もパソコン通信への接続料金も従量制だったので、いまのように繋ぎっぱなしでネットサーフィンのようなことはできず(そんなことをするとすぐに通信費が数万円になってしまうので)、「オートパイロット」と言って、自動でメールや掲示板のメッセージを一気に受信して、切断してから読むのが普通でした。

その後、テレホーダイという夜11時から翌朝8時までは定額(1800円)で2つの番号にかけられるサービスが始まって、それまでよほど裕福な人じゃないと使えないサービスだったチャットが一般化しました。

この当時も企業はたとえばNIFTY-Serve内にステーションと呼ばれるスポンサードのフォーラムを開設して、プリンタドライバをダウンロードできるようにしたり、電子会議室で質問に答えたりしていました。また通常のフォーラムとタイアップして電子会議室の一部を出張相談所のように使う企業もいました。

ただそこまで積極的なのはパソコンメーカーや周辺機器のメーカーばかりで(利用者層を考えると当然なのですが)、普通の企業はほとんど参入していませんでした。
またユーザー数も数百万人レベルだったので、規模としてもとても小さかったです。各社の会員数を足しあわせてもmixiに及びませんしね。

まだまだオタクの世界、秋葉原がパソコンの街になる直前の話です。

ネットはネット、リアルはリアル(パラレルワールド)

そんなふうにパソコン通信は一部の特別な人しか利用しなかったわけですが、転機となったのはWindows95の発売(1995年11月)です。日本のインターネットは1995年を境に大きく変わりました。

Windows95が発売されたとき、ぼくはまだ大学生でした。当時はMac(Performa630)を使ってパソコン通信をしていたのを憶えています。でも大学の友人たちは誰も使ってなかったです。

図書館にあるパソコンにはNetscape Navigatorがインストールされていて自由に使えたのですが、いまのようにサイトが無限にあるわけでもなく、NASAなどごくごく限られたサイトしかなかったのでパソコンブースはいつも空いてました。
当時はまだインターネットは学術的な意味合いが強く、楽しいコミュニケーションの場ではなかったですね。

そしてWindwos 98の発売(1998年7月)とiMacの登場(1998年5月)がインターネットへのシフトに拍車をかけます。この頃からパソコンにはモデムが内蔵されるようになり、新たに何かを購入しなくても電話回線をパソコンに繋ぐだけでインターネットができるようになりました。接続用(入会用)のソフトも最初からバンドル(付属)されてましたしね。余談ですがもちろんこのバンドルは販促なのでいまのアフィリエイトのような感じで、入会者数に応じてキックバックがありました。

ちなみにぼくがニフティに入社したのが1997年。当時はパソコン通信の会社に入ったと自分で思ってたのですが、数年でインターネットの会社に変わっていきましたね。

この頃にISP(インターネットサービスプロバイダ)が続々と誕生します。So-netがPostPet(1997年)で会員数を伸ばしたり、各社がプロモーションやキャンペーンで競い合っていました。
1999年にぼくはマーケティング部に異動になったので他社の調査なんかもしていたのですが、市場全体が伸びていたのと、ニフティは富士通系のパソコンからの入会者も計算できたので現場は比較的のんびりとしていて、じつに牧歌的な時代でした。ぼくもPostPetを買いましたし。
ただコールセンターは別でした。毎月初心者がものすごい勢いで入ってくるので、常にキャパシティオーバーを続けていて火の車でした。

さらにYahoo!BB(2001年)が強引な勧誘でインターネットユーザーを増やします。ADSLのモデムをバラ撒いてましたしね。
総務省の「通信利用動向調査」のグラフを見ても2000年前後から急増していることがわかります。

Yahoo!BBには功罪両面があって、少なくとも日本のインターネット利用料金が世界的に見てもかなり低価格なのは、Yahoo!BBが圧倒的な低価格で提供したからだと言われてます。
ADSLは広帯域や定額制といった点だけじゃなく、常時接続という観点でも大きなパラダイムシフトを起こしています。それ以降、インターネットは常時接続が当たり前になりました。

ぼくらの身の回りの変化で言うと、メールアドレスを持っている人が増えてきたことです。1997年頃は名刺にメールアドレスが記載されているほうが珍しかったのですが、2000年くらいになるとわりと当たり前になってきてました。
また無料で自分のホームページが作れる「ジオシティーズ」が開始(1997年)され、趣味に関する情報がインターネット上にたくさんアップされるようになりました。いまでもニッチな情報を検索するとジオシティーズに行き着くことがけっこうありますね。

1990年代後半から2000年代前半にかけての変化を、ぼくは「インターネット」という単語が特殊な固有名詞から一般名詞になったと見ています。

ただたしかに一般家庭にパソコンが普及し、ネット接続も当たり前になったのですが、まだネットはネット、リアルはリアルという別個の存在でした。
そこではパラレルワールドのように人は普段の自分とは別の人格を演じて、他者とコミュニケーションしていたように思います。

企業の公式サイト(ホームページ)もかなりの数ができたのですが、ほとんどはカタログの加工で情報も更新されませんし、何度も見るようなものではなかったです。
ただメーカーの製品仕様が検索すれば見つかるようになったことはすごいことだなと感じました。

ネットはリアルの一部、リアルはネットの一部(融合)

次の大きな変化はケータイです。とくにNTTドコモのiモードの登場(1999年2月)です。その後、auのEZweb(1999年4月)、J-PHONEのJ-スカイ(1999年12月)とケータイによるインターネットサービスが相次いで登場し、いちばん身近なネット端末としてケータイがその地位を確立しました。
ぼくらはいまではメールとウェブの約半分をケータイから利用しています。

ケータイが普及したことによって、インターネットを使う時間と場所の制約がなくなりました。24時間どこでもネットに繋がるわけですから、ぼくらはリアルな世界に属したままネットを使うようになった。たとえば電車で、たとえばお風呂で(防水ケータイもかなり影響を与えていますね)。

インターネットを使うために「構える」必要がなくなったことによって、それぞれの世界がシームレスに繋がるようになりました。そしてようやくネットとリアルはひとつになったのです。

接続時間が増えるということは、インターネット上を流れるデータが増えるということでもあります。メールの通数も増えましたし、ケータイにカメラが搭載されたことによって写真(画像)データもたくさん飛び交っています。
さらにはブログやSNS、ツイッターといったかつてパソコン通信で盛んに利用されたようなコミュニティ志向の強いサービス(ソーシャルメディア)が2003年頃から続々と登場し、インターネットは一部の人にとっての趣味の場(コミュニティ)、多くの人にとっては情報検索の場(データベース)から、徐々に多くの人にとってもコミュニティになりつつあります。

また、10年前とちがうのはやってる側に羞恥心がなくなったというのもあります。パソコン通信の頃はどうしても「ああ、オタクね」という目で見られがちでしたから、わざわざやっていることを公言しない人が多かったのですが、いまは芸能人も素人もブログやツイッターのアドレスを積極的に知らせてますね。

そして消費者がソーシャルメディアを楽しむ傍らで、企業も自分たちのブログやツイッターを開設して、さらにはブロガーイベントと呼ばれるブロガーを集めた製品発表会などを通じて直接的なコミュニケーションを試みるようになりました。
ただしほとんどの企業がうまくいってないのも事実です。少し話が脱線しますが、これは単純な話で、対話をする相手を間違えているのです。有名ブロガーと話すことに意味はありません。ただ顧客と対話をすればいいのです。

うまくいってるかどうかはさておき、企業にとってもリアルとネットを分けて考えることはできなくなりました。テレビCMもネット広告も消費者にとっては同じ広告ですし、家電量販店もECサイトも同じ店舗に過ぎません。
その人にとってそのときいちばん簡単な手段を考えて、すべてをフラットに考えなければなりません。

現在とこれからと

検索の観点で見ると、1990年代後半はサイトの数が限られてたのでYahoo!のようなディレクトリ型で十分だったのですが、無料ホームページをはじめインターネット上のサイト数が増えると人間による分類が追いつかなくなって、Infoseekなどのロボット型検索エンジンが主流になります。そしてさらに情報が増え続けたため、検索アルゴリズムの精度が求められ、そこで出てきたのがGoogleというわけです。

そしてインターネット上のデータはいま現在も増え続けています。ツイッターのように100文字程度のテキストが日々大量に投稿され、最近では「ジオメディア」と呼ばれる位置情報を軸にしたサービスが自分の現在地情報を記録する「チェックイン」というデータまで出てきています。USでは買い物の履歴を公開するサービスまであります。

おそらくまだしばらくはこの流れが続くでしょう。プライバシーへの配慮は必要ですが、自分のデータ(ログ)をどんどん公開し、ネット上にアーカイブしていくことは、性善説で捉えれば便利な世の中を作る材料になりますし、インターネットはどこまでいっても性悪説を前提にした楽観的性善説で進んでいくとぼくは思っています。

これまでのインターネットは「過去」のデータを蓄積し、公開するものでした。しかしもうすでにインターネットは「現在」が共有される時代に入っています。
情報が増え続ければ、それだけ無視される情報も増えます。大半の情報は見向きもされないでしょう。

これからの時代はもっと消費者のそばに歩み寄り、彼らの言葉に耳を傾ける必要があるでしょう。そしてマーケティングの効率を上げるためにも、自社の製品やサービスに関する情報を求めている人を探し、彼らが望むタイミングで提示することに真摯に取り組まなければなりません。

インターネットをうまく使えば、まさにリアルタイムで彼らの不満を解決したり、要望を叶えることだってできるのですから。